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ダンスウィズアームズ  作者: 陣駆
2/30

vs双椀重機

2回 気絶したことがあります。

 脳の血管に血が勢いよく流れる感覚。死をも想起させる、短くも強い痛みで気がつく悠翔。大きく息を呑み、長く吐く。


 目の周りを白い光に包まれていると感じるが、瞬きを繰り返す事しか出来ない。強い光でもないのに、眩しく感じて目を見開けないのだ。

 何度も瞼をしばたたかせて、右手人差し指と親指でこすり、ようやく目を開けられるようになった。睨むように焦点を合わせる。


 息を呑む悠翔。ゲーム筐体と似ている画面内に、CGでは無い、実写映像が映し出されていた。日が落ちたように薄暗いが、4車線以上はある大きく広い道路中央から見ている画像の様で、道路は長く先へ続き、両端に建物や木が見える。建物はよく知るものではなく、西洋の建物に近い感じだった。小型の自動車も何台か道路端に停まっている。

「なにこれ」 

 思わず声が出た。


「どーしたクレファウ、今そっちから凄いノイズが鳴ったぞ」

 なだれ込む情報の整理が出来ず混乱していると、女性の声が鳴り響き、思わず首を左右に振り見回す。

 音声のみではなく、画面右下にヘルメットを被った顔が出た。女性の顔だ。

「な、誰だお前、クレファウじゃないな」「ベッキア隊長、俺ですクレファウです。突然外にいて何が何だか……」「隊長! 思ったより力が強くて抑え込めません! 早く助けてください」

「クレファウか! 外に? リングァは少し待て、すぐに行く」

 立て続けの言葉に、女性一人男性二人の慌ただしい会話だということが判るだけで、悠翔には女性がベッキア隊長と呼ばれていると判る以外、理解出来なかった。


「あー、あれだ! 五人目だ!」


 ひとしきりの会話の後、叫ぶ女性の声が響き渡る。ベッキア隊長と呼ばれている人物の声だ。さらに続く。

「クレファウ、今どこにいるかわかるか?」

「ナルア公園みたいです」

「そんな所へか、出来るだけ急いで戻ってくれ」


 ベッキア隊長が悠翔に話しかけてきた。

「おい君、名前のわからない君、君は、今いるここがどこなのかわからない状態なんだろう? 別の場所から突然ここへ来たのだろう?」

「は、はい」

 驚きながら答える。


「突然の状況変化で驚いているだろうが、落ち着いて聞いてくれ」

「はい」

 悠翔は、そう答えた後に唾を呑んだ。

「名前は? 名前を教えてくれ」

「悠翔です」

「悠翔君、君はその機体の操縦を、ある程度推察出来るはずだ。それが出来る者だからこそ、ここにいるのだろうし」


 目を見開く悠翔。しかし確かにこの両手にあるレバーは、ゲームのダンアーと大差は無いものだと瞬時に理解出来ていた。ゲームの物とは違う、その重厚感に驚いてはいたが。

 改めてレバーの感触を確認しながら、ふと左側の小さな画面に簡略化した人型の線画の様なものが表示されていることに気づく。それはゲームのダンアーにもある、自分の操作する機体各部の状態を表示するものと似ている。思わず二度見して声を上げて聞く。

「こ、これ人型兵器なんですか?」

「ああ、そうだ。お前さんも好きなんだろう? 空覇も大喜びして乗っていたからな」

 空覇という日本語らしき言葉に驚く悠翔。小首を傾げる。


「目の前の画面に、向かってくる移動物体があるだろう、それを停止させて欲しい。君なら冷静に判断して対応出来るはずだ。代わりの者は間に合いそうもない。頼む」

 続く、ベッキアの声。

 向かってくる移動物体とは、はるか前方にいる双椀の物体だろうと悠翔は認識した。画面を赤い枠が動き回っている。それが自身の視線の動きと同期していることもすぐに理解出来た。ゲームのダンアーにも使われている、視線入力という技術だ。


 双椀の物体は全体が薄い黄色で、テレビ番組で見たことのある双椀重機に酷似しているが、それよりも大型だ。見える状況から警察車両と思しき、緑色のランプとオレンジ色の回転灯を点滅させる小型車両。それを長い椀で掴み飛ばしているところだった。その動きは驚くほど滑らかだ。

 最下部に、前後に分かれた無限軌道が左右に装着されている。その上の車体は角の取れた丸みのある箱型で、中央から長方形の操縦席のようなものが突き出ている。その少し後方左右に大きな椀が付いていて、その双椀の先端には、片側二本片側三本の大きく長い爪の付いた、物を掴む為の部品が付いている。悠翔が知っている双椀重機は片方が切断用のハサミの用な物だったが、画面に映るものにはどちらにも物を掴む為のものが取り付けられていた。


「クレファウ、飛ばされる前の状況を教えろ」

「短剣を装備して、行動選択も入力した状態でした。後は操縦席後ろ上面にあるメインコンピューター部分を破壊すれば停まるはずです。双椀が邪魔で困難だと思いますが、腕は冷静に斬り飛ばせばいい、腕は薄いから一撃で斬り落とせますよ」 

 荒く息を吐きながら、ベッキアに答える男の声。


「聞いたか悠翔君、短剣を使う時は、右レバーの親指左横にある白ボタンスイッチを押しつつ、右レバー一番上のボタンカバーをはね上げて押せば赤い枠へ攻撃する。あー、画面の赤い枠は視線で動く。視線で赤い枠を動かし、右レバー上から2番目のボタンを押して固定する。目標は操縦席後ろ上面だ。そこを破壊すれば停止するはずだ」

 悠翔はその声を聞きながら、レバーのボタン位置を指先で軽く触れながら確認する。さらに続くベッキアの声。

「相手は君がいる後方にある施設へ突入して、破壊しようとするプログラムだ。人は乗っていない。上手く近づいてなんとか停止させて欲しい」

 情報の洪水に目がくらんで顎が上がるが、鼻息を吐き抑える。人は乗っていないという言葉もしっかりと脳に刻み、正面画像に見える双椀重機を見据えての深呼吸。


「少し機体を動かしてみてくれ。全ての操作はゆっくりとな。跳躍は慎重にしないと建物へ飛び込むことになるぞ」

 言われて、悠翔がレバーと足のペダルをゆっくりと操作すると、機体が動き出す。確かにゲームのダンアーと同じように動かせると感じる悠翔。動く時の操縦席全体に響く軽い振動はゲーム筐体には無い新鮮なもので、興奮して鼻息が漏れ、頬が緩んだ。

 慎重に低く垂直跳躍を試す。上下する操縦席に笑ってしまう悠翔。

「出来そうか?」

 ベッキアの声。

「はい、慎重にやれば出来ると思います、いや、やります」

「そうか、さすがだな、こちらが済めばすぐ行く、無理せず時間を稼ぐだけでもいい、頼む」

 通信は終わった。


 ゆっくりと直進してくる双椀重機を凝視し続け。画面から感じる距離感を推し測って機体の操作を思索する。画面のあちこちへ視線を巡らす悠翔。

 眼前に広がる道を、双椀重機が小型の車両を押しのけてこちらへ向かってくる。大きく振り上げられる重機の双椀。素早い動きとその高さで、悠翔の乗る機体を威嚇しているようだった。

 悠翔の機体と双椀重機の間には何も無い、悠翔はゆっくりと双椀重機に向かっていく。


 ほぼ目の前まで到達したその時だった、双椀重機が勢いよく右腕を突き振り下ろしてくる。

 反射的に機体を操作して左へかわす悠翔。その突き出しの速さに驚いて、後方へ跳び退き距離を取り、息を吐く。

 近づくと、またしても機械的な反応で右腕を突き振り下ろしてくる。


 瞬時に反応して左側にかわしつつも前方へ跳び込み、視線を繰り出された右前腕部分に固定してレバーのボタンを押す。即座に機体が揺れ、その反応の速さに悠翔の顔が強張る。

 目の前の画面に白い火花が瞬いた。

 突き振り下ろされる重機の右前腕に対して、目にもとまらぬ逆手斬りで振り切ったのだ。接触部、突き出された右前腕は離断した。真っ赤に熱を帯びている切断面。双椀重機の右前腕が宙を舞う。

 それが地に落ちるのと同時に左前方へ着地し、双椀重機の方へ向き直す悠翔の機体。


 しかし、悠翔の機体は右へ吹き飛ばされる。重機が驚くべき速さで車体上部を左旋回させ、振り向いた悠翔の機体の左横腹へ、伸ばした左腕を叩きつけたのだ。


 飛ばされた悠翔の機体は、道路際の小型自動車を弾き押し潰しながら、建物に突っ込んだ。舞い上がる白煙。

 悠翔の身体は大きく振られたが、シートベルトのおかげで意識もある。激しい警告音の中、画面に映される機体立て直し操作要求の文字。見たことも無い文字なのだが、何を意味するのか判るという不思議さに驚きつつも視線入力で選択し、ボタンで決定する。素早く自動で立ち上がる機体。

 立ったことを確認してすぐに、右後方へ跳ばす操作をする悠翔。距離を取る。


 双椀重機も、車体下部を超信地旋回して、悠翔の機体の方を向き、再び両腕を振り上げる。そして二の腕に一体化していたもう一つの腕が、肘にあたる関節部を軸に下から上へ回転して出て来た。その先端には先の尖った杭のようなものが突き出ている。それが高速に前後することでコンクリートなどを砕くための、油圧ブレーカーだろうということが、悠翔にはすぐ理解出来た。

 軽くめまいがして目をしばたたかせる悠翔。深呼吸。引きつる顔。

 息を止め、奥歯を噛みしめて機体を前進させる。

 突き振り下ろされる重機の左腕。


「なめるな!」

 悠翔は絶叫し、低く右前方へ跳躍しながら機体を左旋回させ、重機の左腕二の腕に下方から斬り上げる。重機の左腕二の腕は離断した。重機の方を向いて着地して滑る悠翔の機体と上がる砂煙。切り落とされた重機の左腕が地面を大きく跳ねた。

 重機も即座に超信地旋回で相対してくる。振り上げられる重機の右腕。それに惑わされることも無く、重機に対して走り、大きく跳躍。

 重機の操縦席部分を機体腹部で押しつぶしながら、その後ろ上面に短剣を突き立てる。

 停まらない重機。

「あわわわわわわわわわわわわわわ」

 激しく振動する悠翔とその声。機体に重機の右腕、コンクリートなどを砕くための油圧ブレーカーに似たものの先端が、悠翔の機体背部に突き立てられたのだ。その振動は舌を噛み、脳震盪を起こしそうな程に激しかった。

「停まれぇぇぇえ!」

 振動に堪えながら、何度も短剣を突き立て、何度目かの果てにようやく白煙と黒煙が同時に噴き上がり、大きな振動の後、重機が停止した。


 大きく息を吐き、レバーを握る手を緩めながらうつむく悠翔。息が荒い。


「悠翔君、大丈夫か?」

 ベッキアの声。

「終わりました。今、停止させました」

 顔を上げて話す。

 少ししてベッキア隊長の声が返ってきた。

「ああ、テレビ映像で確認した、さすがだな。しばらく動かずにそのままでいてくれ。指示する者が来るから、来たら従ってゆっくりとついて行ってくれ、通信が入るはずだ」


 しばらくすると、白と灰色と薄い緑のドット柄の迷彩服の男が小型の二輪車に乗って現れ、こちらに手を振っているのが見えた。そして通信が入る。

「ゆっくりと動かして、俺について来てくれ。ゆっくりだぞ」


 ついて行くと双椀重機が向かっていこうとしていた施設だった。小銃を携えた迷彩服の兵士が何人もいる。大きく門が開き、中へ進む悠翔。

 中はとても広く、建物も多く建てられていた。 広い道を左へ進み、奥へ向かうと倉庫のような建物があり、片側が大きく開いていた。機体を操作してゆっくり中へ入る。

 「その奥の壁際に停めてくれ。隊長たちもすぐ来るから、降りてくれないか」

「はい」

 そう答えた後、どうやって降りるのか聞くのを忘れていて少し慌てるが、また聞くのもなんだなと思い、悠翔は周りに視線を巡らせた。


 はたと気づく。降りる為の搭乗口の解放を入力する場所は、座席の近くで手の届く範囲だろうことは容易に想像できる。うっかり押されて開いてしまっては困るだろうから、二つ押しや長押しになっているだろうことも悠翔には判る。あちこち触った果てに、それに合致するものが見つかった。凸の黄色ボタンの上面に面一で押し込むボタンを示す赤色の囲みがある。見たことの無い文字は「搭乗口開閉」の意と感じた。読めるというより感じるのだ。

 押す悠翔。果たして目の前にあった画像表示板がゆっくりと上部に収納され、空気を吐き出す短い音と共に、ほんの少しだけ座席の周囲が持ち上がる。そしてゆっくりと上昇を開始した。

 暗い光と空気が入り込む。


「狭くね?」

 驚いて声が出る。

 上昇はすぐに止まり、開口部はどう考えて狭い。60センチあるかないか位であった。


 身を乗り出してみると高い。下まで5メートル程はありそうだ。中央に白い箱のようなものが突き出ている。操縦席の足を入れていた部分だと推測する。

 機体各部の凸凹に足を掛けられる感じはあるが、このまま降りるのはさすがに怖く、何かないかと見回すと、上から取っ手が降りてきているのが判り掴んだ。安定感は無く左右に揺れる。

 悠翔はすぐに気が付いた。所謂ロボットものアニメでよくある、ワイヤーを使ってコクピットからの昇り降りする為の装置だ。それは足をかけて降りるものが多かったが、これはどうやら違うらしいこともすぐに判る。

 親指でまさぐると前後の突起。それが昇りと降りの選択ボタンだろうことは明白だった。後ろのボタンを押すとじわりと引ける。手前を押すと上に引かれた。

 身を乗り出し、機体の突起に足を掛け、短く後ろのボタンを連打しながらゆっくりと取っ手を引き出して降りる。下を見る悠翔の顔は強張っている。


「おいおい、腰が引けてるぞ!」

 不意に下から男の声が投げかけられ、驚く悠翔。続いて笑い声が上がる。

「気にするな、慎重に降りてくればいい。お前さんなら出来るよ」

 その声は、下からこちらを見上げている金髪で短めのポニーテールの女性からの声で、彼女がベッキア隊長なのだろうと認識した。

 服装はアニメに出てくるパイロットスーツとたいした違いは無いもので、灰色と白で色分けされている。腰の右側にはヘルメットが取り付けられていた。


 慎重に降りる悠翔。

「うわっ」

 しかし足を滑らせ、人型機械の両足の間にぶら下がってしまう。

「馬鹿、慌てるなと言ったろ」

 ベッキアの声だ。悠翔の足を掴んで揺れるのを防いでくれた。

 男の笑い声を背に、ボタンを押してゆっくり降りる。


 両足が地面に着くと悠翔は緊張が解け、力が入らず尻もちをつく。

 立ち上がれず、ため息を吐く悠翔に投げかけられるベッキアの声。

「ようこそ、アクスリア宇宙居住地へ」

 手袋を外して腰で拭き、細く白い指の右手を差し出してきた。

 戸惑いつつも右手を上げた悠翔の右手を取ると、ベッキアは悠翔を引き寄せ立たせ、悠翔の耳元で言葉を続ける。


「五人目の救世主さん」


何故なら俺は

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