シリコン膜吸着方式
サルギィが現れ、携帯端末を出せと言われたので出して起動すると、更に促されて、なにやらをダウンロードすることになった。
使い慣れず戸惑っている悠翔から、サルギィが端末を奪うと手早く画面操作をして、フイルム画面を広げた状態にしてから悠翔に返す。
広げられた画面には、ゲーム画面の様なものが映っていた。
「端末じゃ無理だから動画ボードに繋げてボタンも付けてくれ。操作の説明も入ってるから、今日中に操作を覚えておけよ。明日の夜から俺と対戦するからな」
目を丸くして、口をすぼめている悠翔の顔。
「なんだよその顔、タルートの仮想訓練を模したゲームだよ。ルークルが作ってくれたんだ」
悠翔の背中を叩いて、掌で前方を示す。その先には太い腕を組んだ強面のイラディムと、小柄な少年がいた。いや青年か。
「操作方法も全然違うし、昨日みたいな小細工の罠も出来なくて、ただ単に撃ち合うだけだが結構いい訓練になるんだぜ」
サルギィの言葉を聞きながら、悠翔は端末の画面を見る。
「仮想訓練では、全体の底上げをしたいということもあって連戦しないようにしているが、悠翔とはゲームででももっと対戦したいと思ったんだよ」
サルギィと目を合わせる悠翔。
「じゃあ、明日からな」
そう言って去る、サルギィ。
「え、サルギィさん、僕とは?」
ルークルがサルギィに首を出して聞く。
「ルークルは、何度か俺に勝てるようになったし、後はイラディムとの対戦で10連勝とかして凹ませてやってくれ」
そう言って笑うサルギィに、イラディムは顔をしかめているように見えた。
一行が去ってから、慌ててスグニィスに聞く悠翔。
「動画ボードのボタンてなんですか?」
「ああ、動画ボードに貼り付けるボタンがあるんだよ、ゲーム用に。部屋のどこかに片付けてある箱に入っているから、探してみな」
それから食事を続けるが、はたと気づいた悠翔が声を上げる。
「あれ? 撃ち合うゲームあるじゃないですか?」
「ああ、でもそれは個人で作ったゲームだろ。メーカー製としては出せない雰囲気なんだよ昔から。それにそういうのを好むのは極々一部の連中だし」
即答されて怯みつつも頷く悠翔に、スグニィスが続ける。
「前にも言ったけど、車のレースゲームはプロリーグが出来るほどに人気でさ。その理由は、ここ、この宇宙居住地じゃ、車は物理的にスピードを出せないからだと思うな。だからその代わりにゲームで楽しんでるのさ」
昼食を終えて再び実機の訓練へ戻る。午前の終わり際に悠翔も手伝った障害用の大きな箱組みがいくつも立ててある。巨大な板をタルートで持ち出して連結していったものだ。板の要所を確認して指定すれば、自動で連結していくので操作に手間取ること無く組み上げられていった。
タルートが隠れる程度の高さで、長い長方形や正方形がいくつもあり、L字の板だけの所もわずかだがある。
集まった隊員の前で、訓練の概要を説明するベッキア。2名ずつの組で模擬戦を行うということで、使用するのはライフルのみ。擲弾や発煙弾は使用せず、識別可能な代用弾のタルートへの着弾箇所や重なりで、機体の破壊判定がされるということだった。
「いきなりの2対2の対戦だが、自機と僚機が共に生き残れるよう、まずは自分たちで考えてやってみろということだ。採点及び指導は明日の午前に行う」
制限時間もあり、決着がつかない場合は大幅に減点のうえ、代用弾の着弾数などで勝敗を決するという。
「低い跳躍は可能にしたが、障害壁への接触は減点。倒壊は大減点だ。過剰な無駄撃ち、失中、誤射も減点する。緊張感もってやれ。他の者はタルート同士の間隔をあけて離れて待機。流れ弾に当たったら減点するから気を抜くなよ」
ベッキアの説明が終わり、悠翔達は再びタルートに搭乗した。
タルートの中で、他の隊員たちの模擬戦を見る悠翔。空にはいくつもの小型の回転翼機が飛んでいて、その撮影動画を見ることが出来る。
タルートのライフルから撃ち出された代用弾は、機体によって様々な色で、壁に当たると小さな丸い円盤状に貼り付いた。
「へえ、ペイント弾じゃないんですね」
スグニィスだけに通じる回線で話しかける悠翔。
「午前の訓練で、射撃は省いたから悠翔は初めて見るんだな。あれは片付けるのが面倒なんだぜ」
悠翔たちの番が来る。組むのは当然のようにスグニィスだ。
「地形の全体図が先に見られるのなら、どうすればいいか見当つきますよ」
画面に示された、障害壁の配置図を見ながら言う悠翔。その詳細を話すと。
「え、俺は出しゃばるなってこと?」
そう言って、不満顔のスグニィス。
「そんな上から目線なわけないですよ。ちゃんと、スグニィスさんにも見せ場がありますから」
更に話していくと、スグニィスも納得したような顔をした。
「相手の技量にもよりますから、ダメそうならすぐ伝えます。その時は自分でなんとかしてくださいね。何か案があるなら聞きますけど」
模擬戦開始と共に、悠翔は相手のタルート1機と積極的に交戦していく。壁の陰から撃ち、防御波弾による防御を利用して近づいていった。
時折、スグニィスのタルートの方へ行こうとする別の1機にも発砲して牽制するが、当然その隙を突かれて撃たれる。浴びる代用弾を最小の動きでかわしていく。
激しい機体の動きに、引きつる悠翔の顔。
しばらくすると2機を相手にする状態なっていた。通りの左右壁陰にいるタルートを、交互に攻撃する悠翔。時折スグニィスも応戦するが、悠翔のタルートから離れた後方だ。
そして弾切れ。しばらく撃たずに、避けながら後方へ低く跳ぶ。相手から見える状態で弾倉交換の動作に入る悠翔。スグニィスのタルートは悠翔より先に後方の壁陰に隠れ消えた。
タルート2機が身を乗り出して攻撃して迫ってくるが、悠翔は必死に左右に避ける。移動中の為か弾倉交換の動作が鈍い。なんとかかわし続け、壁陰に隠れた。なおも進んでくる2機。
その時だった。2機の後方からスグニィスのタルートが身を乗り出して銃撃する。2機は避けながら反転して反撃するが、そこへ弾倉交換を終えた悠翔が躍り出る。
スグニィスのタルートは2機の後方へ回っていたのだった。
挟まれた2機のタルートは、長めの長方形の壁に阻まれ、壁陰まで逃げられない。壁から壁へ避ける2機を悠翔とスグニィスが挟み撃つ。
「なるべく斜めに撃ってくださいよ。俺に当たりますから」
悠翔がスグニィスに叫ぶ。
2機のうちの1機が、避け跳んだ時に壁に接触。慌てたのか即座に離れる跳躍をするが、もう1機のタルートに激突してしまう。
よろめく2機のタルートに、悠翔とスグニィスは1機づつ連撃して仕留め、この模擬戦に決着がついた。
全ての模擬戦が終了し、タルートのコクピットにベッキアの声が響く。
「よし、終了だ。代用弾の回収を始めろ」
悠翔がスグニィスに詳しく聞く。
「まずはタルートで高い位置に貼り付いたものを剥ぎ落として、落としたものは降りて回収、色別に分けて回収箱に入れるのさ。砂の付着は気にしなくていいが色は混ぜるなよ。あると連帯責任で減点されるからな」
タルート用のヘラの付いた棒で貼り付いた代用弾を削ぎ落していく。それが全て終了したのを全員で確認し、格納庫で降りた。そしていくつもの大きな袋を持って、削ぎ落とした代用弾の場所まで走っていく隊員たち。
回収してて詰め込んだ袋を背負って、格納庫へ戻る悠翔。回収箱へ入れているスグニィスに近づいて話しかける。
「なんで自動の機械で回収するとか、整備の人たちが回収してくれるとか無いんですか? せめて移動する為の小型車とか無いんですか?」
まくしたてる悠翔に、スグニィスが笑いながら答える。
「これも訓練なの。確かに疲れるけど、そのおかげで今日の体力練成は無いんだから我慢しろよ」
夕食も済ませて住居へ戻ると、シムカがテレビを観ていた。
「シムカ様、なんで来なかったんですか? 俺も呼ぶの忘れてましたけど」
「うるさい、今いいところだから話しかけないで!」
シムカに怒鳴られて黙る悠翔。静かに歩きながら、部屋の戸棚をいくつか開けて、動画ボードの箱を見つけた。
小さな袋に、ボタンがいくつも入っている。 ボード上部に貼り付けるボタンだ。コの字のものもあり、ボード上部の縦横に挟み付けることで人差し指で側面のボタンを押せたり、ボード背面に配置したボタンを中指で押せるように出来る。スライドするスイッチもあるが、携帯をつなげて動画ボードで説明を読むと、サルギィから受け取ったゲームには使用しないことがわかった。
一人用のモードがあるので試してみる悠翔。複数の敵機体と交戦する。敵機体はタルートでは無く、悠翔の世界のゲームに出てくる様な角ばった形だ。難易度は高くない。
しばらく遊んでいると、シムカが肩につかまって覗き込んできた。
「またそんな野蛮なことしているの?」
「シムカ様、何を見ていたんですか? ニュースじゃなかったみたいですけど」
「そうなのよ、なんだか第一部一挙放送って何度も宣伝してるから、たまたま見ちゃったんだけど面白いのよ。大富豪の令嬢が、大企業の子息と恋に落ちて婚約するんだけど、婚約者が研修中に紛争に巻き込まれて行方不明。それで、なりふり構わず紛争地に行ったら、婚約者は記憶喪失で別の女性と付き合っていたの。それでマラソン対決することになって勝利するんだけど、そこから紆余曲折あって宇宙の平和の為に七色の鉱石を探しに行くことになるのよ。そうしたら、さっきの回でブラックホールに飲み込まれちゃって。これからどうなるのか気になって眠れないわ」
悠翔は「紆余曲折」が非常に気になったが、適当に頷いてやり過ごした。
考えなしに動画ボードと書いちゃってましたがタブレット端末ですね
タブレットってお菓子を思い出して無自覚な拒否反応があったみたいです
ゲームで使うつもりじゃなかったのであまり考えて無かったんですが
二つ折りに出来るものに直したいかな




