マンセルのおもひで
遅れてすいません
朝食と朝礼を済ませ、悠翔はスグニィスの後ろに続いて建物の外へ出た。
契約の日にベッキアのいる場所へ行った建物、すなわちタルート実機に搭乗して訓練する場所へ向かう。二人を含めて11名の速めの歩み。
振り返って悠翔の顔を見たスグニィスが、笑いながら話しかけて来る。
「そんなに楽しみか、でも仮想訓練機みたいな派手なことは出来ないぞ、安全にうるさくて跳躍も制限されているしな。仮想訓練機のように好き勝手には動かせない。基本操作の確認と後は……」
「後は何です?」
悠翔の問いに、答えるスグニィスのにやけ顔。
「すぐに体験出来るさ」
建物内へ入ってすぐの一室でパイロットスーツに着替える。悠翔用の大き目のロッカーも用意されていて、開けると白とグレーで色分けされたスーツが吊るされていた。服を脱いで着てみる悠翔。左二の腕に幅広いオレンジのラインは薄いテープが巻かれた感じだ。首の部分は全体を覆う厚みのある筒状で、最上部外側に金属のリング。首後ろは更に一段厚みがある。何度か顎を上げて首を回す悠翔。硬くは無く首は自由に動かせた。足先は厚めの靴下のような形で、専用の靴を履く仕様だ。
「サイズは問題ないな。ヘルメットも被ってみて」
スグニィスに言われて、ヘルメットを手に取った瞬間、目を見開く悠翔。
「軽いですねこれ」
そう言いながら軽く叩いた後に頭に被る。少し左右に振ると、小さく金属音がしてヘルメットとスーツの首元が繋がった。
再度、顎を上げて首を回す悠翔。問題は無い。
スグニィスに教えられ、ヘルメット右側面の面一のスイッチ上下二つを、人差し指と親指で押すと短く音が鳴り、長押しするとバイザーがゆっくりと開いた。
スーツについていろいろ教えられる悠翔。酸素を供給する袋と二酸化炭素を吸着する袋があるが、普段は外気導入で使用するということや、手袋の外し方等。センサーによって酸素が無い状態では、外したりバイザーを開けることが原則出来ないということだった。
「これって宇宙服なんですか?」
「んー、まあ、宇宙にも対応可能なパイロットスーツって感じだな。宇宙服はもっとちゃんとしたのがあるから」
スグニィスにヘルメットの外し方を聞く。ヘルメットの側面を両手で掴み、両親指の位置にある後方下面にあるスイッチを長押しすると、ヘルメットとスーツの結合が外れる。
ヘルメットを脱ぐと、既に部屋には悠翔とスグニィスの二人だけだった。
「さ、急ぐぞ。隊長は時間に厳しいからな」
そう言って足早に出ていくスグニィスに、悠翔もヘルメットを抱えてついて行く。
狭い通路と分厚い扉を経て、タルートが訓練していた広い部屋へ入る。タルートは見えず砂地が広がっているだけだ。
ヘルメットを右腰に取り付け、横に並ぶとベッキアが前に立ち声を上げる。基本操作訓練後に資材搬入で障害壁の設営をし、午後からはペイント弾による射撃訓練を行うということだった。
「以上、くれぐれも受傷事故等の無いようにな。スグニィスと悠翔はここに残れ。よし、訓練開始。準備出来たら私の指示があるまで待機」
ベッキアの声に各隊員が敬礼し、悠翔とスグニィスを残して奥へ走る。
走っていく隊員を見ている悠翔が驚いて声を上げた。ベッキアに抱きしめられたのだ。飛び上がって振りほどく悠翔。身構える。
「久しぶりだな。評判は聞いてるぞ、さすがは救世主」
「久しぶりって、隊長なのに、なんで朝礼に出てないんですか?」
にこにこ顔のベッキアを睨みつつ聞く悠翔。
「んー、私はこっちで朝早くから、整備班に機体の点検の指導と確認があるから仕方ないだろ。なにより狭苦しい部屋で男臭いのも嫌だしな」
その答えに顔を上げる悠翔。わからなくはない。
「それで、俺はどうすればいいんですか?」
ベッキアの返答は、スグニィスに従って基本訓練をしろということだった。
「悠翔なら問題ないと思うが、一応、規則だからな。短縮で確認する。スグニィスの指示に従ってくれ」
悠翔がチラ見すると、スグニィスがにやけている。
「よし、行け。私も見ているからな、ちゃんとやれよ」
両掌を合わせ打つベッキアに、敬礼してから奥へ走るスグニィス。悠翔も続く。ベッキアの投げキッス。
悠翔が走りながら見るその先、奥の壁の分厚い扉開けられていて中が見えている。タルートがある格納庫だろうことは悠翔にもわかった。
「こっちだぞ」
手で招くスグニィスがいるのは壁側の離れた所、人が入る高さの扉だ。
庫内はかなり広く、入ってからの前方奥にはリフトらしきものが何台も停められていて、板材の様なものが大量に積まれていた。
タルートは左側奥、開いた扉側にあり、横並びに3機づつ4列に立っていて、両肩内側を天井から伸びた円柱の先の保持具で固定されていた。タルート用のライフルも天井からの保持具に留められて壁側に吊り並べられている。
先に行った隊員たちは、既にタルートに乗り込んでいるのか見えない。小走りで行く二人。
スグニィスについて、最後尾のタルートへたどり着くと、傍らにいた作業服にヘルメットの整備員らしき者が、悠翔に話しかける。
「ご苦労様です。これが機体の状態です。確認お願いします」
そう言われて戸惑う悠翔。渡されたボードにはいろいろな項目があり、黄緑の地色に白で数値が表示されていた。
「ここではそれを見たことを確認するだけでいいんだよ。ほら、ヘルメット被って」
駆け寄ってきたスグニィスに言われて、ボードの右下を人差し指で押すと、整備員は一礼して離れていった。
ヘルメットを被ってタルートを見上げるが、コクピットは開いておらず直立している状態だ。
スグニィスに教えられる悠翔。スーツの右手前腕を操作すると文字画像が浮かび、選択入力することでハッチの開閉が出来るということだった。
言われた通り操作すると、タルートの胴体中央と、両肩を掴んでいる保持具が上昇し、乗り込み用の取っ手の付いたワイヤーが降りてくる。
「え? 乗る時は乗り易いように梯子とか無いんですか?」
「あるけど、まずは梯子無しで乗り込めるように訓練するんだよ。無い時に乗り込めないと困るだろ」
顔をしかめる悠翔にスグニィスが続ける。
「たいしたことじゃないだろ」「落ちると死にますよね!?「死なないから!」
しふしぶ上る悠翔。言われた通り、タルートの左足から上る。
「あれ? このスーツの手と足が滑らなくて思ったより楽ですね」
そう言いながら、悠翔はなんとか、タルートの狭い開口部から乗り込んだ。身を乗り出して、ヘルメットのバイザーを上げる。
スグニィスに閉じるスイッチの場所を教えられ、閉じてからしばし待つこととなった。仮想訓練機と同じなので起動してみると画面が映り、前方のタルートが庫外へ出ていくのが見える。
スグニィスのタルートから通信が入り、機体のチェックを指示されて確認をしていく。意外と時間がかかり、前方のタルートは全て庫内から出て行っていて見えなくなっていた。
「よし、始めるぞ。大丈夫だとは思うが乱暴に動かすなよ」
タルートへの肩の保持具が外れ、ライフルが壁側からスライドしてくる。スグニィスに言われた通り操作してタルートの右手で掴むと、銃前下の取っ手を左手で持ち、胸前に構えた。
前進するスグニィスのタルートに続いて行く悠翔のタルート。ゆっくりと歩いていく。
庫内を出ると左奥にタルートが集まっているのが見えた。スグニィスは直進するので悠翔もついて行く。
「銃に弾が入ってますけど、ペイント弾か何かですよね? 使用不可となってますけど」
装備の確認をしつつ聞く悠翔。
「ああ、隊長の許可が無ければ撃てないってことさ。仮想訓練機の様に好き勝手にはいかないって言ったろ」
格納庫から直進して壁の近くで停まった。壁は真っ白な斜めの格子模様の厚みのある柔らかそうなもので、かなり高い位置まで覆われている。
「場所はこの辺でいいだろ。じゃ、まずは基本操作の確認。悠翔にこんなことをやらせるのは馬鹿馬鹿しいけど、決まりだからな」
スグニィスの命に従って、基本的な動作の確認をしていく悠翔。低く短いが跳躍も出来て、着地からの反転移動などをこなす。
「よし、合格。まあ当たり前だな。……そして、いよいよ次だな」
「なに、ニコニコ笑ってるんですか?」
悠翔の問いに、笑いながら答えるスグニィス。
「画面に示されている動きを自動でやるから、その動きに耐えながら画面に映る指示された場所に視線を合わせる訓練だよ。何段階かあるから、全てこなしてくださいな」
示された画面を確認しつつ、顔をしかめる悠翔。
「舌を噛まないように。それから吐くなよ、吐いたら自分で掃除だからな。では開始」
スグニィスの言葉が終わると、悠翔のタルートが自動で動き始めた。
顔が強張る悠翔。
悠翔のタルートは、少し前進してから低い跳躍をしながら左へ旋回し、着地するや後方へ跳躍する。更に続く急反転、急制動、急加速。
思いのほかに速い動きで、座席に押し付けられる悠翔。パイロットスーツの首後ろから背中にかけての部分が硬くなるのを感じながら、悠翔は歯を食いしばる。
そんなことが何度も続き、午前が終了した。
食堂にいる二人。
悠翔は、いつぞやの黒いカレーの様なものを前に、大きくため息を吐く。少ししか食べていない。
「なに、そのため息。食べるのも遅いし。まさか疲れちゃって食欲ないとか?」
にやけながら言うスグニィスを、鼻の穴を広げてにらみつける悠翔。
「だから、さっきも聞きましたよね。あの最後の方の、大ジャンプしながらの連続横回転とか、前宙三回転とか、意味不明ですよね? 戦闘では使わないですよね?」
身を乗り出す悠翔の問いに、少し身を引きながら笑うスグニィスか答える。
「分かったよ言うよ、あれはベッキア隊長が作ったプログラムだから、文句は隊長に言ってもらわないとな。俺は、悠翔は体力あまりないですよ、と言っただけだから」
睨む悠翔に続ける。
「降りたら実機での訓練が主体になるから、体力つけろよっていう、隊長からの愛のムチだよ」「いらないですから!」
そう声を上げた後に、身を引いて横を向く悠翔に声が響く。
「よう、悠翔、ちょっといいか?」
右手を上げて聞く声の主は、サルギィだった。
大昔にマンセルの運転を再現したシミュレーターに乗ったんですよ、名古屋でやったイベントで。
マンセルの車載動画に合わせて動くんですが、ドグミッションの変速ショックの再現が凄いのよね。
シフトダウンの連続ショックは、逆に緊張感出ていいのかなと思う位激しかったんですよ。




