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ダンスウィズアームズ  作者: 陣駆
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なんとかなるなる

いや、あのですね……

「なんとかしようぜ!」

 そう、ゆっくりと小さく独り言を発したのは、全身が映る細長い鏡の前で両頬を叩き、右手の親指を突き出した少年。

 少年は、20XX年7月28日の名古屋市郊外の庭付き一戸建て。表札には緋迹とある。ひあとと読みます。その一戸建ての二階の部屋にいた。


 息を大きく吸って吐いた後、部屋を出て階段を駆け下りると声が飛んでくる。

「悠翔、静かに下りろって言ってるでしょ!」

 若い女性の声だ。はるとと読みます。

「姉ちゃんだってたまにやるだろ」

 言い返す少年、悠翔。

「出かけるの? あ、またゲームセンター? 家でも出来るとか言ってたのに何で行くのよ?」

「家のネットだとわずかとはいえ遅延があるし、いろいろ違うからゲーセンの筐体でやりたいんだよ、来月末の大会に備えたいからね」

 少し気を使って静かに歩きつつ答える。

「高校2年の夏休みにそんなことやってていの? あ! そういえば、この間貸した千円まだ返してもらってなかったわよね?」

 悠翔は答えず、唇をすぼめながら、大急ぎで靴を履く。

「おいこら、悠翔!」

 背に浴びる姉の声、玄関ドアを盾のようにしてその声をはね飛ばすように閉め、しっかりと鍵を掛けて外へ出た。


 暑く厚い夏の空気を切り裂いて、悠翔はケッタマシーンこと、どこにでもあるごく普通の自転車を漕ぎ走らせる。名古屋市近郊の上に広がる青い空と白い雲の下を一直線に。


 暑さにへこたれながら、15分程かかって目的のゲームセンターに到着した。メーカー直営の中規模店だ。

 右手で額の汗を拭い払ってから、自転車に鍵を掛けて中へ入る。身に染みる冷風に鼻息が漏れる。喧噪の店内。騒音をかき分けて進み、目的のゲーム筐体のある一角へ到達した。その入口の手前左端に大きくポスターが貼られている「ダンスウィズアームズ」ゲームの名前だ。


 大きな筐体が6つ、背を向けて並んでいる。箱型の大き目の筐体で、1台で2畳ほどのスペースを占拠している。詳しく言うと縦1・7m×横1・8mで高さ2m程です。扉のある側は透明な板で囲われていて中が見える。

 部屋の奥には大き目の液晶モニターが縦に3台並び、各筐体の対戦を映し出していた。


「おお、エイバース。来てるぞ、静岡の三傑が。リンクス、ガゼル、ピューマのそろい踏みだ」

 部屋の手前右側にある、休憩用の長椅子に掛けながらそう話しかけてくるのは知人のパイロットネーム、ジール。エイバースは悠翔のパイロットネームだ。かなり年上だと思われるが年齢も本名も知らない、20代後半か30代のゲームを通じて知っているだけの仲の良い知人。


「ホントに!? 久しぶりだな」

 驚く悠翔。静岡の三傑は、何度も対戦している大学生と思われる年上のグループだ。驚きながらも目を輝かせる。 

「いい感じで戦えるから、楽しいんですよね」

「いつも接戦で、見てる方も面白いからな」

 悠翔の言葉に頷くジール。


 しかし対戦が続いているので、空くまで待つしかない状態だ。筐体の周りは対戦を見物する者で囲われている。仕方がないので休憩用の長椅子のさらに右奥にある、ゲーム関連の情報を流しているモニター画面をなんとなく見る悠翔。その映像の内容は関東地区予選の映像で、ジェイクープとマツバラの対戦の結果を報告するものだった。


「おっ、凄かったな、マツバラとジェイクープの試合。クープが勝ってくれて本当に良かったよ。ダンアー始めて半年ちょいのマツバラに負けたらたまったもんじゃねえ。クープはさすが去年の全国大会優勝者だけあって強いな」

 ジールのその言葉に、悠翔は両目を閉じた。

「マツバラもこの後に別地区で大会参加の権利を獲ったらしいが、来月の全国大会でもクープに勝って欲しいな」

 そう言って悠翔に目をくれたジールが、慌てて付け足す。

「そういえばエイバースも全国大会出るんだっけ。応援するから頑張ってくれよ」

 その言葉に視線を斜め下にして、ため息を吐く悠翔。


「お、空いたぞ」

 ジールの声。手前の筐体の対戦が終了し、負けたプレイヤーが、首を振りながら扉を開けて出て来た。


 悠翔が空いた筐体に近づくと、周りの少年や青年たちが悠翔を見ながら手を筐体に向けて扇ぎ、対戦を促した。悠翔は軽く頭を下げ、扉を開けて中に入る。

 中央にある椅子に座ると、眼前に上下左右180度の大きな画面。勝った側が一人用のゲームをしている映像が流れている。パイロットネームはリンクスだ。

 足元の2つのペダルと左右両側にあるレバー。お金を入れてカードを差し込むと、悠翔の使用する白い機体の全身が表示され、画面の中で回転する。すらりとした風貌で、このゲームの主役的な機体だ。視線入力でこの機体を使用すると選択し、レバーのボタンで決定する。続いて対戦ステージを選択する画面でランダムを選ぶと、画面に対戦相手の筐体と通話をするかどうかの選択が出た。悠翔は迷わず通話可能を選択する。

 挑戦者登場の告知画面表示の後に、お互いの機体の発進準備の映像がしばし流れる。リンクスの機体は赤く、少し大型のいかつい風貌で、両肩に四角い大砲がある。この映像は飛ばすことも出来るが悠翔はあえてせず、リンクスに話しかけた。

挿絵(By みてみん)

「久しぶりですね、お金が無いのでそっちには行けなくて、申し訳ないと思ってますが」

「そんなのはいいよ、来れなかったのは合コンとか忙しかっただけだからさ」

 笑いながら答えるリンクス。

「そんな理由なんですか、腕が鈍ってて負けた言い訳にしないでくださいよ」

「言うねー」

 悠翔の軽口にリンクスの笑い声が響く。

 対戦が始まった。


 ステージは戦場の街であちこちに破壊された兵器の残骸があり、噴き続ける黒煙でその先が見えにくくなっていたりする。建物は無傷なものと大きく破壊されたものがあり、密集した建物街と高低差のある瓦礫だらけの広い場所とに分かれていた。


 二人の対戦は、見ている誰もが気を揉むであろう接戦。相手のヒットポイントを先に全て奪った側が勝ちとなる。これを最長5ラウンドまで行い、先に3勝した側が勝ちとなるゲームルールだ。

 果たして対戦は2ー2となり、最終の5ラウンド目。悠翔の機体がリンクスの機体よりもわずかにヒットポイントを多く残している状態となった。その状況に悠翔の心は躍り、笑みを抑えられない。


 悠翔はステージ演出である残骸から立ち昇る黒煙を飛び込み越えると、大きな建物の後ろへ回る。残り時間も少なく、逃げ切れるかどうかという状況だ。しかしその建物以外は大きく破壊された低い建物ばかりで、逃げ隠れられるような場所ではなかった。

 その行動に対してリンクスの機体は、両肩の四角い大砲を上下に大きく開かせた。黄色い光が充満し、前方へ射出される。その光は悠翔が隠れた建物を直撃した。それを横へずらしながら連射する。

 凄まじい威力。貫通こそしなかったが建物を大きくえぐる。悠翔たちの駆る機体全高の5倍はあろう建物の上部を、コの字になった側壁が支えられるはずも無く、白煙を上げて潰し落ちると前方へゆっくりと倒れ始めた。

 リンクスの機体は倒れてくる建物を回避しつつ、その近くの低い瓦礫の山へ近づいていき、悠翔に声をかける。


「勝っちゃうかなー」

 その声に、悠翔は口元を緩めた。

 リンクスの機体の周囲に牽制の擲弾が降り注いだ。いくつかは煙幕弾で薄い青色と桃色の煙が周囲に広がっていく。

「なっ!?」

 驚き顔のリンクス。

 ゆっくりと倒れていく建物の側壁を、悠翔の機体が駆け上がっていた。倒れゆく中の最頂点から大きく蹴り跳んで、リンクスの機体のはるか上方に位置する。


 リンクスは急いで機体を前進させ反転するが 悠翔の機体もその動きに合わせるように噴射機を使って移動し、真上を維持する。リンクスの機体の両肩の砲で、悠翔の機体を捉えることが出来ないよう意図して操作し、落下していった。風を切り裂く効果音。

 リンクスの機体は真上に両腕を上げ、前腕側部に装備されている擲弾発射機を連射する。しかしまともに捉えることも出来ず、誘導装置も無いそれは、俊敏な悠翔の機体をかすめることすら出来なかった。


 短く鈍い金属音。


 悠翔の機体が持つ剣は、両腕を上げたままのリンクスの機体の首後ろから背部に突き刺さった。時間が止まったかの様な静寂。

 即座に後方へ跳び退きながら、背中に留め置いていた主力の銃に持ち替えて、何発も連撃する悠翔の機体。散る閃光。

 リンクスの機体は両腕を上げたまま膝を屈し、前方へ突っ伏した。刹那の間を置いて機体は爆散し、黒煙を噴き上げる。


 悠翔の勝ちを告げるゲーム画面の表示と音声。悠翔は大きくため息を吐いて弛緩した。


「勝てませーん!」

 リンクスが大げさに首を左右に振りながら叫び、おどけながら扉を開けて外へ出て来ると、二人の対戦に注視して呑み込まれていた観客がどっと湧く。


 ジールが筐体サイドにある薄い接話型マイクで、筐体内の悠翔に声をかける。

「さすがだなエイバース、あんなことが出来るとは知らなかったよ」

「この間のバージョンアップから出来るようになったみたいで、マル秘の一つですよ。窓を踏み抜かないように操作するのが大変なんですけど、ネットにもまだ出回ってなくて良かった」

 悠翔はそう言った後、少し笑いながら続ける。

「大砲持ってる人は絶対、あの建物を倒そうとするし」

「ああ、倒した後、上に乗って見渡すのが定法だからな」

 ジールも少し笑いながら答えた。

「まあ、高機動誘導ミサイルが残っていたら撃墜されてるんですけどね。リンクスさんが序盤で撃ち尽くすのを知っていたから、身内読みで勝てたようなもんですよ」

「そんなことねーよ、無駄のない細かく正確な操作はさすがだと思って見てたよ」


 その声の途中からが、悠翔にはまるで水の中で聞いているように、くぐもって聞こえる。

 その異変に驚く間もなく、目の前が真っ白になり意識が消えて闇に落ちた。断絶の黒無。


 ♪漆黒の~

破っ

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