第七話 事情聴取
あれから数十分、事情聴取よろしく色々と聞いてくるこいつらに私はいい加減腹が立ってきていた。
そもそもだ、なんだこいつらは自分の事も話さずに人の事を根掘り葉掘り聞こうとしやがって。
「まずはあなた達の事を教えてください。でなければこれ以上お答えできません」
私はきっぱりと断った。
まずは自分の事を話すのが常識だろ。
そう思ってそっけなく返すと、一拍おいていきなり色男が声を上げて笑い出した。
そりゃあもう盛大に、お腹を抱えてくの字になっている。
「それは悪かった、俺はロキだ。俺たちは魔導士ギルド、フェンリルに所属しいてる魔導士だ」
色男、もといロキが目尻に溜まった涙を指で拭いながら自己紹介をしてくれた。
いちいち色気を出す奴だ。
えらくアッサリ教えてくれて、拍子抜けする。
まあ、彼らが魔導士というのは分かる。私の魔力を抑えてくれたのだ、きっと素人ができることじゃない。だが、
「ギルド?」
思わず口についてしまった疑問に首を傾げる。
ギルドというのは、よくある物語に出てくる魔導士達が集まって依頼をこなすあれのことか?
この世界にはそんなものが存在するのかと一人で納得していると、ロキの目が鋭くなった。
「ギルドを知らないのか?」
やちゃったー……
え、ギルドって一般的に知れ渡ってるものなの?
エルフリーデ家ではそんなの習わなかったんだけど。……ああ、一般常識だから知らないと思わなかったのか。
これは誤魔化さねば。
「えっと、母と暮らしていたのは村の外れで、あんまり他の人と関わったりはしてなかったので……」
嘘はいってない。
実際、私たちはあまり村の人や外部の人たちと関わった事はほとんど無い。
お母さんは夫に捨てられた親子だと誹られるかもしれないと故意に避けていたのだ。
でも今思えば、きっとあの人に見つかるのを恐れていたように思う。
お母さんは私が魔力持ちだということを、なんとなく気づいていたのかもしれない。だから人との接触に過敏になっていたのだ。
「まあ、確かに小さい子にわざわざギルドの事を教える必要も無いしなぁ」
グッジョブラーク!
ロキも確かにそうだな、と頷いている。
そうだよ、そうだよ。わざわざ教える親なんていないだろうよ。
「魔導士ギルドは、魔導士達が集まって依頼をこなすというものだ」
「つまり、今ここにいるのは何かの依頼と言うことですか」
しかし、私はまた墓穴を掘ってしまったらしく片や愉快に、片や驚愕に目を見開いている。
「お前は年のわりに随分大人びているな」
背中に冷たいものが流れる。
まずい。
私が転生者だってことがバレたらどうなるだろうか。
多分、いや確実にろくなことにならないだろう。
人体実験とか……
顔が自分でも分かるくらい血の気が引く。
ここは子供のあざとさで回避をーー
「誤魔化したって無駄だぞ。この部屋に結界を張っている、この意味が分かるな?」
……ちっ。
つまり話すまで逃がさないと。
五歳児に随分と用意周到だな。そうでもしないと子供相手何も出来ないのか。
勿論口には出さないが。
私が心の中で毒づいている間も視線を隠そうともしないロキにイラっとする。
五歳でストレスで胃に穴が空いたらどうしてくれる。
「性格の問題ではないですか?」
「それだけじゃない。お前の言葉使いは、普通の村で育った割には丁寧すぎる。極めつけにその髪と瞳の色、魔力。鮮やかな色は貴族や豪家の商人などに多く出るものだ。魔力もまた同じだ」
「それは……」
ロキの的確な指摘に私が言い淀んでいると、ラークが助け舟が出してくれた。
「ロキ。リーシアは目が覚めたばかりだぞっ」
ロキが諌められて押し黙る。多少思う所はあるみたいだ。
しばらくの間互いに目を逸らさずにいたが、折れたのはロキだった。
はぁ、と長いため息を吐いて降参の意を込めて手を上げる。
「お前はこうなったら頑固だからな。ここはこの村の奴の家だ。人を呼んでくるから待ってろ」
前半はラークに、後半は私に声をかけて部屋から出て行った。
この部屋に残ったのはラークと私だ。
ラークはバツの悪そうな顔で近づいてきて、
「悪いなリーシア。あれでもいい奴なんだぞ?」
なんて茶化して言うから、私はくすくすと声を出して笑った。