第六話 目が覚めた場所は
めっちゃ少ないです。すみません。
額に冷たい感覚があって気持ちいい。
ゆっくりと意識が浮上して目が覚めた私は、木目の天井を前に首を傾げた。
ここはどこだ。
普通の地面にしては柔らかい感触を奇妙に思った私は辺りを見回した。
どうやら私は木造創りの民家の中でベッドに寝かされているらしい。
もう一度言おう、ここはどこだ。
寝起きのせいでうまく起動してくれない頭をフル回転させて眠る前のことを思い出す。
私は確かアリシアに家を追い出されて、それから……。
森を彷徨っても人に会えなかったから木の木陰で野宿をしていたはずだ。それがどうすればこんなことになる?
とにかく現状把握と起き上がると、額に置いてあった濡れたタオルが落ちてきた。さっきの冷たい感覚はこれか。
すると丁度この部屋の扉が開いた。
入って来たのは茶色い髪と黒い瞳をした男の人だった。
背が高くて体が を鍛えられているのが服の上からでも分かる。
茶髪黒目はなんとなく前世の日本人みたいな色合いで親近感が湧く。はずなんだけど、何分目付きが悪い。
せっかくの好感度もこれではガタ落ちだ。
勝手に好感度を決められているのを露程も知らない彼は、水を張った桶を持っているからこれは彼がやってくれたんだろうか。
「あの、これはあなたがやってくれたのですか?」
私が強面のお兄さんに尋ねたら固まってしまった。
あれ、今私なにかしちゃった?
普通に聞いただけだよね。
しばらくの沈黙が続いて私が不安になって来た頃、何かに立ち直った彼は心配そうに声をかけて来た。
「ああ、そうだ。目が覚めてよかった。ちょっと待っててくれ」
そう言って桶を近くにあった机に置いて出て行ってしまった。
……なんだったんだ。
それからホントに少ししたら彼が、もう一人の男の人を連れて戻って来た。
その男は、白銀の髪に湖の様な澄んだ青い瞳。少し垂れた目元が、その整った顔立ちと相まって色気を醸し出している。
さっきの人よりも少し背が低くて細いが、引き締しまった体躯で決してひょろひょろと頼りないわけじゃなく線が細いと言った方が正しい。
急いで来たのか息が上がっているその姿に色気が拍車をかけていて、世のお姉様方が絶対に放って置かないレベルだ。
二人は私がいるベッドの近くにある椅子に座って向き合うと早速色男が口を開いた。
「さて、お嬢ちゃん。お前は自分がどうしてここにいるか分かるか?」
質問して来た彼の目は至極楽しそうに笑っているのに、何も見逃すまいと怪しく煌めいている。
嫌な笑い方だ。
「……わかりません」
「そうか。ならまずは説明をしようか」
彼の説明曰く。私はあの後、魔力を大暴走させたらしく、自然界にある魔力を活性化させてしまったらしい。
それに関しては特に気にする必要が無いらしいが、たまたまあの森にいた彼らは膨大な魔力の存在に気づき駆けつけて見た所私を中心にして魔力が渦を巻いていたらしい。
そのまま放置するわけにもいかず、たまたま持っていた魔石という石に魔力を吸わせたとか。
色男の額や腕、所々にある傷はその時に受けたものだろう。
……申し訳なさすぎて目を合わせられない。
別に攻めて来られてるわけじゃ無いんだけど、なんて言うか無自覚なだけに心苦しい。
「すみませんでした」
それはもう深々と頭を下げたら、強面の男の方が慌てて顔を上げる様に言って慰めくれる。
ホロリ。
強面なんて言ってごめんよ。
しかし心の中で私が感激している間も、ずっと纏わり付いてくる視線。色男が凝視してくる。
いい加減鬱陶しいな。
そこら辺にいる女の子ならきっとときめいて赤面する場面だろうが、残念ながら私にはそんな可愛らしいもの持ち合わせていない。
どうしようか迷っていると、それを怯えていると勘違いしたのか男が諌めた。
「ロキ、怖がらせてどうする」
「……ん? ああ、そうだな。悪かった」
全くそんなこと思っていない態度で言われたって一体どうしろと。男も呆れ顔だ。
しかし、徐に真剣な顔つきになった色男が瞳を鋭くさせて私を射抜く。
それだけでこの部屋の空気が変わった。
「お前は何者だ」
うわあお。
直球だよ。
聞かれるとは思ってたけどここまでとは直球だとは思ってなかった。
さて、どう答えるか。
適当にはぐらかす?
そう思ってそろりと色男を盗み見みようとしたらバッチリ目があっちゃった。
これは嘘をつこうものなら後が怖いな。
でも馬鹿正直に全部話すつもりも無い。
私は自分が母親と暮らしていたけどお母さんは流行病で亡くなってしまったこと。その後、魔力持ちなのがバレて誘拐されそうになった所を逃げて来たと、少しの嘘と事実を混ぜて話した。
魔力の事は隠したって今更だろう。
そう思って話したら、奇妙な沈黙が落ちる。
ああ、わざわざお母さんが死んだってことを伝える必要はなかったな。しまった。
二人は気まずそうにするが、私はもうこの事は乗り越えている。いつまでも感傷に浸ってなどいられる程この世界は甘くないのだ。それに私にはラオ爺達がいてくれた。
それを伝えると微妙な顔をする。
なんなんだ一体。
すると、いきなり男が私の頭を乱暴に掻き混ぜて覗き込んできた。
「……わっ」
「お前、名前はなんて言うんだ?」
そういえばまだ名乗ってなかったな。
「リーシアです」
「リーシアだな、俺はラークだ」
よろしくな、と頭を更に撫でる。
おい、力加減間違ってるぞ、首が折れるだろ。相手が五歳児だってこと忘れてるんじゃ無いのかこいつ。