第一話 転生しました
初投稿ですので脱字、語彙などがあったらごめんなさい。
第一話
始めまして、私はリーシア・エルフリーデと申します。
突然ですが私には前世の記憶と言うものがございます。
なぜ自覚があるかと言うと、私はシェラルド王国王都に拠点を構えるエルフリーデ財閥当主の庶子として生を受けました。
この世界に生まれて五年間、私は母と貧しいながらも幸せに暮らしていたのですが。ある日、母は流行病で亡くなってしまいました。そのショックで魔力を暴走させ、前世の記憶を思い出したのです。
前世の私は日本生まれの日本育ち。二十五歳の時、会社から家に帰宅中車にひかれて死亡。
次に目が覚めた時私は、母は死んでしまったし、魔力が暴れて鎌鼬が体中を切り裂き血が出て痛いし、魔力の抑え方は分からないしと、もうパニック状態。
しかも周りには大の男の人達が私を取り押さえようとしているとなると、むしろパニックにならない方がおかしいかと。
魔力を暴走させ辺りに大きな被害を出したまま気を失い、次に目を覚ましたのはエルフリーデ家。
私は連れて来られたのだと気付きました。
* * *
あれから約数ヶ月、私は今、絶賛ベット生活中。
魔力が目覚めてからずっとこの調子だ。
体の中に膨大な魔力が暴れまくって毎日熱にうなされている。
あーー……、体が怠い、気持ち悪い。
どうやら私は普通の子供より魔力が多い、というか大人顔負けらしい。
この世界では生まれつき魔力を持っているのは王侯貴族ばかりだそうだ。それ以外の平民などに生まれるのはごく稀らしい。
かなり練習すれば魔力を得て魔法を使えるようにもなるけど、その人たちも合わせて人口の約二割にも見たないとか。
エルフリーデ家に連れて来られて、目が覚めた時私は始めて父親と対面した。
厳めしい切れ長の目に撫でつけた髪、几帳面に蓄えた口髭。どれもが高圧的に思えた。
なんでも正妻との間になかなか子供が出来ず悩んでいたところ私の存在を思い出したとか。今まで何もして来なかった人間が、……どこまで勝手なんだか。
おまけに、その娘が魔力持ちとなるともう棚から牡丹餅状態だ。精々出世の道具として使うんだろう。
話してみると思った通りの人物で、家の繁栄のことしか考えていない頭の堅い人だった。
いや、一代で財閥にまで持ち上げた人間としてそれくらいで正常か。
そうそう魔力が暴走した時、私は村の外れにある家にいたんだがそれが幸いしてちょっとした自然破壊で済んだみたいだ。
これは良かったと思おう。
私を取り押さえようとしていた人達も父が私を連れ戻す為に寄越したとか。おかげで私のパニックに拍車がかかったけどな。
父との会話は親子と言うにはあまりに冷めた、事務的なものだったと思う。
当然だ、今まで何もして来なかった奴が、必要になれば手のひら返して連れ戻そうとする、そんな人と私は馴れ合うつもれはない。
それにただの八つ当たりかもしれないけど、少しでも何かしてくれればお母さんは助かったかもしれないのに。
そんなわけもあって私達の間には親子の情なんてものはなく、父が言い放ったのはただ一つ、
『お前はこの家を継ぐために教養を身につけろ。そうすればその薄汚いなりも少しはマシになるだろう』
……今思い出しただけで腹立ってきたな。
何が薄汚いだっ! そりゃお偉いお貴族様にとったら薄汚いでしょうね。
……おっと、いかんいかん。
まぁそういうわけで、こうやって寝込んでいる時以外は教養を身につけさせられてると言うわけだ。
五歳児にマナーレッスンってどうよ。
父親は一財閥の当主にも関わらず一代で財閥にまで発展させた功績を認められ、国王陛下から男爵の地位を授与させた人だ。
こうして見ると素晴らしい人に見えるけど、実際そんなことはない。
政略結婚だったらしいこの人は正妻がいるのに母に手を出して、私を身籠ったと知った途端あっさり母と私を切り捨てて私達の存在を揉み消した。
その消し去りたい程の存在に頼らないといけないなんてよほどプライドが疼くだろうな。
だから私は最大限この人達を利用して、一人で生きていく為の知識を得て家を出ることを決意した。
* * *
さて、今日も今日とて私はベットの上。
さすがに暇になってくるな。
家を出ることを胸に誓って早数日。
一行に体調が良くならず、今だに寝込んでいる。
私がいるこの部屋は何もない、簡素なベットと机があるだけのだだっ広い所だ。
エルフリーデ家に来て始めて目が覚めた時、私は様々な意匠が凝らされた装飾品の数々に囲まれた部屋にいた。
煌々と煌めく蝋燭の光のおかげで夜なのに明るい。
それを見てイラッとしたのは今では良い思い出だ。
全くこの一本の蝋燭だけでどれだけ生活が楽になると思ってんだか。
この嫌味なくらい高級感溢れる部屋で受けた授業は、言葉使いに礼儀作法、テーブルマナー。
……なんだよテーブルマナーって。
いや元日本人としてどうかと思うけど、ご飯の時くらいゆっくり食べたいじゃん。
なんて斜め上な八つ当たりをしながら生活していた。
今日は比較的体調がいいから机に向かって授業の復習をしていたら、バンッと大きな音を立てて勢いよく扉が開け放たれた。
「まあ! これは一体どういうこと‼︎ どうしてお前の様な薄汚い小娘がこんな所に! 身を弁えなさい‼︎」
いや、知らねえよ。
お前らが勝手に用意した部屋だろ。
振り返るまでもなく分かる、甲高い声を苛立たし気に荒げながら入ってきたのは私の義母、父の妻にあたるアリシアだ。
はぁ……ホントなにしに来た。
アリシアはなぜか始めてあった時から私を目の敵にしていた。
まあ理由は分かり切っているんだけど。
妻の自分がいるのに夫が妾を持って、縁を切ったはずの憎い女の子供を今更迎え入れたのだ。疎ましくないはずがない。
けど、そんなこと知ったこっちゃない。
こっちはいきなり罵詈雑言を浴びせられて気分が悪いんだ。
そもそもこんなに私に強くあたるのに私があの人の子供ではないと言わないのは、お母さんから譲り受けたまるで麦畑に夕日が照らしつけているかのような美しい黄金糸の髪と、父親と同じ深緑の瞳。
この様な鮮やかな色彩は貴族や裕福な家柄の者たちに出る色で、何よりもあの人との血縁を表している。
ははっ、皮肉だな。ただの目の色だけでこんな所にいるのに、それが最大の庇護なんて。私は自虐気味につぶやいた。
本当は顔も見たくないけど、そんなわけにもいかないのでイライラする気持ちを抑えて出来るだけ落ち着いた対応をした。
「どうかなさいましたか? お義母様」
のだけど、それが癇に障ってしまったのかアリシアは眉を吊り上げてキッと鋭く睨みつけて来た。
え、声に出してた?
心の中だけで言ったもりだったんだけど。
わけが分からん。
しかし、次の瞬間アリシアがのたまった言葉に私まで頭に血を登らせる羽目になった。
「母と呼ぶことを許した覚えはなくってよ! これだから妾の子は。蛙の子は所詮蛙ね」
その鼻で笑うような見下した姿に、激しい怒りが私の中で渦をまく。
ふざけるな。
「……っお母さんは関係ない!」
お前なんかに何が分かる。お母さんがどれだけの思いをして私を育ててくれたと思う。
お母さんは元々裕福な商人の家の生まれだけど、突然家が没落して平民よりも貧乏になってしまったのだ。
この世界で、こんな事はザラにあることだ。一時の名誉などいつ砂上の楼閣となるかわからない。
夫の稼いだお金を湯水のごとく使って豪遊生活を送っているお前なんかにはわからないだろう。
一瞬私に反論されたことに目を見張った彼女は、みるみる顔を真っ赤にさせて体を震わせた。
「下民風情がっ!調子に乗らないで頂戴‼︎」
「……っ」
お腹に鈍い衝撃が走った。
アリシアが振りかぶった尖ったヒールはもろに私の腹を蹴り飛ばした。
そのまま衝撃を殺せずに壁に激突して咳き込む。
「……っケホ、ケホっ」
ツカツカと足音を鳴らしながら近づいてきた彼女を見上げようとしたら、おもむろに私の腕を掴んで歩き出した。
紅く塗られた長い爪が皮膚に食い込んで地味に痛い。
細く華奢に見える彼女の腕は力強くて、半ば引きずられる様にして歩かされる。
まだズキズキ痛むお腹に手をあてながらふらつく足元でせめてもの抵抗をする。
「……っ離して、離してったら!」
「黙りなさい、耳障りだわ!」
不意に立ち止まったアリシアは目の前の部屋の扉に私を投げつける。
扉には鍵がかかっていなかったのか、そのまま部屋になだれ込んだ。
その中は何もない、申し訳程度に置かれた簡素なベットと机だけのだだっ広い場所だった。
後ろでに手をついて霞む目で見上げた先には、妖しく弧を描く紅いそれはまるで魔女の様で。
「お前などにはこれだけで十分よ」
魔女がそのまま部屋を出て行くのを見送って、私は意識を失った。
あれから数ヶ月。授業はぱったりなくなった。
きっとアリシアが何か根回しをしたんだろう。仕事の早いことで。
これもやっぱりというべきか、父はこの事に一切関与してこなかった。
仮にも大切な跡取りだろ、もう少し気を配ったらどうだ。まあ継ぐ気はないけどね。
それにしてもあのふわふわベットは惜しかったな。もう少しあの弾力を堪能しておけばよかった。
ん? なんか変な言い方になった気がするけど、まあいっか。
数日に一回程度の更新になると思いますがよろしくお願いします。