第9話 そっくりだから
それから翌日。
「ふふ、ふ〜ん♪」
「(・・・)」
今日の昼休みも、図書室に来ている。
今日もまた、いつも通り。
僕が先に来て、先輩が突然現れる展開である。
で、今は、椅子に座って本を読んでいる僕の背後に立って。
僕の首に腕を廻し、頭の上に顎を乗せている先輩がいる。
先輩が鼻歌を歌って上機嫌だが。
僕の方は、密着した柔らかい感触と周囲に漂う、甘い匂いに戸惑っていた。
「先輩・・・」
「ん? なあに〜」
「先輩って、男にくっ付くのに躊躇ないですね。
普通、この年代の女の子は、男にナカナカ近づかないのに。
先輩は、出会って間が無い僕に、いつもくっ付いて来るんだから・・・」
僕が、先輩に半ば嫌味の様に言うと。
「えっ、私は男の子が苦手で。
弟以外の男の子には近づけないのよ・・・」
「(・・・)」
「何・・・、その沈黙は、信じられないの?」
少し、憤慨したように言う先輩だが。
いつも、僕にしている事を見ればねえ。
「いつも何かに付けて、僕に密着して来る人がねぇ・・・」
僕は、斜め上に振り向き、ジト目でそう言うと。
僕の顔を覗き込む様に、見下ろした先輩が。
「あ、いや、何と言うか、諒くんが弟みたいだから・・・」
横に視線を逸らせながら、少し慌てた様に言った。
「弟さん?」
「うん、私は男の子は苦手だけど、弟だけは平気だった。
平気どころか、いつもくっ付いているのが当たり前だったの」
「へえ・・・」
「小さい頃から、いつも一緒に寝るくらい仲が良かった。
あっ、中学になっても冬は、抱き枕兼湯たんぽ代わりにしていたね。
あの子は恥ずかしがるけど、手足が冷えて堪らないから、いつも部屋に押しかけていたなあ」
「・・・」
何というか、仲が良すぎると言うか、かわいそうにと言うか。
複雑な感想だった。
「小さい頃は、あの子が私に、くっ付いていたんだけど。
段々、私の方があの子に、くっ付いて行くようなったね。」
遠い目をして、昔を懐かしむ様に語る先輩。
僕はそれを、黙って聞いていた。
「諒くんは、ホント弟にそっくり。
外見もだけど、性格も雰囲気も、それで最初見た時驚いたけど。
そしたら、急に昔の記憶が蘇って、何だかとても嬉しくなったんだよ・・・」
ああ、それで最初、僕を見た時、最初驚いた顔をしたけど。
次の瞬間、笑顔になったんだ。
「それで、他の男の子だと怖くて近づけないのに。
君の時は、昔の事を思い出して、気付くとくっ付いてしまうの」
と言う事は、弟さんが生きている時は。
いつも、こんな事をされていたのか・・・。
「ひょっとして、迷惑だった・・・」
先輩が、探るような視線で僕を見ている。
どうも、僕が迷惑がっていると思っているらしい。
「・・・先輩、別に、迷惑って言う訳じゃないんです。
ただ、恥ずかしいだけです・・・」
語尾の方が、小さくなっていったが、先輩にそう言う。
「・・・ふふふっ、ホント、そんな所まであの子にそっくりだよ」
遠慮がちな笑いを浮かべながら、先輩が僕にそう言った。
「ありがとう、諒くん」
「むぎゅっ!」
僕にお礼を言うと、先輩が僕に廻していた腕に、力を入れる。
そうなると当然、首が締まる。
「せ、先輩、ギブ、ギブ・・・」
僕は先輩に、必死でアピールするが。
先輩は、僕の首を締めたまま、頭に頬ずりをする。
・・・僕の言葉が全く聞こえてないらしい。
そうやって、しばらくの間僕は、先輩に首を締められたまま、頭に頬ずりをされていたのだった。