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夏の涼風  作者: 海獅子
9/36

第9話 そっくりだから


 それから翌日。



 「ふふ、ふ〜ん♪」


 「(・・・)」




 今日の昼休みも、図書室に来ている。


 今日もまた、いつも通り。

僕が先に来て、先輩が突然現れる展開である。


 で、今は、椅子に座って本を読んでいる僕の背後に立って。

僕の首に腕を廻し、頭の上に顎を乗せている先輩がいる。


 先輩が鼻歌を歌って上機嫌だが。

僕の方は、密着した柔らかい感触と周囲に(ただよ)う、甘い匂いに戸惑っていた。




 「先輩・・・」


 「ん? なあに〜」


 「先輩って、男にくっ付くのに躊躇(ちゅうちょ)ないですね。

普通、この年代の女の子は、男にナカナカ近づかないのに。

先輩は、出会って間が無い僕に、いつもくっ付いて来るんだから・・・」




 僕が、先輩に半ば嫌味の様に言うと。




 「えっ、私は男の子が苦手で。

弟以外の男の子には近づけないのよ・・・」


 「(・・・)」


 「何・・・、その沈黙は、信じられないの?」




 少し、憤慨(ふんがい)したように言う先輩だが。

いつも、僕にしている事を見ればねえ。




 「いつも何かに付けて、僕に密着して来る人がねぇ・・・」




 僕は、斜め上に振り向き、ジト目でそう言うと。

僕の顔を覗き込む様に、見下ろした先輩が。




 「あ、いや、何と言うか、諒くんが弟みたいだから・・・」




 横に視線を()らせながら、少し(あわ)てた様に言った。




 「弟さん?」


 「うん、私は男の子は苦手だけど、弟だけは平気だった。

平気どころか、いつもくっ付いているのが当たり前だったの」


 「へえ・・・」


 「小さい頃から、いつも一緒に寝るくらい仲が良かった。

あっ、中学になっても冬は、抱き枕兼湯たんぽ代わりにしていたね。

あの子は恥ずかしがるけど、手足が冷えて(たま)らないから、いつも部屋に押しかけていたなあ」


 「・・・」




 何というか、仲が良すぎると言うか、かわいそうにと言うか。

複雑な感想だった。




 「小さい頃は、あの子が私に、くっ付いていたんだけど。

段々、私の方があの子に、くっ付いて行くようなったね。」




 遠い目をして、昔を懐かしむ様に語る先輩。


 僕はそれを、黙って聞いていた。




 「諒くんは、ホント弟にそっくり。

外見もだけど、性格も雰囲気も、それで最初見た時驚いたけど。

そしたら、急に昔の記憶が(よみがえ)って、何だかとても嬉しくなったんだよ・・・」




 ああ、それで最初、僕を見た時、最初驚いた顔をしたけど。

次の瞬間、笑顔になったんだ。




 「それで、他の男の子だと怖くて近づけないのに。

君の時は、昔の事を思い出して、気付くとくっ付いてしまうの」




 と言う事は、弟さんが生きている時は。

いつも、こんな事をされていたのか・・・。




 「ひょっとして、迷惑だった・・・」




 先輩が、探るような視線で僕を見ている。


 どうも、僕が迷惑がっていると思っているらしい。




 「・・・先輩、別に、迷惑って言う訳じゃないんです。

ただ、恥ずかしいだけです・・・」




 語尾の方が、小さくなっていったが、先輩にそう言う。




 「・・・ふふふっ、ホント、そんな所まであの子にそっくりだよ」




 遠慮がちな笑いを浮かべながら、先輩が僕にそう言った。




 「ありがとう、諒くん」


 「むぎゅっ!」




 僕にお礼を言うと、先輩が僕に廻していた腕に、力を入れる。


 そうなると当然、首が締まる。




 「せ、先輩、ギブ、ギブ・・・」




 僕は先輩に、必死でアピールするが。

先輩は、僕の首を締めたまま、頭に頬ずりをする。


 ・・・僕の言葉が全く聞こえてないらしい。


 そうやって、しばらくの間僕は、先輩に首を締められたまま、頭に頬ずりをされていたのだった。



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