第5話 あれっ!
しばらく、先輩が僕の頬を撫でていると。
先輩の手の気持ち良さに思わず。
「先輩、気持ち良いです・・・」
と言ってしまった。
すると、その声を聞いた先輩が。
「ふふふっ、諒くんは可愛いなあ」
そう言って顔を緩め。
頬を撫でていた手を、頭に移動させた。
「(スーーーッ、スーーーッ)」
先輩の手が僕の頭を滑る。
僕の頭を滑りながら、髪を指の間に通していた。
先輩の細くて滑らかな指が、髪の中を滑って行く。
髪に抵抗なく滑る感触と、ヒンヤリした温度が相まって。
心地良さが頭に広がる。
「そう言えば、あの子も小さい頃は良く、こうしていたなあ。
諒くんを見ていたら、あの子の事を思い出しちゃった」
先輩が顔を緩めたまま、僕の頭を撫でながら、そう言った。
「(スーーーッ、スーーーッ)」
僕の方はと言うと、余りの心地良さに目を細めてしまい、先輩の成すがままになっていた。
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・・・
「・・・くん」
・・・
「・・・うくん」
う〜ん
「諒くん、ほら、もう時間だよ」
「えっ?」
先輩に頭を撫でられている内に、いつの間にかウツラウツラしていたみたいだ。
カウンターの上の時計を見ると、もうすぐ閉館時間だ。
「ふふふ、立ったまま寝るなんて、器用だね諒くん」
そう言って、先輩が笑っていた。
僕は、寝起きに近い状態で、イマイチ頭が回らない為。
自分の状況が、すぐに理解できていなかった。
「じゃあ、私は先に行くね。
諒くんも、早く帰るのよ〜」
そう言って、先輩が図書室を出ていく。
やっと自分の状況が飲み込みた僕は。
恥ずかしくなり、弁解しようとして、急いで先輩の方を見た。
「あれ?」
先輩の方を見たが、そちらに先輩の姿は無かった。
もう既に図書室を出たのかと思ったが。
出入り口の戸を開け閉めした音は、聞こえ無かったはずだ。
「(バタバタバタ、ガラッ!)」
諦めきれない僕は、急いで出入り口に行き、先輩の後を追った。
「あれれ??」
勢い良く戸を開け、廊下を見るが、その姿は見えない・・・。
”先輩、ウサイン・ボルトなんですか?”と、変な事を想像していたら。
「(あのね、あなた・・・。
入り口で騒いでないで、いい加減、早く帰りなさいよね・・・)」
そんな視線がしたので振り返ると、カウンターの中から、あの図書委員の女の子がこちらを見ている。
その女の子は、ボブと言うより、おかっぱと言った方が良い様な髪型で。
しかも、眼鏡をしていて、何と言うか、”委員長”と言う単語が頭に浮かんだ。
しかし、その女の子は、背後にドス黒いオーラを放出しながら。
こちらを見ていた。
「さ、さようならーーーーー!」
僕は、その女の子の剣幕に押されて、一目散に退散した。




