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夏の涼風  作者: 海獅子
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最終話 意外な再会

 夏休みに入って、数日が経った頃。




 「はあ〜」




 僕は今、学校に来て、あの大木の木陰でいる。


 校舎の段差に腰掛けながら、何度目になるだろうか。


 また、溜め息を付いていたのである。



 ・・・



 先輩が天に登った後。

夏休みに入った僕は、何だか気が抜けた状態になっていた。


 しかし、家に居ても、期末の成績が壊滅的だったので。

気が抜けた態度を、少しでも見える事が出来ない。


 そんな事をすれば。

両親のカミナリが落ちるのは、目に見えているからである。


 なので、少しでも気が抜ける場所を求めて、学校にやって来たのだ。


 両親も、他の場所なら、勉強しろと怒るけど。

学校に行く分には、文句は無いだろう。




 「しかし、何も無いのに、学校に来るなんて・・・」




 下手に赤点を回避して、補修を受けなくてすんだので。

返って、学校に来ても何もする事が無い。


 図書室も、こんな日に限って閉まってるし。


 しかたが無いので、この場所に来たのである。




 *********




 こうやって、木陰で腰掛けながらボンヤリしていると。




 「ん?」




 いつの間にか、僕の隣に誰かが居た。




 「こんにちは、何をしているの?」




 それは、おかっぱ頭に眼鏡を掛けた女の子であった。


 その娘は、僕の良く知っている娘で。

図書委員の、芝山玲先輩である。




 「えっ?」


 「ふふふっ」




 しかし何だか、いつものと雰囲気が違う。


 何と言うか、あのキツいと言うか、冷たそうな雰囲気が無い。

その代わり、涼しそうで心地よい雰囲気をまとっていた。


 まるで、涼子先輩みたいだな・・・。



 ・・・



 「やっぱり、あなたも、ここに来たんだね優」


 「えっ?」




 芝山先輩の言葉に、僕は驚いて立ち上がる。




 「ど、どうしたんですか・・・、芝山先輩・・・」


 「うふふ、優、驚いた?」


 「・・・もしかして、涼子先輩なんですか・・・」


 「そうだよ、あ、信じてないんだね。

確か最後の日、私がワガママを言った時。

”お願いだから、早く天に登って欲しい。

姉さんと別れるのは辛いけど、姉さんが不幸になるのはもっと辛いから”

って、言ったよね。

あの時、私は嬉しかったんだよ」




 予想もしない意外な言葉に、僕が混乱していると。

涼子先輩?が微笑みながら、そう言ったのである。


 確かに、それは、僕があの時言った言葉である。

あの時、他に誰も居なかったから、それを知っているのは涼子先輩だけであるので、間違いない




 「ど、どうして・・・、先輩は天に登ったんじゃ・・・」


 「ん〜、確かに私は、意識が薄くなりながら天に登っていたんだけど。

再び意識が戻ると、なぜか寝ている芝山玲の隣に立っていたのよ。

その時、どう言う訳か自然に分かったの。

この娘が、もう一つの私が転生した姿だと」


 「???」




 そう涼子先輩が言うけど、僕は先輩が言う事を理解できなかった。




 「前に、死んだとき、魂が二つに分かれて、一つが天に登ったって言ったよね」


 「はい」


 「その天に登った魂が転生したのが、この芝山玲なの」


 「そうなんですか!」


 「そう、多分、普通だと天に登った後。

何もなければ、そのまま転生するはずなんだろうけど。

私は、魂が分裂して、その片割れだけが(すで)に転生しているので、そちらの方に来たんでしょうね」




 斜め上を向き、考え事をしながら先輩が、そんな事を言っている。




 「それで、寝ている芝山玲の姿を(なが)めている内に。

まるで金属が磁石に引き寄せられる様に、私は芝山玲に引き寄せられていって。

最後は、彼女に吸収されてしまったの」


 「・・・」


 「芝山玲に吸収されたけど、芝山涼子の記憶も、ちゃんと残っている。

だけど、芝山玲の記憶のモチロンあるのよ。

つまり私は、芝山玲であると共に芝山涼子でもあるの」




 そう言って先輩は、複雑そうな笑いを浮かべていた。




 「でもね、芝山玲であろうとも芝山涼子であろうとも、一つだけ同じ気持ちがあるの」


 「何ですか、それは?」


 「それは諒くん、そして優、私はあなたの事を愛していると言う事」


 「先輩・・・」


 「好きです、私はあなたの事が大好きです!」




 そう叫ぶと、先輩が僕の胸に飛び込んだ。




 「姉さん、僕もあなたの事が好きです」




 僕も、そんな先輩を抱き締めていた。



 ・・・




 「あ〜、芝山玲の事も好きになって欲しいなあ〜」




 少し()ち、先輩がおもむろに顔をあげる。

僕が先輩の顔を見ると、先輩は少しむくれた様な顔をしていた。




 「もちろんですよ、玲先輩」


 「・・・」


 「・・・」


 「ふふふふっ」


 「ははははっ」




 むくれた先輩に、僕がそう言うと。

しばらく見詰め合った後、二人はどちらとも無く笑い出した。




 「でも、これで二人は姉弟じゃ無くなったんだよね」


 「そうだね」


 「もう誰にも(はばか)る事無く、恋人になれるんだよね」


 「うん♪」




 笑いが収まった後、そんな事を言うと、二人は再び抱き合った。

先ほどよりもっと強く、抱き合った。


 そして抱き合いながら。




 「これから、あなたの事を何て呼べは良いの?」


 「さっきみたいに、玲って言って。

もう、芝山涼子は死んで、転生したんだから」


 「はい、分かりました、玲先輩」




 そんな会話をしていた。


 姉弟だと諦めてた思い、そして、死ぬ時の願い。

長い時間を掛けた後、それらが叶った。




 ”もう、この人を離さない、この人から離れない”




 そう思いながら、強く抱き締めていたのであった。



後一回、後日談があります。

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