第31話 前世の夢2
それから、中学に上がる頃に気付いてしまった。
僕は、”姉さんを愛している”と言う事に。
それは、姉としてでは無く、一人の女の子としてである。
どうして、そんな感情を持ってしまったんだろうか。
自分でも理解できない。
・・・
だが、それを姉さんに言う事は出来ない。
それ所か、気付かれてしまってもイケナイ。
僕と姉さんは、あくまでも姉弟であるからだ。
それに、姉さんはいずれ、誰か他の男を愛してしまうだろう。
また、姉さんを愛している事を口にして。
今までの関係を、壊してしまう訳にもいかない。
これは、自分の胸にしまって置かなければならない。
辛いだろうが、自分一人が我慢すれば良い事だ。
それから僕は。
胸の奥の痛みを堪えながら、姉さんと一緒に居たのである。
*********
それ以降、僕は。
それまで以上に姉さんの事を気に掛ける様になった。
発作の時は、常に側に居て。
困った事があれば助け。
落ち込んだ時は慰めてあげていた。
そんな、中学1年生になった。
ある日の事だった。
・・・
二人で、道を歩いていた時の事である。
「姉さん、高校はどうするの?」
「う〜ん、陣立学園にしようかと思うの。
あそこだと、家から近いし、進学にも力を入れているからね」
僕たちは、そんな事を話ながら歩いていた。
もう流石に、手を繋がなくなっていたが。
姉さんは3年生で、高校受験を控えていた。
ちなみに、その頃の陣立学園は今と違い。
どちらかと言えば、進学校としての色彩が強かったのである。
「高校に入ったら、どうするの?
まさか、彼氏を作りたいとか・・・」
「ううん、何だか、同年代の男の子は苦手だな〜。
乱暴で柄が悪くて、近づきたく無いの」
「そ、そう・・・」
僕は、自分で言った事に不安を覚えたが。
姉さんの返事に、ホッとしていた。
「それに彼氏とか、優が居ればいいや」
「えっ!(ドキッ!)」
「あんな乱暴な子達よりも。
近くに、やさしくて、可愛げがあって、自分の言う事を素直に聞いてくれる存在がいるからね〜♪」
そう言って、僕の方を見ながら笑っていた。
「僕は犬なの?」
「うん、理想の弟は大型犬って言うでしょ♡」
「もお〜、姉さんは〜」
そう言うと、僕の前から駆け出した。
「もお〜、イキナリ走ると、また発作が起きるよ。
って、あ、姉さん・・・」
言った所で、姉さんの体がグラリと揺れた。
また発作を起こして、倒れそうになったのだ。
「(プップップッ、プーーーーッ!)」
車のクラクションが聞こえた。
見ると、ちょうど姉さんの前を、猛スピードで通過しようとしていた。
だが、車の方はクラクションを鳴らすだけで、回避しようとはしなかった。
こちらに退けと言っているのだろう、タチの悪いドライバーだ。
「(グラリ)」
しかし、姉さんは発作を起こして逃げる事が出来ない。
それでも、車は回避行動を起こさない。
「危ない!」
よいよ、ぶつかりそうになっても、避けない車を見た僕は。
姉さんに駆け寄り、突き飛ばした。
「ガッシャーーーーーーン!」
「(ドン!)」
激しい音と共に、僕の全身に激痛が走る。
それから地面に叩きつけられ、転がっていたみたいだが。
余りにも激しい痛みに、そんな事にも気付かなかった。
全身の痛みに、のたうち廻りたいが。
体が動けなくなっていて、それすら出来なくなっていた。
「ゆーーーーうーーーー!
ゆーーーーうーーーー!」
気付くと、そんな声と共に、上体が起こされていた。
どうやら姉さんに抱き起こされた様だが。
痛みと、目の前が真っ暗で良く分からない。
しかし、姉さんの方は無事の様だ、良かった。
「姉さん、無事だったの、良かった・・・」
「ゆう! ゆう! ゆう!」
僕が姉さんにそう言うと、姉さんは激しく僕の名を呼び続けた。
だが、そうしている間にも、僕の意識は次第に薄くなっていく。
・・・
次第に薄れゆく意識の中で、僕は理解した。
”ああ、これから自分は死んでしまうんだな”
と言う事を。
そして。
”こんど生まれる時は、姉弟ではなくて、恋人になれる関係になりたいな”
薄れゆく意識の中で、そんな事を考えていた。
こうして、意識が無くなり、完全に死んでしまうまで。
僕は、その事を何度も考えていたのだった。




