表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏の涼風  作者: 海獅子
31/36

第31話 前世の夢2

 それから、中学に上がる頃に気付いてしまった。



 僕は、”姉さんを愛している”と言う事に。



 それは、姉としてでは無く、一人の女の子としてである。


 どうして、そんな感情を持ってしまったんだろうか。


 自分でも理解できない。



 ・・・



 だが、それを姉さんに言う事は出来ない。


 それ所か、気付かれてしまってもイケナイ。


 僕と姉さんは、あくまでも姉弟であるからだ。


 それに、姉さんはいずれ、誰か他の男を愛してしまうだろう。


 また、姉さんを愛している事を口にして。

今までの関係を、壊してしまう訳にもいかない。


 これは、自分の胸にしまって置かなければならない。


 辛いだろうが、自分一人が我慢すれば良い事だ。


 それから僕は。

胸の奥の痛みを(こら)えながら、姉さんと一緒に居たのである。




 *********



 それ以降、僕は。

それまで以上に姉さんの事を気に掛ける様になった。


 発作の時は、常に側に居て。

困った事があれば助け。

落ち込んだ時は(なぐさ)めてあげていた。


 そんな、中学1年生になった。

ある日の事だった。



 ・・・



 二人で、道を歩いていた時の事である。




 「姉さん、高校はどうするの?」


 「う〜ん、陣立学園にしようかと思うの。

あそこだと、家から近いし、進学にも力を入れているからね」




 僕たちは、そんな事を話ながら歩いていた。

もう流石に、手を繋がなくなっていたが。


 姉さんは3年生で、高校受験を控えていた。


 ちなみに、その頃の陣立学園は今と違い。

どちらかと言えば、進学校としての色彩が強かったのである。




 「高校に入ったら、どうするの?

まさか、彼氏を作りたいとか・・・」


 「ううん、何だか、同年代の男の子は苦手だな〜。

乱暴で柄が悪くて、近づきたく無いの」


 「そ、そう・・・」




 僕は、自分で言った事に不安を覚えたが。

姉さんの返事に、ホッとしていた。




 「それに彼氏とか、優が居ればいいや」


 「えっ!(ドキッ!)」


 「あんな乱暴な子達よりも。

近くに、やさしくて、可愛げがあって、自分の言う事を素直に聞いてくれる存在がいるからね〜♪」




 そう言って、僕の方を見ながら笑っていた。




 「僕は犬なの?」


 「うん、理想の弟は大型犬って言うでしょ♡」


 「もお〜、姉さんは〜」




 そう言うと、僕の前から駆け出した。




 「もお〜、イキナリ走ると、また発作が起きるよ。

って、あ、姉さん・・・」




 言った所で、姉さんの体がグラリと揺れた。


 また発作を起こして、倒れそうになったのだ。




 「(プップップッ、プーーーーッ!)」




 車のクラクションが聞こえた。


 見ると、ちょうど姉さんの前を、猛スピードで通過しようとしていた。


 だが、車の方はクラクションを鳴らすだけで、回避しようとはしなかった。


 こちらに退()けと言っているのだろう、タチの悪いドライバーだ。




 「(グラリ)」




 しかし、姉さんは発作を起こして逃げる事が出来ない。

それでも、車は回避行動を起こさない。




 「危ない!」




 よいよ、ぶつかりそうになっても、避けない車を見た僕は。

姉さんに駆け寄り、突き飛ばした。




 「ガッシャーーーーーーン!」


 「(ドン!)」




 激しい音と共に、僕の全身に激痛が走る。


 それから地面に叩きつけられ、転がっていたみたいだが。

余りにも激しい痛みに、そんな事にも気付かなかった。


 全身の痛みに、のたうち廻りたいが。

体が動けなくなっていて、それすら出来なくなっていた。




 「ゆーーーーうーーーー!

ゆーーーーうーーーー!」




 気付くと、そんな声と共に、上体が起こされていた。


 どうやら姉さんに抱き起こされた様だが。

痛みと、目の前が真っ暗で良く分からない。


 しかし、姉さんの方は無事の様だ、良かった。




 「姉さん、無事だったの、良かった・・・」


 「ゆう! ゆう! ゆう!」



 僕が姉さんにそう言うと、姉さんは激しく僕の名を呼び続けた。


 だが、そうしている間にも、僕の意識は次第に薄くなっていく。



 ・・・



 次第に薄れゆく意識の中で、僕は理解した。




 ”ああ、これから自分は死んでしまうんだな”




 と言う事を。


 そして。




 ”こんど生まれる時は、姉弟ではなくて、恋人になれる関係になりたいな”




 薄れゆく意識の中で、そんな事を考えていた。


 こうして、意識が無くなり、完全に死んでしまうまで。

僕は、その事を何度も考えていたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ