第29話 寂しくならないよね
今回は、涼子視点の話です。
それから、期末試験を控えた、ある日の放課後。
「もう、来た頃かな」
私は、いつもの様に校舎の中をウロウロしながら。
教室で授業を受けたり、校庭の体育を見学したり。
誰も居ない時には、視聴覚室でテレビを見たりしていた。
そうしている内に、終礼の鐘がなってから、しばらく経ったので。
良い頃合いだと思い、図書室に行くことにした。
*********
「あれ?」
図書室に来てみると、諒くんがテーブルに突っ伏せして。
居眠りをしていた。
テーブルをみると、宗教関係やおまじない関係の本があった。
大丈夫なのかな、もうすぐ期末なのに。
私の事より、自分の方が大事なのに・・・。
「ん?」
そんな彼を、すぐ側で見ていたら。
彼に近づく姿が見えた。
それは、おかっぱ頭に眼鏡を掛けた。
いつもの図書委員の娘である。
私は、この娘の事を知っている。
この娘は、私の遠縁の当たる娘で。
一年の頃から、図書委員になっているので、よく図書室で見かけていた。
その娘は、私の事が見えないから、そのまま真っ直ぐにやってくる。
その娘が彼の側に来ると。
「あ〜あ、もうすぐ期末なのに大丈夫なの?」
私が思っていた事と、同じ様な事を言っていた。
それから、周囲をキョロキョロと確認しだした。
この図書室は、もうすぐ期末にも関わらず、人影が無い。
まあ、それの原因の一つには、私に有るのだけど・・・。
そうして、周りに誰も居ない事を確認すると。
「(スーッ)」
彼の頭に手を伸ばし、頭を撫で出した。
「うふふっ、可愛い寝顔だね・・・」
その娘は、微笑みながら、彼の頭を撫でている。
「なぜか、昔から弟が無性に欲しくて、仕方なかったんだよね。
こんな子が弟だったら、良かったのに。」
そう言って、頭を撫でつづける。
私は、この娘を見ていて、胸が痛んだ。
弟と言いながら、その瞳には、それ以上の感情が感じられたからだ。
それは、自分の弟の事を思い起こさせてしまう。
私を助けるために命を落とした、優。
死んでから初めて、弟以上の感情に気付いた事を。
そして、それと同時に、諒くんに同様の感情を持ってしまった事も。
初めは、優そっくりな彼に、弟の姿を重ね合わせていたが。
次第に、彼自体にも、特別な感情を持ち始めていた。
だが私は、もう、この世の存在では無い。
彼も、いずれ学校から卒業し、私の前から姿を見せなくなってしまう。
私も、これから先も、ずっと、この学校をさ迷っていくだろう。
だから、私の代わりに、彼の側に居てくれる存在が欲しかった。
だが、このままだと、この娘が私の代わりになってくれるだろう。
私の血を引く、この娘が。
そうしたら、彼が寂しくならないよね。




