第18話 木陰のハグ
その日の放課後。
授業が終わると最近の習慣で、図書室に向かうのだが。
今日は先輩から、例の木陰に来て欲しいとリクエストがあった。
図書室で会話すると、延々と独り言をしているみたいに見えるので、僕が不審がられるし。
特に、ここ2、3日会ってなかったから、周りに気兼ねなく、会話したいと言う事らしい。
・・・
先輩の正体と身の上を聞いて、あれから僕は。
先輩をどうすれば一番良いのか、午後の授業中、考えていた。
おかげで、授業を聞いてなくて、先生に指されてしまったけど。
・・・
そうして考えた結果。
先輩は、存在がどうであれ。
このままだと、いつまでも、この学校に縛られるかもしれない。
それでは、あんまりではないか。
せめて、弟さんの所に送ってやるのが一番良い気がする。
せっかく、出会えたのに寂しい気もするが、それが先輩の一番の幸せだと思う。
そう思いながら僕は、あの木陰へと向かった。
*********
・・・
今、僕は、例の木陰に居る。
さすがに夕方でも、まだ太陽は角度があって。
空は、突き抜けるような青さが残っている。
でも木陰に吹く風は、昼間よりも涼しい。
そんな中、僕は今、先輩を両足の間に入れ。
後ろから、抱き締めながら座っているのだ。
なぜ、こんな状態になっているかと言えば・・・。
・・・
例の木陰に着いた。
しかし、いつもの様に、先輩はまだ居ない。
僕が着いてから、姿を見せるのが、いつものパターンだからだ。
そう思い、先輩を待っていると。
「お待たせ♡」
「わっ! あ〜、ビックリしたぁ〜」
「驚いた? ごめんね♡」
僕の横に、先輩が突然出現した。
予想以上の現れかたに、思わず驚いた。
しかし、先輩は悪気があるようには見えない。
相変わらず、この人?は、も〜。
「ねぇねぇ、そこに座って、ねっ」
僕がそんな風に思っていると、先輩が急にそんな事を言った。
先輩は、思いっきり甘えるような表情で、僕を見ている。
先輩の様な清楚な美人に甘えられると、弱いので。
仕方なく僕は、校舎の段差に座った。
「よいしょっと」
「わっ、わあっ」
先輩が、座った僕の脚の間を無理やり開き。
その間に、強引に座った。
そして、僕の腕を取ると、じぶんの身体に巻き付ける。
「ちょっ、ちょっと!」
「久しぶりに、諒くんに会えたからスキンシップをしたいんだけど。
だめかな・・・?」
僕が、先輩の強引な行動に、抗議しようとしたが。
先輩が振り返り、上目遣いで伺うような視線で、僕を見た。
「もお〜、しょうがないですね〜」
「ありがとっ♡」
僕は、その視線に負け、渋々了承すると。
先輩が、一転して笑顔で、そう言った。
・・・
そんな訳で、こんな状況になっていた。
先輩に聞かないとイケナイ事があるけど。
出だしを挫かれたので、聞くタイミングを掴めない。
「諒くんの身体は、男の子だから大きくて。
抱き締められていると、包み込まれている様で、とても気持ち良いの」
ウットリする様な声で、そう言う先輩。
僕も先輩を抱いていると、気持ちが良い。
夏だけど、先輩の体温は幽霊?なのもあるのか。
ヒンヤリして、とても気持ち良い。
しかし、同時に、柔らかい感触と良い匂いを感じると。
心臓がドキドキする。
特に、脚が痛い位に大きなお尻と、腕に感じる胸の感触が。
僕を、とても落ち着かせなくしてしまう。
かと言って、離れようと言う気にもなれない。
ずっとこのままで居たいと言う、矛盾した感情もあったのだ。
そうやって、先輩の感触を感じている内に。
僕は聞かなければならない事を、しばらく忘れてしまっていた。




