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夏の涼風  作者: 海獅子
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第17話 先輩の昔話2

 先輩も落ち着いたのだろう。

一度息を大きく吐くと、再び語り始めた。




 「私は学校に入学してから、よく、この場所と図書室に居たの。

この二つが私のお気に入りの場所だから。」


 「それから特に、優が死んでからは以前にも増して、この二ヶ所に居る様になり。

いつも、優の事を考え、時には涙を流す事もあった。」




 僕は、先輩に声を掛けるのは未だだと思い。

先輩の話に、耳を傾け続けた。




 「それから時が経ち、私が3年生の時、学校で酷い発作を起こしたの。

発作を起こした時、運悪く、周りには誰も居なかった」


 「目の前が真っ暗になって。

段々、発作も酷くなって、私はついに床に倒れてしまった」


 「その時分かったの、”ああ、私は死ぬんだな”って。

だけど、その時の私は、”死んで、あの子の所に行ける”と言う思いと。

”どんな顔で、あの子に会えば良いんだろう”という気持ちが同時にあった」


 「その二つの気持ちに(さいな)まれている内に、目の前が白く光ったの。

それから目を開けると、私は立って居て、下を向くと床には倒れている私が居た」


 「それと同時に、天井を擦り抜けて登って行く光る物も見えた。

“ああっ、もう一つの私が、あの子の所に登っている”って、それを見て何となく理解したよ」




 僕は先輩から、死の状況と、なぜ今の存在になったのかを聞いた。




 「じゃあ、先輩は幽霊とは違うのですか?」


 「・・・うん、あの子に対する負い目から生まれた、浮遊霊だとおもうんだけど。

でも、どうなんだろうか? 魂が分裂して生まれた訳だし」




 僕はそう言うと、先輩が振り向きながら答える。


 先輩は、先ほどより落ち着いたけと、まだ涙が溜まっている瞳で僕を見ている。




 「先輩!」


 「えっ!」


 「今の先輩は、このままで良いんですか。

今の先輩も、弟さんの所に行きたくないんですか?」


 「・・・でも、私のせいで死なせた優に顔向け出来ない・・・」




 先輩が、そう言って再び顔を(うつむ)かせる。


 僕は、先輩から、一部始終を聞いて。

完全には納得してないが、ある程度は理解することが出来た。


 しかし、それと同時に、”先輩をこのままにしてはイケナイ”。

と言う思いも、湧き出した。


 何とかしなければならないと、思いつつ。

僕は、抱き心地が良い先輩の体に、少しだけ力を込めた。




 「あっ!」


 「・・・」




 先輩が小さく声を上げたが、構わず続けている。

すると今度は、先輩が僕の腕に手を置き。




 「諒くんは、ホントあの子にソックリ。

あの子も、普段は恥ずかしがるけど、私が発作を起こした時と、落ち込んでいる時に抱き締めてくれるの。

その時は、それが特別な事とは思っていなかったけど。

あの子が死んでから、そのありがた味が分かったの

ホント、バカだよね・・・」




 そう言って、自嘲気味に少し笑うと先輩は、僕の手の上に手を重ねた。


 先輩の手は、夏でもとてもヒンヤリしていて、冷え性と言うには違和感があったが。

生きている人間では無いと分かってから、何となく理解した。




 「ホント、諒くんは暖かいなあ・・・」




 そう言って、先輩が僕の手を(いと)おしむ様に撫でている。


 結局、昼休みが終わるまで、僕は先輩を背後から抱き締め。

先輩は、僕の手を撫でていたのであった。



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