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岬の神社  作者: 岸野果絵
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後編

 さて帰ろうとなったとき、神社の人が話しかけてきた。今日は縁日なので、特別拝観ができるという。せっかくなので見せてもらうことになった。

 案内人が洞窟の奥にかかっている布をめくると通路が続いていた。 友達が先に行き、私は一番最後につづいた。

 振り向くと布がぱさっと降りてくるのがみえた。さっきまであんなににぎわっていたのに、なぜか堂内に人の姿はみえなかった。


 二人並ぶのがやっとなくらいの通路を進む。 私のの後ろには、いつの間にか、巫女装束の白髪の老婆がいた。老巫女は能面のように無表情だった。


 なんだか違う気がした。なにかがおかしい。このもやもやした感覚はなんだろう。

 立ち止まりそうになる私の背後から、早く歩けとばかりに、老巫女が無言の圧力をかけてくる。

 いやだな。背後のプレッシャーが尋常ではない。

 前を見ると、友達との距離がちょっと開いていた。

 そうだよな。巫女が私にプレッシャーをかけてくるのは当たり前だ。こんなところでもたもたされたら困るだろう。だからだ。だから老巫女はプレッシャーをかけてくるのに違いない。

 私も嫌だった。この不気味なおばあちゃん巫女と、こんなところで二人っきりになるなんて、勘弁してほしい。

 私はスピードをあげた。


 しばらく歩くと広い空間に出た。辺りは薄暗く、全体的にぼんやり見える感じだった。

 左右には大きな壁画があるようだ。柱や梁は真っ赤で、そこに蛇の文様が描かれていた。正面は少し高くなっていて、紅い椅子があり岩がのっかているのが見えた。

 一目でわかった。その岩はあの岩だった あの御神体だ。

 私は後ずさった。

 薄暗く、全体的にぼんやりと見えるその姿は、まるで女性が紅い椅子に腰かけているようだった。

 息が止まりそうだった。

 知っている。 私は知っている。いや、知らない。知らない。知ってるはずはないのだ。 私はこんなところに来たことなんてないはずなんだ。

 私は身体が硬直して動けなかった。


 友達はそのまま前進すると、岩の真ん前に立った。

 案内人と巫女が手に持った燭台で右側の壁画を照らし、解説をはじめた。


 梁に描かれた蛇の目が光った。

 いや、気のせいだ。光るはずない。バカバカしい。


 壁画には茅葺の家々が並び、その中の一軒の屋根に真っ白な大きな矢がささっていた。そしてその家の中には長い黒髪の女性の後ろ姿があった。


 私は知っている。いや、知らない。あの女性が誰かなんて知ってるわけない。

 早くここから出たかった。

 

 私は友達の方を見た。ふたりとも食い入るように絵を見つめていた。

 巫女たちに気づかれないように、友達のバッグをひぱってみた。全然気づいてくれない。

 説明はどんどん進んでいく。私はは何を言ってるか全然聞いていなかった。


 聞かなくてもわかっていた。私は知っている。

 あの家の娘が次の巫女なのだ。巫女という名前の生贄なのだ。

 怖い。

 私はその娘がどうなるか、どんな目に合うのか知っているのだ。これ以上思い出したくなかった。

 

 感じる。あの岩からの視線を感じる。怖くてそちらの方を見ることができない。


 私は堪らなくなって友達の腕を強くひっぱた。しかし見事に無視された。

 老巫女が私の方を見た。私は友達の腕をはなし、二の腕をポリポリ掻いてごまかした。


 恐ろしかった。私は知っているのだ。

 このまま最後までここにいたら、どうなるのか。待ち構えているものがなんなのか。


 思い出したくない。考えたくない。

 とにかく逃げなければならない。

 しかし、友達は私はの気持ちには全く気がつかないようだった。私は震える膝を必死で押さえつけていた。


 説明は反対側の壁画のほうにうっつたらしい。 案内人と老巫女が反対側の絵を照らす。

 その瞬間、私は元来た道を全力で走った。乱暴に布をめくり飛び出る。そのまま一目散に神社から逃走した。


 絵を見た瞬間、私はすべてを思い出したのだ。

 私は決して振り返らなかった。

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