強気な村長、もしくは塩作り対決
そして今。
向かい合っているのは、俺、ミゼット、村長、そして……。
「何故、皆さんお集まりなんですかねぇ……」
村民大集合、である。
「村長に無茶言われちゃあ困るからな、俺たちが聞きにきた」
「ほう」
なんだ、この村長。愛されてるじゃないか。
「そうだぜ、村長。ほら、もっと背ぇ伸ばしてよぉ」
「えぁ、はい……っ!」
「はい、だってよ。あはは」
「頼りねぇなぁ!」
愛されてる、のか?
そんな風に俺が首を傾げていると、先ほど俺の頭を殴った子供が大人たちの影から顔を覗かせ、ベェーッとばかりに舌を出してきた。
「なっ……!」
なんだお前! 本来なら処罰もんだぞコラァっ!
イラっとして叫びそうになった俺をミゼットがすぐさま制す。
「エル様、落ち着いてください、子供のやることですよ」
こっちだって見かけは子供だ!って言いたい位だが……。
相手の子の母親らしき女性が「すみません」と頭を下げさせた上で、その子にゲンコツを食らわせるものだから、何とも言う言葉を失った。
……いいもん。俺大人だから。大人だからっ!
っていかんいかん、容姿に引きずられすぎである。
コホン、と一つ咳払いした。
「えっと、どなたでも構わないのですが、その、この村が塩田をやめてしまった経緯を教えてもらえませんか?」
口を開くだけでああん?とばかりに凄まれた。
……いやね、中身は大人でもさ。
こちとら一応、五歳児だぞ、五歳児!
普通だったら怯えて泣いてるぞ!
全く、エミス村と言い、この村と言い、子供には優しくしてほしいものだ。
と、村民の一人が口を開いた。
「……いく年か前、ちょうど今の領主に代替わりした頃に、大きな天災が起こったんだ」
「天災?」
「嵐は来るわ波は荒れるわ、あの年は酷かった」
その時を知っているのだろう大人たちが、うんうん、と頷く。
「そんな状態で、塩の収穫も何もあったもんじゃない。なのに……あの領主はな、これっぽっちしか塩が取れないなら畑作に変えろって命令してきたんだよッ!」
ダンッと拳が机に叩きつけられ、俺以上に村長が飛び上がっていた。おいおい。
「しかし、その前の年まではかなりの量の塩を納めていましたよね」
「当たり前だ! この辺りがまだ一領地じゃなく小さな一つの国だった時、そこの塩を担っていたのが何処だと思ってやがる! このトク村だ!」
「おお」
パチパチ、と思わず拍手すれば、まんざらでもなさそうにフンと鼻を鳴らされた。
この間、ミゼットはずっと出されたお菓子を黙々と食べている。
こいつの度胸はどうなってんだ。
「それで、そんな勝手で始められた畑作ですが……」
いかがですか、と答えの分かり切った質問をすれば、再び拳が机に落ちる。
だから村長が……いや、まあ良いか。
「うまくいくわけがないだろうが! ここらは海の近く、潮風で全部ダメになっちまうさ!」
「ですよね」
あの父親は資料も読めないらしい……。
いや、無能ぶりは分かってたことだ。
それを俺がなんとか改善する他ないのだ、ユインの為に!
「僕がここに来たのは、その状況をどうにかする為です」
「どうにかだぁ?」
「ええ」
男ども(ただし村長除く)が詰め寄ってくる。
俺はまず指を一本立てた。
「その一。この村の税の滞納分を無くします」
驚きの為に一瞬固まり、そして歓声が上がる。
もう少し、よく考えて欲しいものだ。
甘い話には、いつでも代償があるのだから。
「代わりに」
一気にしん、となった村民らに見せつけるように、俺は二本目の指を立てた。
「その二、です。塩田を、塩作りを、再開していただきたい」
「ッ! ふざけるな!」
怒号はすぐさま返ってきた。
予想通りの反応だ。
「ダメですか?」
「駄目に決まってらぁ!」
「そっちが勝手に止めろって言ってきたものを、今度は始めろだ? 寝言は寝て言え!」
それから、そうだそうだの大合唱。
あ、ちょっとマズイ。これ以上盛り上がられ過ぎると、話を一方的に切られかねない。
実際に、
「もう、この話は終わ——」
と、村民の一人が口を開きかけた。
しかしその瞬間。
カチャン、と甲高い音が場の熱気を急激に冷ました。
ミゼットが、飲んでいた紅茶のカップを置いた音だった。
「失礼いたしました。ただ、エル様の話はまだ終わってませんよ?」
にっこりと、笑いを浮かべてこちらに目配せする。
ああ、本当に……大した度胸だ。
本当に良いメイドである。金の亡者だけども。
俺は一つ深呼吸すると、改めて言葉を紡いだ。
「そうです。まだ、続きがあります」
今にも部屋を出て行こうとしていた者たちは、決まり悪そうに戻ってくる。
さぁて、本当の交渉のお時間だ。
「どうしても、その二には納得してもらえませんか?」
「当たり前だっ!」
「そうですか、では」
僕と勝負しませんか?
と、俺は不敵に笑ってみせる。
「しょ、勝負?」
「ええ。正直なところ、僕はあなた方が本当は、僕の満足のいく量の塩を作れないのでは、と疑ってます」
「はぁ!?」
男どもの怒気が迫って来る様だ。
残念ながら、お前らよりもエミス村の村長の方がより怖かった。
さらに言うなら、俺の前世の上司はその五倍は怖いんだからな!
ビビるものか、と俺は真っ向から迎え撃つ。
「だってそうでしょう、頑なに断り続けられるんですから」
「それは、お前ら領主側がめちゃくちゃな欲求を……!」
「それも、言い訳でないという保証はない」
掴みかかってきそうな男どもを、俺は自分の最高の笑顔を浮かべて制した。
中身がどうだろうと、俺の外見は幼い子供なのだ。利用しない手はない。
「だから、勝負です。塩を作って、その量で」
「塩作りで勝負だ!?」
「はい」
勝負の条件は簡単だ。
トク村の者たちは元からの塩田を使い、俺たちは、この村の海沿いで塩田の無いところの土地を借りる。
もちろん用具などは借りるものの、人材、及び技術の支援は一切受けない。
そうして、一ヶ月間で作れた塩の量を競うのだ。
「……本気で言ってるのか?」
「ええ」
「舐められたものだな」
誰かが自嘲げに言うのを、俺はまさか、と否定した。
「舐めてなんていませんよ」
「しかし、その勝負を受けるとでも?」
今度は後ろから声がする。誰かは分からないが、よくもまあ、言って欲しいことを言ってくれるものだ。
「受けてもらえると思いますよ。もしもあなた方が勝てば、提案のその二をのむことなく、滞納分の税が無くなるんですから」
「ほう」
感嘆めいた声が上がった。
ふふっ、良い感じだ。そう笑いそうになる俺の気持ちを止めるかの様に、大人しく縮こまっていた村長が口を開く。
「あの、その勝負。負けたら……どうなるんですか」
「始まる前から、負ける心配をするんですか?」
「いえ。ただ、全ての条件を聞いておかないと。その、そちらが後悔なさるんじゃないかって、思いまして……」
口調こそ、少し震えていたけど。
その瞳はまっすぐ俺を見ていた。
……へぇ、この村長もちゃんと強いじゃないか。
「どうだったよ、ミゼット。今日の俺は?」
馬車の中、館へ戻る道すがら、そんなことを聞けば、ミゼットはふん、と鼻で笑った。
「いつも通り……すごく生意気な、嫌味な子供でしたが」
「ひでぇ」
俺は頬杖をつくと、連れてきていたもう一人に声をかけた。
「それで、ノマール。どうだった?」
「は、はい。見てきましたが……おっしゃられた通りになっていました」
「それは良い」
俺がニヤリと笑えば、ほら、とミゼットが呟いた。
「やっぱり嫌な子供じゃないですか」
「うるさい」
ああ、早くユインの癒しが欲しいものだ。
11/22 一部改稿