塩作りの村、もしくは気弱な村長
短いです。
「塩ですか……」
「ああ」
この領地は海に面してるっていうのに、どうしてか塩の生産量が少ない。
ただでさえ塩は高いっていうのに、それを他の領地からの輸入に頼っているのだから、その値段はそれはもう凄いことになっている。
だからって、塩がないと困る。
冷蔵庫がないこの世界、保存するにも塩がいるし、味付けも主に塩、プラス香辛料くらいのものだ。
昔、よく国による塩の専売が行われたのも、必ず売れると分かっていたからである。
だから結論として。
塩を他の領地から輸入するのをやめて、自領で作り、経費を削減する! 作戦を決行することにした。
「それで、今度はトク村ですか?」
大分俺に慣れてきたのだろう、怯えが消えてきたノマールが俺に聞いた。
……相変わらず目は合わないが。
「そうだな。トク村は昔は塩を生産していたのに、何年か前から畑作に移ってる。が、塩田をやっていたような地域だ、塩害が酷すぎて作物なんかまともに育っちゃいない」
ちなみに、エミス村と同様、この村にも割と早い時点から目を付けていた。
それでも手を出さなかったのは、畑作から再び塩作りに戻すのには時間もリスクもエミス村の比じゃないからだ。
エミス村という実績を付けてから行く方が、まだ説得しやすいと踏んだのだ。
「ミゼット、馬車を」
「しかしあの村も……いえ、了解しました」
何か言いかけたので、それを聞こうとした時だった。
部屋の扉がパタンと開く。
「おにぃたま、お出かけ?」
「ああ、うん、まぁね」
「といとーつ、ね!」
「ん?」
なんだ?
ユインは多分、ソイソースを挨拶かなんかと誤解しているようだけど……。
「おにぃたま、といとーつね!」
……とりあえず、出かけるのはあの可愛いのを抱きしめてからにしようと思う、うん。
「ほ、本日は、お、お日柄も良く……」
残念ながら、今日は重々しい曇り空だ。
トク村の村長だと名乗ったカムンという小男は、終始ビクビクと震えていた。
……うちの執事のノマールと気が合いそうである。どちらも目が合わないし。
ただ、こちらの方がずっと重症そうではあるが。
正直、エミス村の方の村長ともぜひ一度引きあわせてみたいところである。
馬車の中でミゼットに、
「気をつけてください、あの村は強いですよ」
と言われて緊張していたのだが……この村長を見た限り、それはなさそうだ。
ミゼットなりのブラックジョークか何かだったんだろうか。
「あの、ご機嫌、麗し……」
「前置きは無しにしましょう? 僕は話し合い……いえ、交渉に来たのですから」
一応、外行きモードで話す。
は、はいっ、と飛び上がらんばかりに答えられて、僕は思わず頭をかいた。
そう硬くなられると、こっちもやりづらいんだけどなぁ……。
「そういえば、海の近くに今だ塩田の痕跡が多く残っておりましたね」
「へ、あ、はいっ、その……もしかすると、今度はまた塩作りをしろと言われるかもとしれないかと……」
「今度? また?」
ちょっと待った。
その言い方だと、まるで……。
「もしかして、いや、ないと信じたいんですけど……畑作にするよう言ったのは、現領主ですか?」
「は、はい」
マジか……。
正直、崩れ落ちそうな気分だが、詳細を聞かないわけにはいかない。
「それは、一体どういう経緯ですか」
「え……えっ?」
「詳細を聞かせてください!」
「え、その、えっ!?」
待ってください、とその顔が怯えに染まるが、正直待ってる余裕はない。
「質問に、答えてください!」
そう思わず怒鳴ってしまった俺の後ろでいきなりテヤァッと声が聞こえて、そして頭に衝撃が奔る。
「村長をいじめるなっ!」
「いっ……!」
振り向けば、五歳くらいの子供が眉を釣り上げて後ろに立っている。こいつが殴った犯人か!
だから言ったじゃないですか、と隣でミゼットが呟いた。
「トク村は、強いんですから……主に村民が」
「そこまで言ってねぇよ!?」
忠告は、出来れば最後まで言っていただきたいものである。