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ひんしの夢、もしくは開戦宣言

ご無沙汰しておりますm(_ _)m

「おにぃたま!」


トテトテとユインが駆け寄ってくる。

ああ、ユインは今日も可愛い。

地上に舞い降りた天使、いや天使でさえユインの可愛さには劣るかもしれない。


会いたかった、とばかりに抱きつこうとしたら、するりと抜けられる。


「……ユイン?」

「おにぃたま」

「なに?」

「あのね、ユインね、おにぃたまよりもずっと、ずぅっとすきな人ができたの!」


え。


「しょうかいするね! ユイン、このことけっこんすりゅの!」

「どうも、こんにちは——お義兄さん?」


そんなことを言ってお辞儀してくる黒い影のような男に、俺はビシリと指を突きつけ言い放つ。


「誰がお義兄さんじゃこのロリコンが!」







「——という夢を見た」

「夢ですか」

「ああ、夢だ」

「そうですか……」


トプトプと紅茶を注ぎながら、ミゼットはわざとらしくため息をついた。

なんだよその呆れ顔は、と言いながら注がれたばかりの紅茶を飲む。熱っ!

……舌を火傷したのを悟られないように、とりあえず朝食のパンを口に突っ込んでおいた。


ちなみに今は、自室でミゼットと二人きりである。

親との食事を避けるために、体調不良ということにして部屋に閉じこもっているのだ。


「私はてっきり……」

(ふぇ)何て(ふぁんへ)?」

「……行儀が悪いですよ。飲み込んでからお話しください」


おっと、いけない。ゴクリと口の中のものを飲み込んだ。

これじゃユインのこと言えないな。


「で、何て言ったんだ?」

「いえ、私はエル様があまりに真剣な顔をなされているものですから。そろそろ何かなされるつもりなのかと思ったのですけどね」

「ふぅん、そうか」

「夢の話とは。残念です」

「残念って、お前な」


俺にとっちゃ死活問題だってのに。

割と命の危機だったぞ、HPゲージ真っ赤になって警報アラーム鳴るくらいにはな。

あの夢が現実だったら“ひんし”間違いなしだ。


「でもまぁ確かに、今日あたり行動起こすつもりだったけどさ」

「へぇ、そうだったんですか……えっ!?」

「えっ?」


ミゼットの驚いた顔と目があって逆にびっくりする。

なんだよ、そろそろかって思ってたんじゃないのか?


「あの親たちの滞在はあと何日だ?」

「あと三日ほどの予定ですが……」

「ほら、ちょうどいいぐらいじゃないか?」

「ええ……ではなくて! 何か、なされるのですか!?」

「だからそう言ってるだろ」


口にティースプーンを咥えながらそう返せば、スプーンを思い切り引っ張り取られた。

痛い! 地味にそれ歯に当たって痛いから!


「誤魔化さないでくださいませ! それで、何をなされるおつもりなのですか!?」

「何って、簡単だよ。俺直属の兵士たちを集めて話をするんだ」

「話とは?」

「それは教えられない」

「エル様っ!」


ミゼットがバンと机を叩くものだから、カップが大きな音を立て紅茶が跳ねた。

おいおい、そっちの方が行儀悪いぞ。


「敵を欺くにはまず味方からってやつだ、ミゼット。シグンのおかげで潜入者は割り出せてるけどな、向こうがお前のことを知っているのか否までは分からない」

「それは……!」

「まぁ、俺なりの安全策ってことだ。別にミゼットを信頼してないわけじゃない」


ミゼットはギュッと眉を寄せたまま、渋々とばかりに頷いた。よし。


「だから、話の内容は——」


俺は紅茶をゴクリと飲んだ。

フッと微笑む。


「その時までのお楽しみってわけだ」


……なんて格好つけてみたが、いかん、すっかり忘れていたけど火傷していた舌に紅茶がしみて、地味に痛い……!






そして、その日の昼。


「えっ、今何と!?」


ミロロの驚く声に、俺はニヤリと笑った。

俺の言葉を聞いた他の面々も皆一様に驚きと困惑を露わにしている。

ミゼットなんて、あまりのショックに言葉すら出ていないくらいだ。


かろうじて通常運転なのはトウガとクロエだが、そもそもトウガは無表情すぎるしクロエは戦闘狂だしで、存在そのものが例外と言えなくもないけど、まぁいい。


周囲の顔をぐるりと見回す。

シグンに目配せし、聞き耳を立てる者などがいないことを確認して、俺は口を開いた。


「いいか、もう一度言うぞ。明日の朝の鐘と同時に屋敷を制圧してくれ(・・・・・・・・・)


ゴクリと息を呑む音と、たった五歳なのにと呟く声が聞こえる。

俺はさらに付け足した。


「明日の正午に、王都から役人を呼ぶ用意がある。表向きは、大分以前の話にはなるが俺を襲撃した犯人の、その引き渡しだ。けれど実際は、父親の告発(・・・・・)をしようと思っている。税の過剰徴収でな。だから、それまでに父親が抵抗できない状態にしておきたいんだ」


俺が言い終わると共に、皆の表情はほぼ二分化された。すなわち覚悟と、困惑に。


「あの、エルシアーク様、」

「俺から言えることは」

「……」


何かを聞こうとした者の声を無理やりに遮って、俺はニコリと笑いかけた。


「俺から言えることは、たった一つだ。俺の言葉を鵜呑み(・・・・・・・)にするんじゃなく(・・・・・・・・)自分の勘(・・・・)を信じて(・・・・)——最善と思われる行動をしてほしい」


それだけだ、と言って俺は解散の号令を出した。

他の者たちが忙しくなる両親の昼食時の隙をつき、尚且つ目立たぬように訓練場の裏に集まらせているとはいえ、長くなればなるほど怪しまれる危険は高まる。


未だ納得のいっていない表情の者もいるが、問題はない。

トウガに視線を送れば、意を得たりとばかりに頷きが返ってきた。うん、頼む。



少しすれば、何か聞きたげな様子のミゼットだけを残して、皆上手く散った。


「エル様、一体どういうつもりなのですか」

「何が?」

「本気なのですか、先ほどの言葉は」

「どの言葉のことだよ?」

「またそうやってはぐらかして……!」

「ああ、確かにはぐらかしてる。でもな、俺は大事なことは全部言ったぞ」


そう挑むようにミゼットを見れば、ミゼットは一瞬眉を寄せて、それから諦めたように深くため息をついた。


「では改めて聞きますけど、わざわざ襲撃者を城の地下牢に留めておいたのは、この為ですか? 役人の手配はノマールが?」

「どちらの質問の答えも同じだな。“そうだよ”」


俺があれ以上答えないと見ると、質問の角度を変えてきた。

こういうところ、ミゼットは聡くていい。


「あまりに長く置いて置かれるので、エル様は彼らを味方にでも引き込む気なのかと思っていましたよ」

「いやいや、いくら温厚と言われる俺でも」

「誰が言ったんですか、それは」

「……ともかく、罪のない人を無闇に殺したり、俺みたいな子供を襲ったりするような奴を引き込むわけにはいかねぇよ。それに……」

「それに?」


ミゼットが促すように俺に問うてくる。

笑みを返して、俺は続けた。


「それに、もしかしたらあの馬車にユインが乗ってたかもしれないんだぞ。ユインを傷つけてたかもしれないんだ。許すわけにはいかないだろ」

「……そうですか。そうですね」


くすり、とミゼットが笑いをもらす。


「なんだよ」

「いえ、ただ、エル様は揺らがないなと思いまして。エル様はいつだって……ユイン様の為に動いていらっしゃるものですから」

「そりゃあな」

「ええ。だからその妹好き(ぜったい)は信用してるので——もう何も聞くまいと思ったのですよ」


そう言って、ミゼットは驚くほど柔らかく笑った。




まだいたのかよ襲撃犯あいつら!? と思われた方も多いでしょうが、そうです、まだいたのです。


ところで文中の「え、何て?」の所で突然8.○秒バズーカの「えっえっ何て?」が脳内にログインし、延々とラッスンゴ○ライのループが始まって大変でした。

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