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詰めの甘さ、もしくは罰と痛手

予告より一日遅れてしまいました!

すみません!

俺たちは今、ユインの特訓のため、森に来ている、のだが。


「そう、怒るなよミゼット」

「……怒ってなどいません。たとえ一世一代とも言える告白を無視されたからと言って、怒る理由にはならないでしょうからね、エル様にとっては」


怒ってるじゃないかよ。

しかし、これも別に俺がユインの特訓を見たかったからという理由……だけじゃない。


「だって、館の中でこれ以上話を続けるのは危なかったからな」

「危ない?」

「ミゼット、恐らく覚悟と緊張のための不注意なんだろうが……あの館の中の人間に、他に内通者(ユダ)がいないと、保証できるのか?」

「——!」


そう。ミゼットという、俺に最も近い立場まできた人間がいるのだ、他にいないとは確証できない。


「……なるほど、私が浅慮でした」

「いや、何もそこまでは言わないがな」

「エル様、二つほど、聞かせていただいてもよろしいですか」

「ああ」


二つと言わず、別にいくつ質問してくれても構わないのだが。


ミゼットはまっすぐ俺の目を射抜いていた。


「本当に、知っていたのですか?」

「知っていたというより、気付いていた、かな」


いつです、とミゼットは身を乗り出した。


「いつ、気づかれたのですか?」

「うんん、そう聞かれると、明確には答えづらいんだが……少し前のユインの生誕パーティーがあったろ」

「はい」

「その時には、ほぼ確信していた」


確信ですか、と繰り返す。


「ああ。感づいたのはもっと前だな。襲撃の一件以来、様子がおかしかったし」

「そんな、前から……」

「ミゼット」


愕然とした様子のミゼットに、俺はズイと顔を近づけた。


「お前、あの事件が起こること……分かっていたのだろう?」

「——ッ!? 何故、そこまで……!」


知っていたのですか、と聞くミゼットに、そう思っただけだと返すと、そんな、とばかりに目を見開いていた。


「私は、そんな容易く勘付かれてしまうほど、何か失敗をしましたか……?」

「いいや、失敗というより、詰めが甘かったんだ」

「詰め……?」


遠くで聞こえるユインとクロエのはしゃぐ声が妙におかしくて、笑いそうになる顔を引き締めながら、まず事件の時だ、と俺は指を立てた。


「いくら俺付きのメイドとはいえ、普通は命まで簡単に賭けれないものだし、御者はアッサリと殺しておいて、メイド(ミゼット)には警告をした。これが一つ目の違和感」

「……」

「そして俺が狙いであるはずなのに、相手は『俺を寄越せ』ではなく、『ミゼットに来い』と要求したっていうのが、二つ目の違和感だな」


本当に反乱なら、狙いは俺だ。

だが、あいつらは俺にはあまり目を向けていなかった。

ミゼットもまた、自分が呼ばれるのを前提のように行動していた。


「だから、推測したんだ。もしかしたら、これは何らかの作戦で……そして、ミゼットは自分が殺されないことを事前に知っていた、んじゃないかって」

「……そう、ですか」

「あとは、手紙の内容かな」

「手紙? 領主に出した、あの手紙ですか?」

「ああ」


あれはミゼットが出したんだろう? と聞くとゆっくり頷かれた。


「何と言うか、ここでも詰めが甘いって言葉が合うんだが、手紙にはトク村のことが書いてなかった」

「……ええ」

「最初は単に情報不足、知らなかったのかとも思ったんだが。でも、その時に思っていた内通者の印象からして、それはないと思った」


俺の描いていた像は、いわゆる賢い策略家。

だからこそノマールじゃないと思ったし、その人物が甘い行動を取るとしたら、それは……。


「わざと、だ」

「え?」

「わざと、俺に抜け道を残した。本人の意思がどうかは知らないがな」


もしも、トク村のことがバレていれば、俺はあの時点で終わっていた。

エミス村とは違う、あの親が塩作りをするな、と言ったところにそれをさせているのだ。

親の領地経営に完全に口出しした形になってしまう。


塩作りの勝負を止められれば、少なくともトク村や他の村々からの信用を失う。

それだけじゃない、俺と親との不仲が明るみに出れば、遠からず領内は俺派と親派に割れるだろう。

そうなった時、一応伯爵位を持つ領主と、十にも満たないその息子とだったら……多くは前者を取るに違いない。


「いや、そもそも狙いはその過程にあると思った」

「っ!」

「領内が荒れれば、得をする人物がいる。違うか?」

「……ええ、そうです。貴方の、エル様の敵は……その得をする人間、ですよ」


当たった、と俺が少しニヤリと笑うと、ミゼットはむしろ困惑したようだった。


「……どうして」

「どうして? どうしてそう思ったかってことか? それは——」

「違いますっ!」


ミゼットは怒鳴るように言った。

ユインらにも聞こえてしまう、と鎮めようとしたら、その手は払いのけられた。


「どうして、そんなに前から感じていて、事件のことも知っていて! 敵の狙いまで読んでいたのに、私を放置していたのですか!? どうして……!?」


そっちか、と俺は内心にため息をついた。

だってそんなこと、決まり切っている。


「お前が裏切り者でも放っておくし、許すさ。もちろん、俺がミゼットのことが好きだから、なんて理由でもない」

「で、では何故!?」

「ミゼット……お前、大事なことを忘れているな」


俺は恐らく、満面の笑みを浮かべていた。


「俺は、妹好き(シスコン)なんだぞ?」


ミゼットがいないとユインが寂しがる。

理由なんて、それだけで十分だ。


ミゼットは目を見開いて……それから呆れたように、そうでしたね、エル様はそういうお方でした、と笑った。


「しかし、これでは示しもつきません。私は、エル様たちを、裏切ったのですよ」


たとえ貴方が許しても、私は自分を許せません、と言うミゼットの瞳は濡れていた。


「そんなに、罰が欲しいのか? それなら……」


俺は近づけられたミゼットの顔を掴み、額にデコピンをする。

ミゼットの瞳が困惑に揺れた。


「はい、これで罰したな」

「え? ええ? こんな、軽いもので……」

「軽くたって、俺の決めた罰だ。だからもう、罪の意識に苦しむこともない」


俺がニッと笑うと、その頬を、次々に雫がつたっていく。

ああ、何も泣くことないじゃないか。


「だって、ミゼット、お前がわざわざ明かすってことは策があるってことだろう?」

「ええ……勿論です」


なら、いいだろう。

俺はユインを悲しませずに済み、敵にやられずに済む。


ただ、ミゼットとの関係が変わってしまうかもしれないことが気がかりだ。


「ミゼット、今まで通りに、してくれよ。俺は、そっちの方が……良いから」

「はい」


本当に、それが可能かは分からないが念押すようにそう言った。


他には何の問題は無い、何も——


「おにぃたま? ミゼット?」

「ゆ、ユイン!?」


いつの間に!?

というか、俺のユインレーダーが反応しないだと!?

故障中か!?


ユインは俺とミゼットの間で視線を往き来させて、それから少し眉を寄せた。


「おにぃたま」

「な、なんでしょう?」

「どうなってるの?」


どうしよう、ユインがご立腹だ。

とりあえず、その原因を聞いてみる。


「ど、どうなってるって、何が?」

「ミゼットがないてる」

「ああ、それは……」

「おにぃたまがなかせたの!?」

「えっ!?」


あ、そうか、客観的に見ればそうだ。

でも、違うとも言い切れない、あれ、どうしよう。


思わず、ミゼット本人に視線で助けを求めてみる。

ミゼットは、涙を流しながらも、コクリと頷いた。


「ユイン様、この涙は、ですね……」

「うん」


チラリとこちらを見たミゼットと目が合った。

……あれ、なんだか嫌な予感がする。


「エル様のせい、ですよ」

「えええっ!?」

「やっぱりっ!」


ちょっと待て、ミゼット!

いつも通り、とは言ったけど!

そしてユイン、やっぱりはひどいんじゃない!?


てんちゅー! と叫んで飛びかかってくるユインの後ろで、ミゼットがクスリと笑っていた。


飛び込んできたユインをそのまま抱きしめながら、俺も笑った。


こんな風に、日々に戻れるなら、それが一番良い。

たとえ——


「ごふっ!」

「おんなのこをなかせたら、てんちゅーなの!」


腕の中で暴れていたユインの拳が顎にヒットする。


まぁ、たとえ少々の痛手がつきものだとしても。

痛手(物理)

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