新たな騎士、もしくは妹の一撃
アンケートにご協力くださいまして、ありがとうございました!
これにて、アンケートは締め切らせていただきます。
そして、結果……こうなりました。
「まずは、名を名乗れ」
俺がそう言うと、膝をついていた女は失礼しましたっ!と大きな声を返した。
……うるさい。
「私は、クロエ・シラルド・フォン・ルクセント……」
クロエっていうのか、と俺は言おうとしたが。
「セルシテムル・アラン・シクラム……」
「まだ続くの!?」
異世界風じゅげむか!
「タターラオ・エルバ・……あれ、この後なんだったかな……」
「忘れるくらいなら短くしろよ!」
そしてこいつ、自分の名前忘れるとか、大丈夫か。
クロエ……なんたらはガバッと頭を下げた。
「申し訳ありませんっ! 忘れましたっ!」
「お、おう……」
正直で何よりだが、この体育会系すぎるノリは苦手だ。
最近、醤油や味噌関連で色々外に出て行動しすぎたきらいがあるが、俺は前世のころから基本的に引きこもりならぬインドア派なのだし。
ちらり、とユインを見れば、疲れたのかウトウトしかかっていた。
ああ、癒される。
胸が大きかろうが美人だろうが、やっぱりユインに勝てるものはいないよね。
ユインをぎゅーとしてみれば、突然で驚いたのか、ビクッとして俺の方をマジマジと見つめてくる。
「おにぃたま?」
「〜〜っ!」
可愛い!
悶絶してさらにギューと抱きしめていると、
「あの、エル様っ! それでご返事はっ!?」
クロエなんたらに声を掛けられた。
ちっ、ミゼットに負けず劣らず鬱陶しいやつめ。
「あ、えーと。とりあえず、幾つか質問させてくれ。まず一つ。何でこんなに名前が長いんだ?」
「私の地方の風習に、親や祖父母、曾祖父母の名前を入れるというのがありましてっ!」「じゃあ、自分の名前だけだと?」
「クロエ・ザクルールです!」
「それだけなのかよ!」
あれを聞いた後だと、びっくりの短さだ。
と、ミゼットが俺の耳に囁く。
「ザクルールと言えば、騎士の名家ですよ」
「そうなのか?」
「ええ、王家に仕える者も多く輩出しております」
名家出身……これが、か?
偶然おんなじ苗字なんじゃなくて?
「じゃあ、二つ目だ。俺の、護衛になりたいって言うのは……?」
「あっ、 はい!」
なんだか、敬礼でもしそうな勢いだ。
「私は、エル様のお祖父様、レイアン様にここに雇っていただきまして、その恩を返したいのです!」
「恩?」
「レイアン様だけが、私の腕を買ってくださったのですっ! 我が実家は、知っての通りのザクルール家ですから、女と言うだけで爪弾きにされていたのですが」
会話している印象からしたら、爪弾きにされてたのは女であることだけが理由じゃない気がする……。
「しかし、そのレイアン様が亡くなり、今の領主様がこの領地になかなかいらっしゃらないとなれば……そう、あなた様しかいないのですっ!」
「消去法かよ!」
レイアン……俺の祖父に当たる人は、ほんの八年前までこの領地を治めていた。
彼の時代、この館には優秀なものばかりがいた。
ただ、その者たちは既に他領に流れてしまったと思っていたが……。
まだその時からの者もいたわけだ。
なんだかちょっと脳筋っぽいけど。
……うん、こいつなら、任せてもいいかもしれない。
「お前の思いは十分に伝わったよ、クロエ」
「ほ、本当ですかっ!?」
「ああ、護衛になってくれ」
喜びの叫びでも上げそうになったクロエを、ただし、と制す。
俺は、自分の腕の中に視線を向けた。
つられて、クロエの視線も動く。
「俺じゃなくて、妹の、な」
数秒後。
しっかり意味を理解したらしいクロエはぷくーっと頬を膨らませた。
可愛くないぞ、ユインじゃないんだから。
「なぜ、ユイン様なのですか」
「何故も何も、ユインだってレイアン様の孫だぞ?」
「しかし、私は次期領主様であるエル様に仕え、この家に恩返しをしたいのですっ! だからユイン様では……」
自分の名前が出ているからか、ユインがキョロキョロと俺とクロエとを見つめる。
「おにぃたま、ユインがなにー?」
「あ、いや、なんでもないよ」
「むー」
仲間外れにされたと思ったのか、今度はユインが頬を膨らませた。
やっぱり、こっちは可愛いよなぁ。
と思っていると。
「もういいもん、おにぃたまじゃなくて、もふもふとあそぶもん!」
「え?」
「もふもふー」
ユインはそのまま俺の腕をくぐり抜け、トウガの尻尾に飛びついた。
俺がショックのあまり固まっていると、そういうことですか、とクロエが納得がいったとばかりの声を出す。
「あの者がいるからダメなのですね! ならば勝負ですモフモフ! さぁ、どこからでもかかってきなさい!」
「いや、もふもふは名前じゃねぇよ……」
というツッコミもユインショックにより威力半減中である。
ユインに声をかけてみれば、
「ゆ、ユイン」
「かくしごとするおにぃたまなんて、やっ!」
ぷいっと顔をそらされた。
「くっ……!」
ガクッと崩れ落ちそうになるが、まずはこの女騎士をどうにかしなきゃならない。
クロエ、と呼びかければはいっとまた体育会系の挨拶が帰ってきた。
「……いいか、俺がお前をユインの護衛にするのは、むしろ、お前を買っているからだ」
「私を買っている?」
明らかに表情が変わった。
分かりやすいな……。
「そうだよ。俺の一番大切なのはユインだ。だから、俺は自分が怪我することよりユインが傷つくことの方が怖い。つまり、だ」
「つまり?」
「ユインを守るってことは、俺自身を守る以上に、俺を安心させてくれる。俺の護衛以上に、俺の役に立つってことだよ」
おお、とクロエが感嘆の声を上げた。
ここぞ、とばかりににっこり笑ってみる。
「やってくれるな、ユインの護衛」
「もちろんです!」
チョロい、チョロすぎるぜ、クロエなんとか……!
「嫌な子供ですね」
「うっせ」
ミゼットに言い返すと、俺はユインに近づいていった。
「ユイン?」
「……なぁに、おにぃたま」
またぷくーっと頬を膨らませられるけど、チラチラッと俺を窺っている。
「ユイン、ちゃんと話すからお兄ちゃんのとこ、来ない?」
「……ほんと?」
「本当だよ!」
ユインはトウガの尻尾をパッと離して、俺の元にタタタッと寄ってきた。
「その……クロエには、ちょっとお願いしてたんだよ」
「おねがい?」
「そう、ユインの遊び相手になってくれないかなって、話」
「……?」
ユインがゆっくりと首を傾げる。
「クロエ、ユインとあそぶの?」
「え? 私は護衛……」
「クロエ」
「じゃなくて、ユイン様と遊びます、はい」
「……そうなの?」
「そうですっ!」
「そうなの、おにぃたま」
「そうだよ!」
ユインがもう一度むーと唸って、それから、
「ふわっ!」
変な声が出た。出たけど、仕方ないだろ。
だってユインが抱きしめてきたんだもん!
「おにぃたま」
「……な、なぁに」
ユインが、上目遣いで俺をじっと見てくる。
……昇天しそう。俺、昇天しそう。
「や、なんていって、ごめんね、おにぃたま。だいすきだよ」
「っ! うん」
ああもう、可愛いなぁ。
そして後日。
「おにぃたま、おかえり〜!」
エミス村へ戻った帰り、ユインが駆け寄ってきた。
後ろからはクロエもやってくる。
満面の笑みでこっちに向かってくるユインを手を広げて迎える。
しかし。
「ユイン、ただいまー! ……ぐふっ!?」
強烈なボディーブローを食らい、思い切り咳き込む。
「ゴホッゴホッ、ゆ、ユイン……!?」
パッと上げられた顔は、満面の笑みのままだ。
「あのねっ! クロエがね、ユインはせがひくいから、ふところにずつきしたらいいんだって!」
どうだったおにぃたま、と楽しそうに聞いてくるユインに曖昧に笑う。
その後ろを見れば、ドヤ顔が目に入った。
クロエ……。
「ねぇ、どうだったおにぃたま!」
「う、うん……」
ちょっと早々に、業務内容を確認した方が良さそうだ。
クロエの名前、動機、性格など、様々な方の意見を参考にさせてもらいました。
本当に面白いものが多くて、とても迷ったのですが、こうなりました。
今回使えませんでしたものも、いずれ使えるときがあらば使わせていただきたく思うので、よろしくお願いします!
本当に、ありがとうございました!




