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子供扱い、もしくは持て余す感情

お気に入り3000人超え、感激です!

「俺は安心したんだぞ」

「私もです」

「……うるさい」

「お前が見かけ通り、ちゃぁんとガキなところもあるって分かってなぁ」

「そうですよ、ちゃんと子供で良かったです」

「う、る、さ、いっ! ガキって言う方がガキなんだっ!」


と、我ながら子供だと思いながら、ラムロとミゼットに噛み付くように言葉を返す。

エミス村の者たちが、クスクスと笑った。

このふざけたような会話が、事態を深刻に思わせないための一種のパフォーマンスであることを、俺も分かってはいたが……。


分かっていることとイラつくか否かは、全く別の問題なのである。





あの後。

混乱した場を収めたのは、ミゼットの外套を届けにきたラムロだった。


村長のくせにパシられてる……というわけではないらしい。

単にラムロの馬が一番早いのと、俺に話し忘れたことがあったから、だそうだ。


「お前……!」


と、光っていた俺を見て驚きの声を上げたが、しかしすぐにそんな場合でもないと分かったようだ。


すぐさま襲撃犯の一人を打ちのめし、鞘に入ったままの剣を奪い取ると——



そこからは、ラムロの独壇場だった。



近くにいた者を全て一瞬で倒すや否や、ミゼットを捕まえようとしていた男に向かって走り出す。

庇おうと前に立った者たちも、目にも留まらぬ速さで撃破された。


ラムロはもう、すでに首謀者の男に迫っていた。

男の顔が怯えに染まる。


「おい、来るな、この女がグゥエッ!」


ミゼットを盾にでもするつもりだったようだが、その暇はもちろん、最後まで言う間もなかった。

ラムロの剣がその体に届く。

ぐたり、と白目を向いて男は崩れ落ちた。


ミゼットのそばに慌てて駆け寄る。

その体は震えていた。


ラムロが倒した男たちを見る。誰一人、ピクリとも動かない。


「そ、そいつら……殺したのか」


俺が恐る恐る聞くと、ラムロは剣を軽く振ってから鞘に納めて答えた。


「案ずるな、峰打ちだ」


安心した。安心したが。

……お前は一体どこの剣士だと問いたい。

そしてそもそも、両刃の剣での峰ってどこだよ?





まあ、そんなこんなで、ラムロが襲撃者たちを倒し、そして縛り上げたところまでは良かったんだ。

しかし、憎きはこの五歳児の涙腺の緩さだ。


「くっ、ふぅっ……!」


遅れてきた恐怖と、そして安堵のせいで俺の目からは涙が次々に溢れてきた。

ラムロもミゼットも、突然泣き出した俺をぎょっ(・・・)とした顔で見ていることは分かった。


だけど止まらなかったのだ。


珍しく表情を和らげるミゼットと、元気づけるかのように笑うラムロに肩や頭を撫でられながら、俺はただただ泣き続けた。



……そう、この瞬間は、二人とも優しいなと思っていたんだ。


それが、今になったら、


「それにしても、良い泣きっぷりでしたね」

「はは、わんわん泣いてたな」

「〜〜〜っ!」

「まぁ、良かったんじゃないですか。正直、エル様みたいな五歳児ってちょっと薄気味悪いですし。ほら、愛嬌が出たと思って」

「思えるか!」


こんな有様だ。酷いにも程が有る!


いや、俺も俺ではあるのだ。

これでも中身は25歳、もっとこう、落ち着き的なものが欲しいところなんだが、前世から子供っぽいとは言われてたしなぁ……。


さらに容姿に引きずられたのか、今の俺は、25歳にしては幼く、5歳にしては大人びているという妙な現状である。


だが、だからと言ってこれ以上からかわれるのは勘弁だ。


「そういえば、俺の体が光ったアレは、一体なんだったんだ?」


不自然じゃないように話をそらす。

もともと聞きたかったことではあった。


俺も詳しくは知らんが、と前置きしてラムロが口を開く。


「あれは、感情が高ぶって魔力が溢れたんだろう」

「魔力?」

「ああ、魔力だ。貴族なんかにはよく現れると聞くが、本当だったんだな」


何ともなしに言うが、俺にとっては一大事だ。


「ちょ、ちょっと待て、魔力があるってことは……魔術があるってことか!?」

「魔術? 魔法のことか?」

「そうだ。ってことは、あるんだな!?」

「ああ、あるが……」


あるんだ、魔法!

すごい、異世界っぽいじゃないか!


しかし、そんな風に興奮する俺に釘を刺すのは、やっぱりミゼットである。


「何がそんなに嬉しいのかは知りませんが、魔法と言っても、童話に出てくるような大魔法を撃てるものなんて、今やもういないのですからね。大抵の者は、できてもせいぜい空気を少し冷やすとか、暖めるとかその程度ですよ?」

「えぇ!?」

「そうなのか?」


まさかのエアコンレベルかよ!?

隣を見れば、ラムロも知らなかったらしい。

魔法がどういうものなのかは、一般にはあまり知られてないのかも知れない。

じゃなきゃ、エアコン相手にあの襲撃犯たちもあんなに怯えたりしないだろう。


俺の中の期待がプシューと音を立ててしぼむ。

そうか……いや、できたらすごいんだけど、それでもその程度か……。


それに、今も力を練る、みたいなことをやろうとしているけど、一向に手応えはない。

人間エアコンへの道は、結構厳しそうである。


俺は諦めてもう一つの質問へと移ることにした。


「じゃあ、俺たちに伝え忘れてたことってのは何だ?」

「伝え忘れ……ああ」


思い至ったらしいラムロは、少し困ったように顎を撫でた。


「これはもうすでに遅いんだがな」

「ん?」

「護衛をつけるべきではないか、ということだ」


……なるほど。それは確かにちょっと遅いな。


「もしも護衛がいないなら、村から誰か貸そうか、という話をしようと思っていたんだ」

「あー……いや、そうだな。少しの間だけ頼みたい。ちゃんとした護衛を見つけるまで」

「そうか」


ラムロは了解した、とばかりに頷いた。


ちなみに、襲撃犯たちは今や縄で縛られ、村の納屋に閉じ込められている。

俺たちが館に帰り次第、館の兵士を派遣して館に連行することになっていた。



「じゃあ、そろそろ出る。村長……助けてくれて、ありがとう」


手配してもらった男とともに馬車に乗り込みながらそう言うと、後ろでラムロの笑い声が聞こえた。


「ちゃんと礼が言えるんだな。感心だ」


……だから、子供扱いするなっての!





×××




トク村で様々な指示を出し、気丈にも襲撃されたことを悟らせないように動いていたエルだが……流石に疲れてしまったらしい。


帰りの馬車の中、スースーと無邪気に寝息をたてて眠ってしまっていた。


起きている時どうであろうと、寝顔はただの子供に過ぎない。

口を少し綻ばせて、ミゼットはその額の髪をパラパラと払った。


その瞬間、頭に蘇る声がある。


『俺は、あの領地が欲しいのだ』


男の声。ミゼットは、その欲にまみれた声が嫌いだった。


『内側で不和が起こる、その隙に全てを攫えば俺は逆賊でなく救世主となる。ははっ、最高だ。いいか、内から存分に搔き乱してこい』


男は、自分に酔うように言った。


しかし、その方針も変わろうとしている。

今回の襲撃もあの男の差し金だ。


その予告が来た時点で、ミゼットは悟ってしまった。


あの男は、救世主でいたいのだ。

だから、この領地には幸せになってもらっては困るのだ。

無能な領主に荒らされた地でなければならない。

その為には、エルが何かしてしまってはいけない。


つまり、あの男はエルを利用してこの領地を乱すことより、エルの存在を消す(・・)ことを優先すると決めたのだ。


……エルとあの領主の間に揉め事が起こる、そのくらいなら良かった。

そう考えて、ミゼットは自分に聞き返した。


——良かった? 何が?

私は、あの方に飼われた間者に過ぎない。

この子がどうなろうと……。


言い聞かせるように心中でそう唱える。


しかし。

ミゼットは、エミス村に“わざと”外套を忘れた理由と、そうした自分の感情を図り損ねていた。


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