19話目:逃走1
こっちの世界での夜はかなり暗い。日本のように、無駄に電球の明かりがあり、今思えばまるで昼間のようだったあのころとは違う。
話は戻るが、何せこっちの世界には電球がない。照明器具といえば、松明の火くらいなのだ。なので、こちらでの夜は早い。無駄に松明を燃やすなど、燃料の無駄遣いだからだ。
だが、今はかなりの明るさがある。盗賊達が襲ってきた際に馬車の一つに火をつけたからだ。馬車の荷物が燃える炎で、まわりが良く見渡せた。
盗賊がちょうど馬車隊の左右から攻めていて、どちらもだいたい10人前後くらいだろうか?それに対して奴隷商側は、ごっつい兄ちゃん4人と、護衛の兵士が6人ほどか…。盗賊はそれぞれが1人に対して2~3人であたっているので、護衛側は次々と傷をおっている。おそらく長くは持たないだろう…。
「どうする?逃げるか?」
「ああ、一気に外に出て駆け抜けよう。あと、バラバラに逃げるんだ。」
「えっ、どうして?」
「その方が、見つかった時に殺される確率が減るからだ。」
僕達は、おっさんを軸に作戦をたてていた。おっさんは、奴隷の割にはたぶん頭がいい。バラバラに逃げるのも自分が助かる確率を上げるためだ。僕や獣人の女の子など、足手まといにしか見えないのだろう。
まあ、確立の問題なのだから、こっちの生き残る可能性でもあるのだから、特に問題はない。
「よし、いくぞ!」
みんな、うなずきそれぞれ逃げるために馬車から飛び出した。
僕も続いて降りたのだが、女の子が震えて動けずにいたのを見て、あわてて抱えて走り出した。なんでそうしたかというと自分でもわからない。とにかく、そうしなければという衝動に駆られたからだろう…。
「!?」
女の子はなにか言いたげだったが、こっちも無我夢中だったので気にせず走った。何お荷物抱えてるんだよ、って後悔はしたけど、あそこで残していけるほど、僕は大人じゃなかった。
そのうち、1人がみつかったのか、盗賊がおっさんを襲っていた。目の端に、それを見たが、こっちも命がかかっているので、必死に走った。遠くで、さっきのおっさんの悲鳴や、護衛の悲鳴が聞こえたが、それも気にしないように走った。
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「はあ、はあ、はあ、はあ…。」
それから、1時間ほど走っただろうか?火事場の馬鹿力とでもいうか、人間死ぬ気になるとすごいパワーがでるもんだ。息を落ち着け、近くの茂みに隠れて、休憩をとっていた。女の子を抱えて、1時間もぶっつづけで走るなんて、僕ってすごいかも…。
「あ、あの…、あ、ありがとう…。」
「あ、ああ。いや、とにかく無事に逃げれて良かった。」
「う、うん…。」
そういえば、初めて女の子の声を聞いたかも…。馬車の中じゃ、会話もろくにできなかったしね。
「僕は、セイジ。君の名は?」
「わ、わたしはアイシャ。猫人族です…。」
アイシャは、猫の獣人の中の猫人族っていう種族らしい。どうも、親の借金のカタに奴隷商に売られたらしい。僕は、軽く自己紹介をし、これからどうするか話をした。
とりあえず、近くの町に逃げ込みたかったが、まずここがどこかわからない…。近くに魔物がいた場合、戦わなくちゃいけないので、武器なども調達したかった。あとは、この服もどうにかしたかった。なんせ、鎖は切れたとはいえ、いまだに手枷足枷はついたままだったから…。
もちろんアイシャに聞いても、ここがどこかもわからなかった。
さて、どうしたものか…。そうそうに、詰んだかも…。




