馼楽。若草少女
豆腐売りの自転車が、私の横を通り過ぎて、夕日が私の背中にあって、目の前に出来あがった影を踏もうとか考えて歩いているうちに、家の前を追い越しそうになった。
「ただいま」と私が言うと、「おかえりなさい」と母の声が家の中からする。
私は二階に上がって、自分の部屋で鏡を見ながら髪をほどいた。制服を脱いで、半袖のTシャツとジーンズに着替える。もう一度、鏡を見て「眠たいな」と口にした。
「今日、なに?」と、私が母に夕飯を尋ねると「カレー、よ」と返された。私が、「え~」と不満をもらすと、「文句言わないの」と叱られた。
父が帰って来て、「今日は、えらい暑いな」と私に言ったが、私はわざと無視をした。
食事中、テレビからバラエティー番組の笑い声が響いて、父が母に向かって「今日は暑かったな」と話す。母は「そうね」と言って私に「お豆腐もあるわよ」とテーブルの上の豆腐を私に近づける。
「いらない」
私が、お風呂から上がると、父はソファーで新聞を開きながらテレビのニュースを見て、「おい、また値上がりだってよ」と振り返って私に言う。
「へぇー」
ドライヤーが見つからない。
「ドライヤー、どこ?」
私は母に聞いた。
「知らないわよ。真紀が何処かにやったんでしょ」
「私、知らない」
「部屋にでも持って行ったんじゃないの?」
「……ん」
あった、あった、ありましたよ。
「お母さん、あったー」私は自分の部屋から大きな声で言った。
髪をとかしながら、ぼんやりとカレンダーを見ると、もうじき私の誕生日が来るらしいことを発見した。まぁ、どうでもないか、と欠伸して鼻を擦った。
「お母さん。私の誕生日もうすぐなんだけど」
洗濯物を畳んでいる母に言った。
「え? そうだっけ」
「そうなんです」
「お父さん、真紀の誕生日だって」
父はカレンダーを見て、「おお、そうだな。旨いもんでも食いに行くか」と私に言う。
「別にいい」
そう答えると、私は部屋に戻ってベッドの上に寝っ転がった。窓から風が入ってきて、私の乾ききっていない髪にあたる。
「今日は疲れたな……」呟いて、ため息ついて、天井を瞼で隠してみた、私。




