同級生(3)
驚愕だった。あのうるさい愛海先輩までもが目をぱちくりさせている。
「いやぁ、久しぶりだったんで口がもうばてちゃいましたよ。」
あはは、と京也は笑っていたがこっちは尚も唖然だ。さすがに二人の視線に気まずくなったのか、京也は続けて言った。
「あの、どうでしたかね?」
その言葉に先輩がはっと気づいた。
「い、いや~、予想外だったねぇ。うん、ほんと君は予想GUYだよ。」
相変わらず変なことを言っているが、その言葉には切れ味がなく、弱弱しいものだった。
そうなのだ、こいつ、京也は劇、撃、激うまだったのだ!
吹いてみてと言われてからの3分弱、京也は短い曲だが一曲を丸々吹ききったのである。そして、その演奏が終わった後、音楽室の教室の方まで聴こえていたのであろう、コーラス部からの惜しみない拍手が聞こえてきたのだ。
「いやぁ、たいした事ないっすよ。」
京也が照れながら言う。
この野朗、どう考えてもできないキャラだろ! なんで俺みたいな素人でもわかるぐらいうまいんだよ!
「たいした事大有りだよ! 京也君、出身中学を教えてくれるかい?」
「えっと、桐陽です。」
桐陽中学って言ったらたしか俺の中学と同じ学区内だったよな。案外こいつの家も近いんだろうか。
「ほぅ、そりゃうまいわけだ。」
愛海先輩は呟いて頷いている。
「え? どういう事ですか?」
吹奏楽の事を何も知らない俺は聞くしかなかった。
「桐陽っていったら吹奏楽の名門校だよ。全国大会にも常連で、去年もたしか金賞だったはずだよ。」
そんな強豪校がこの地区にあったのかよ!
「すごい戦力になるよ! 奏君も頑張ろうね!」
まじか、俺にこんなうまくなれる気が全くしないんだが。ていうか、他の部員もそれなりにうまいんだろうか。だとしたら俺なんか邪魔になるんじゃねぇの?
「はぁ。」
ため息もでるさ。憂鬱になってきたな。
「奏! 俺も教えてやるから頑張ろうぜ!」
「お、おう。」
偉く上から来るじゃねえか。まぁ仕方ないか、練習すりゃなんとかなるだろ!
俺は無理やり納得しておいた。
「よし! 一旦部室に戻ってくれ!」
翔兄が無駄にでかい声で叫んだ。
「自分の楽器も持ってね。」
愛海先輩が付け加えるように言う。京也はホルンとトランペットの両方のケースを持った。
え、俺トロンボーンの直し方なんてわからないんだけど。
「これ、直し方わからないんだけど。」
京也にさりげなく聞いてみる。
「あぁ、そこのねじ回してスライドとベルをわけていれるんだよ。」
ねじ? あぁ、これのことかな。
俺はくるくると外した。が、
「これ、滅茶苦茶かたいんだけど。」
「んー、結構力入れないと取れないようになってるんだ。ひねる感じに取ると外れやすいかもな。」
ひねる感じねぇ。
俺はトロンボーンを持ち上げた。瞬間にスライドがシャーッとすべり落ちる!
「「ああああああああああああ!」」
京也がいち早くそのスライドを受け止めた。
「っぶねえ! ちゃんとロックかけとかねぇと。」
「お、おう、悪かった。」
心臓とまるかと思ったよ。まさかこんなトラップがしかけられているとは。
トラップなんか誰も仕掛けていないが、何が起こるかわからないので、俺は細心の注意をはらってトロンボーンを片付けた。