同級生(2)
5,6限目も程なく終わり、放課後になった。
んーっ、と一伸びして、鞄を机に持ち上げた。
「おつかれ。」
え、誰だ今の。その声は目の前の男のものだった。
「お、おつかれ。」
一応返事をしておいた。そして、そういうとすぐにそいつは教室を出て行った。
えーーー!なんなんだあいつ!?正直俺は心臓ばくばくだった。が、よく考えてみたらあいつも昨日無視したこと気にしてたんだな、と思いなんだかほっとした。
「奏、今日は部活行くんだよね。先に帰るよ。」
「お、おう。」
希はそう言うと帰って行った。
そうだ、今日はあのなにやらよくわからん部活の初めての活動だ。昨日部室には行っているので場所は覚えていた。俺は教室を出て部室へと向かった。
(音楽大好き部!)
その張り紙はまだはられていた。だっせえ、ださすぎるぜ。翔兄が考えたのか愛海さんが考えたのかはわからないが、センスがかけらも感じれない。はぁ、とため息をついてドアに手をかけた時だった。
「お前、そこの部員?」
声をかけられた。誰だと思いつつ振りかえるとそこには金髪が立っていた。
うっわ、最悪だよ、絡まれちゃったよ。俺はそいつに物凄い嫌な目線をむけた。
「ちょ、そんな怖い顔すんなって! で、そこの部員なのか?」
そいつはおどけて見せた。案外悪い奴ではないのかもしれない。
「そうだけど、何。」
俺は冷たく言い放った。
「まじか!! なぁなぁ、そこって楽器吹けるって聞いたんだけどこれは本当なのか?」
しかし、金髪は目を輝かせて近づいてきた。こいつ、まじで吹奏楽部だったのかよ、イメージ丸潰れだよ。
「いや、俺も今日始めてだからさ、よくわかんねえな。」
「え、お前何やってるかもわからない部に入部してんの?」
一瞬にしてそいつの顔が怪訝なものに変わった。
「色々事情があったんだよ! まぁ一応見学していけばいいんじゃねぇの?」
そう言って俺はドアを開けた。
(パーン!!)
「入部おめでとーーー!」
唖然だった。顔面にクラッカーをくらわされたのは初めてだ。わかっていたが、やはりあの女である。
「それ人に向けてやっちゃだめって書いてるでしょうが!」
俺は先輩に説教していた。しかしそんなものガン無視だった。
「いやぁ、張り切っちゃったよ! クラッカーならまだまだあるよ! 欲しいなら持っていきな!」
いらねぇよ。
「あれぇ、後ろにいる君は誰なんだい?」
「あ、俺、一年の春野京也って言います! 部活見学に来ました。」
妙に礼儀正しい奴だ。思ってたのと全然違う。
「おー! そうかいそうかい、いっくらでも見学していってくれよ。」
そういうと先輩はそいつの、春野京也の肩をばんばんと叩いた。
金髪という事は全然気にしていないらしい。
「ていうか、先輩一人なんですか?」
他の誰も、翔兄すらいなかったので俺は聞いた。
「いやいや、今は音楽室にいるよ。」
そうなのだ、この部の拠点は音楽室ではない。あまり、というか全く使われていない普通の教室である。
「ふっふっふ、だから私が案内のためここに一人残されたのだよ。」
何だか含んだような物言いだったが、全く何も含まれていない。
「さぁさぁ、ついてきたまえ!」
そういうと、勢いよく教室から飛び出した。俺達もそれについて行く。
「なぁ、楽器ほんとに吹けるんだろうな?」
こそこそと京也は言ってきた。
「わからんけど、音楽室行くって事はあるんだろ。」
「ところでさ、お前の名前聞いてないんだけど。」
「奏。琴野奏。」
「女みたいだな。」
あ、また言われた。くそ、何で親は俺にこんな名前つけたんだ!
「とうちゃーく!」
そうこうしている内についたようだった。そして教室の方ではなく準備室を開けた。どうやら教室はコーラス部が使っているようだ。
「おお! 奏、やっときたか! 待ちくたびれたぞ!」
奥の方から翔兄のでかい声が聞こえてきた。
「その辺に楽器出してあるだろ。ちょっと見といてくれ。」
なにやら作業をしているらしく、でてこれないようだった。
「という訳で、中学の時やってた楽器を教えてくれるかな?」
あ、そうだった。俺はこの人にブラバン少年と思われているんだった。
「あ、えーっと・・。」
「お、俺はホルンでトップ吹いてました!」
俺が困っていると、京也が横で言った。ホルン?一応聞いたことはあるけどよく知らないな。
「ほほう、君はホルン吹きか! いいねぇ、孤高な感じがしてとってもいいよ。で、奏君は何?」
こうなったら白状するしかなかった。
「すんません。実は俺、楽器なんて吹いた事ないんです・・・。」
先輩は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの顔に変わった。
「なんだなんだ! そうなのかい、じゃあじっくり選んでくれたまえ! そっちの君はホルンでいいかい?」
そういって京也の方を見る。
「あ、えっと、実は俺・・・トランペットが吹きたいんです!」
ああ、それなら知ってるぞ。あのやたらと甲高い音を出すやつだな。
「ありゃ、残念だなぁ、ホルンかっこいいのに。」
そういうとトランペットが入っているであろうケースを持ってきた。え、ホルンってかっこいい楽器なのか。すごくマイナーなイメージだったのにな。
「あ、でも一応ホルンも吹いていいですか?」
そういいながら京也はちらちらと変な形のケースを見ている。おそらくあの収納場所に困りそうなケースの中にホルンが入っているのだろう。
「ん、いいよ。適当に吹いといて。でもマッピは洗ってからの方がいいかもね~。」
マッピ?聞いたことない名前だった。
「ありがとうございます!」
京也はそういうとトランペットではなくホルンの方に駆け寄った。こいつ、やっぱりホルンの方が好きなんじゃねえの?
「あの~、俺はどうしたらいいんでしょう。」
ちょっと置いてけぼりになってきたので俺は先輩に聞いた。
「そうだねぇ、できれば楽器がかぶって欲しくないんだよね。まぁどうしてもやりたいってなら別なんだけど。」
俺は意を決して言った。
「あ、あの、トロンボーンってのが吹いて見たいんです・・・けど。」
「トロンボーン!? そりゃ良かったよ! 丁度先輩がいなくなって吹く人がいなかったんだ!」
かぶっていなかったらしい。俺はほっとした。
「じゃあ出してくるからちょっと待っててね。」
そう言って先輩は細長いケースの方に行った。
(ぶいー、ぶいー)
変な音がしたので京也の方を見てみたら、何やら銀色の細長い奴を口にあてている。
「あー、くっそ、半年以上吹かなかったからきっついわ。」
何やら独り言を言い始めた。
「それ、何やってるんだ?」
思い切って聞いてみた。聞かぬは一生の恥だ。
「え? ああ、これか。バズイングって言ってマッピで音出すんだ。」
へぇー、正直全然わからなかった。
「はい! これがトロンボーンだよ。」
そう言って先輩は俺にその細長い楽器を渡してきた。すげぇ、金ぴかだ。小学生みたいな事を思いつつ俺はそれを受け取った。
「とりあえず吹いてみてよ。」
構え方を一通り教えてもらってから吹き口に息を吹き込んだ。
(すーーーー)
無音だ。何もでてこない。早くも俺はくじけかけた。
「あはは! 最初はみんなそんなもんだよ! あたしは管楽器は専門じゃないから京也君に聞いたほうがいいかもね。」
そういうと先輩は京也を呼んだ。
「じゃ、京也君もちょっと吹いてみてもらえるかな。」
「わかりました。」
そういうと京也はマッピと呼ばれる物をホルンに取り付けて構えた。へぇー、ホルンって手つっこんで吹くんだ。とか思っていたら、京也は吹き始めた。