同級生
気づいたらもう朝だった。
俺の横には残念ながら無残な姿のプレステがあった。小人たちが現れて直してくれるという事はなかったようだ。
悲しみも薄れていたので、そのままリビングに向かった。
「「おはよう!。」」
そこには悠と妹の凛がすでに制服姿で朝食を食べていた。昨日の事なんかばかな弟はもう忘れてしまっているようだ。
「おう。」
俺もそこまでねちっこい奴じゃないので返事をして食パンを食べた。
(ピンポーン)
家のベルが鳴った。多分希だろう。
俺はまだパジャマのまま玄関を開けた。
「おはよう! えーー!? まだ準備してないの? もう8時だよ? 遅刻しちゃうよ。」
まじか、正直そんな時間とは気づかなかったな。
「「いってきまーす!」」
そういって悠と凛が玄関を出て行った。
「いってらっしゃい。悠君、凛ちゃん。」
希はそういって二人を見送り、そして俺の方を振り向き言った。
「さあ、早く準備して!」急かされたので俺はすぐに準備をして家を出た。
教室につくと、俺の前の席の奴はもう座っていた。
ちょっと気まずいけど俺は自分の席につく。こいつは昨日の事を覚えているのだろうか。しかし、別に話すこともないので黙っておこう。
そして4時間目が終わり、昼休みになった。まだ授業が二日目なので教室は変な空気が漂っている。
「奏! 食堂いこ!」
そんな空気をもろともせずに希は俺に向かって言った。
「食堂か、初めてだな。」
昨日は教室で一人で弁当を食べたし、中学には食堂なんてなかったからな。
「ここのオムライスすっごいおいしいらしいよ!」
きっと昨日の放課後そんな話をしていたんだろうな、とか思いながら俺は食堂に行くことにした。
この学校は校舎が3つ並んでできている。そして一年の校舎は食堂からは一番遠いところだった。そしてその途中にある職員室の前を通っていた時、
「吹奏楽部がなくなったってどういうことっすか!!」
えらくでかい男の声が職員室から聞こえてきた。
「奏とおんなじこと言ってるじゃん。」
「俺は職員室でわめくまでする気はないけどな。」
などと適当に話していると急にそのドアが開いた。
「意味わかんねーよ!! ばーかばーか!」
いきなりでてきたそいつは、金髪でピアスをしたいかにもヤンキーな姿だった。そしてそのまま教室の方へ歩いて行った。
「な、なんだあいつ・・・。」
「な、なんだろうね・・・。」
俺達は呆然とその姿を見届けた後で、食堂へ向かった。
「あの人、吹奏楽部だったのかな。」
希が不思議そうに聞いてくる。
「さぁな、でもそうとしか思えないけどな。」
「金髪だったね。」
「金髪だったな。」
しばらく黙って買ってきたオムライスを食べる。
「おやおや、そこにいるのは昨日のきみだね?」
いきなり二つくくりの先輩が現れたので驚いて咳き込んだ。
「女子の前でご飯を豪快にふき出さないでほしいね。それにしても、おやおや、君も隅におけないなぁ。こんな可愛い子とつきあっているなんて。」
そういって希の事をにやにやと見始めた。
「か、奏。この人誰?」
希は俺にこそこそと聞いてきた。
「昨日言ってた先輩だよ。名前は、えっと。」
「愛海だよ! 海を愛すと書いて愛海!」
俺の話にいきなり割り込んできた。なんていうか、すごい迫力だ。
「ところで私はまだ君たちの名前を聞いていないなぁ。」
わざとらしく言ってくる。
「あ、希です。園峰希。」
律儀に反応して、希は自己紹介した。
「俺は奏で・・・。」
「園峰? そのみね・・・あーーー!! 翔の妹か! 似てないなぁ、えぇ? 似てなさすぎるぞおいおい。」
無視された。というか遮られた。しかも先輩はその妙なテンションで喋りつづけている。
「希ちゃんとあいつからおんなじ遺伝子パワーを感じられないねぇ。本当に兄弟?」
「え、ま、まぁ。よく似てないとは言われますけど。」
「そっかぁ、いやぁ摩訶不思議だねぇ。アドベンチャーだねぇ。」
またわけの分からない事をいっている。俺は無視してオムライスを食べた。
「君の名前はなんて言うんだい?」
このやろう!自分のしたことに気づいていないのか!
無視してやろうとも考えたがやめておいた。
「はぁ・・・。奏です。琴野奏。」
わざとらしくため息をついてやった。さりげない抵抗である。
「かなで? 女の子みたいな名前だね!」
うっ、結構気にしている事をズバり言われた。
「ま、まぁ、俺が考えたわけじゃないですし・・・。」
そりゃそうである。なに言ってるんだ俺。
「ほほう、独特の持論を持っているようで。」
この人にだけは言われたくなかったが言い返さなかった。
「それじゃあ奏君! 今日の放課後ちゃんと部室にくるんだよ!」
そういうと食券を買うために前の方に行った。
「な、なんかすごい人だね。」
「そうだな、ああはなりたくないな。」
そう言うと希もこくこくと頷いた。