(プロローグ)
「はぁ・・・・」
俺はとてつもなく落胆していた。
「どうしたの?奏、そんな財布を小学生に盗られちゃったみたいな顔して。」
こいつは俺の幼馴染の園峰希だ。いつから一緒にいたかなんて覚えてはいないが、幼稚園からずっと一緒で、いまだに一緒にいるのだからほとんど家族のようなものだ。
そして、奏とは何を隠そう俺の名前である。琴野奏、正直自分でも信じられないぐらい外見と不釣合いな名前だ。こんなに可愛らしい名前が常に仏頂面の俺のものとは。
自分で考えてて虚しくなったので希に返事をすることにした。
「さすがに高校生になって小学生からかつあげなんてうけねぇよ!でもまぁ、そんな状態並に今の俺は落ち込んでいる。」
「へぇー、奏がそんなに悩んでるとこなんか見た事なかったかも。明日は雪でもつもるのかな?」
「冬でさえ積もらない都会なのにましてこんな春真っ盛りに積もったとしたらそれはもう奇跡だね。ノーベル賞ものだよ。」
「ノーベル賞はそういうものじゃないよ。」
そんな事わかっている。ただ気持ち的にそれぐらいってことじゃないか。と言おうと思ったがやっぱやめた。
「それで、そのノーベル賞物の悩み事とはなんなのかな?」
なんかもう前の話がごっちゃになっているが気にしないでいよう。
「そんな奇跡の発見なんかしていないけど、うん、なぜこの高校には吹奏楽部がないんだ?」
そうなのだ。この俺の世界的悩みとはこれである。
「大体、お前の兄貴もこの学校だろ?何で教えてくれなかったんだよぉ。」
「語尾をのばさないでよ、正直気持ち悪いよ?」
「うるせぇ!お前のせいで俺の薔薇色のブラバン生活に入学一週間もしない内に終止符を打つ事になったんだぞ!!もう俺は一生語尾をのばしつづけるだけのきもい男になってやるぅ。」
うん、自分でも今のはきもいと思った。
「そんなの知らないよ!大体吹奏楽部はいるなんて一言も言ってなかったじゃん!言いがかりはやめてよね!」
たしかにそうだ、そんな事は一言も言っていない。だって高校入学前のあの微妙な休みの時に決心したのだから。だってかっこいいじゃん、トロンボーン。
「あ、でもそういえばお兄ちゃんがなんかそれに似たような部にいるよ。」
「え、あのごつ兄貴って音楽なんかたしなんでたっけ?」
そうなのだ、希はどちらかというと華奢な方に入るのだが、その兄貴は無駄にごつい。ちなみに余談ではあるが希は結構モテる。顔がかわいいというわけではないのだが、誰にでも気兼ねなく喋るので男女問わず友達が多いせいもあるのだろう。俺は・・・まぁ、多くはない・・。
「そだよ。お兄ちゃん高校はいっていきなり色んな音楽聴きはじめてね、なんていうのかな・・・クラシックだっけ?そんな感じの音楽に魅了されちゃったみたい。」
「ほう、あのゴリラのような男が高尚なバロック音楽やら美しいロマン派の曲を聴いていたのか。」
まるで信じられなかった。と言っても俺だって人の事を言えないのだが、それでも、それでもさ、ありえねぇよ。あんなゴリラがさ、そんなの家で聴きながらコーヒーでも飲んでるって言うのか?
否、ありえないね、ゴリラはバナナ食って腕立て伏せでもしとけばいいんだ。
なんて勝手な事を考えながら、ふと、そのゴリラには何の楽器ができるのか気になってきた。
「で、その兄貴は今何を演ってるんだ?」
「笑わないでよ?私が言うのだって恥ずかしいんだから。えっとね・・・あれだよ・・・これ。」
そういって希は指を机の上でかたかたした。
「あぁ指ドラムね。それなら納得だよ。」
自分でも意味のわからない楽器名を言っていることは気づいていたが、まぁあの兄貴だ。それぐらいやってのけるのだろう。
「ばか!違うよ!・・・・ピアノだよ。ぴ・あ・の!」
うん、正直わかってました。
「そうなのか。ゴリラがピアノを弾いてしまうまで地球の環境は破壊されていたんだな・・・・よし!俺はこの腐った地球を元の美しい緑の星に戻して見せるぞ☆」
「何訳のわかんない事言ってんの?まぁ、良かったらその部にも顔出してみてあげてよ。」
「うーん。そこが部として成り立っている事に物凄く疑問なんだが。まぁ、放課後にでも見てみるよ。」
そういって一応この話をとぎっておいた。今日は高校初めての授業の日である。朝からこんな二人で会話していたらクラスのやつにあいつつらって・・・・へぇ、そうなんだ。みたいな空気になってしまう。
そして希も自分の席へ帰っていった。
読んで頂きありがとうございます。
自己満足のような小説ですがどうぞよろしくおねがいします。