at that time
二人の少年のオハナシ。
のんびりしたお昼どき。
ぬるい風が頬をそっと撫でる。
程よく乾いていて気持ちいい。思わず目をつぶってしまいそうだ。
真っ青な空の下に、濃く色付いてきた緑色。艶やかなそれは、日の光を浴びて更にキラキラと生きているみたいだった。
寝そべって空気を吸い込む。
目の前には真昼の青空が広がっている。
穏やかな午後12時半。今は昼休みだ。
10分だけ、と浅い眠りにつこうとしたその時。
ぱしゃ、ぱしゃしゃ。
地面のアスファルトに水音が響く。俺の頭にも細かな冷たい飛沫がかかった。
閉じかけた瞼を細め、右を向く。
「…なにやってんだ蒼井」
細長い体型の友人に話しかける。
少しの間があり、
「ん――?」と呑気な声。
ゆっくりと俺の方を見て不思議そうな顔をし、ああ、と思いついたように口を開く。
「いやね、暑いじゃん。
ちょーっと涼もうかと思ってさ」
もう一年近くの付き合いになるため、驚きはしない。初めて会った時から今まで、コイツはずっとこういうやつだ。
だから、身を起こして蒼井を見て、まだペットボトルの水を頭からバシャバシャ被っていても、俺は軽いため息をつくぐらいしかしない。
再び寝そべろうとしたところ、蒼井がペットボトルの口をこっちに向けた。
ぱしゃ。
「…………は………?」
何の突拍子もなく、ペットボトルの水をかけられていた。―頭から。結構な量を。
襟足から、つー、と水が伝い、前髪からはボタボタと滴が落ちていく。
自分がされたことを把握するのに、そんなに時間はかからなかった。
「理久も暑いっしょ―?
おすそ分け――…あれ、」
細長い体を屈めて俺の顔を覗き込むなり、へらっと笑った。
嫌がらせではないと知っている。だから怒るに怒れず、顔だけが引き攣る。
「え――理久顔こわ―……。…もっと水ほしいの?」
更に水をかけようとするので、直ぐさま右手で制止した。
少しだけ不思議そうな顔で首を傾げると、立ち上がった状態で、残りの水を空に向かってぶちまけた。
透明な雫が歪みながら、形を変えながら、スローモーションになって見えた。
大粒のビー玉が蒼井の手によって空に浮いたその一瞬。
清々しく、爽やかな輝きに目を見張ったのは、俺だけだろうか。蒼井は細長い体を更に細長く伸びをして、まるで風と一体化しているみたいに空気を吸い込んでいる。
長めのフワフワとした栗色の髪はまだ濡れているが、そよそよと風に泳がされていた。
コンクリートにできた黒い染みを、まだ優しい太陽がゆっくりゆっくり、乾かしている。
まったく……
あと20分で乾くだろうか。自分の髪とシャツが、ぐっしょり濡れているのを見て、ため息をつく。
半ば諦め気味で再び地べたに背を預ける。
微かな温かさに安心する。目の前の大きな雲は、物音たてずに流れていて、つくづく、あれからもう一年が経つのだと、ぼーっとせずにはいられなかった。
そのうち、彼等の過去を書いていきたいです。
ちゃんと、長編で。
……いつになるか分からないけど