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木枯らしの別れ
あるお話の最後をイメージしました。
寂しいのを胸にぐっ、と詰めて、手を振らなければいけない。そんな時が私にもありました。
「さよなら」が近づいていることは、なんとなくわかっていた。
この男は、夏が終われば私の元を去ると、
心の何処かで思っていたから。
根拠はない。
けれど、風が冷たくなるにつれてあの人は少し、
寂しそうな顔をしたから。だから………
紅い紅葉吹雪の中、
大きく、大きく
手を振ります。
"さようなら"
"さようなら"
口に出すと消えてしまいそうだから、
ひたすら胸の内で響かせるだけにします。
何度も、何度も。
"あなたを決して忘れません"
私はあの時以来、初めて声を上げて泣いた。
男の細い背中は
アカに紛れて
いつの間にか、視界から消えていたのだった。