水玉物語
短編恋物語、です。
最近幸せに終わるお話が書きたくなったので。
その日は、窓からの風が気持ちよくて
時間がゆっくり穏やかに流れていた。
「こら。起きなさい!」
背後から溜息混じりの女の子の声が……と、ぼんやりした意識の中で何と無く感じ取った。
ただ、その声が自分へと向けられていることには
中々気づかなかった。
それから、自分が今、
どこにいるのかということも。
「う――――…」
ふわふわした感覚のまま、目を覚ます―――と思ったけどやっぱムリ…
そうやって
もう一度眠りに着こうとしたとき。
「お・き・ろっ!!
部長ってば!
おきろ――っっ」さっきと同じ声。
幼気の混じった可愛い声。
なんだか妹に起こされている感じがして、
僕は苦笑しながら薄目を開けた。声と見合った、小さくて細っこい女の子がそばにいた。
桜色の唇をほんの少し尖らせている。
微かな春の匂いが、絵の具や筆や、様々な画材の匂いと共に鼻をくすぐった。
僕のよく知る、同級生の女の子。
「ははは。おはよ。」
彼女の顔を見ると、安心してなんだか笑えてきてしまう。
「部活の時間ですよ。
寝ちゃだめです。」
くるりと後ろを向いてしまった。
猫の尻尾みたいな、二本のお下げが少しだけ跳ねる。そのまま去ってしまいそうな彼女の細い腕を、優しく掴む。
「……だめ。敬語禁止!」
やんわりと笑ってみせると、驚いたように瞳をまぁるくする。
「う……わかりました。」
眉間に皺を寄せ、頬をうっすら染める。
そんな一つ一つの動作が可愛くて、自然と口元が綻んでしまう。
僕と彼女の二人だけの部室に、幸せ色の風が吹き抜けた。
「結衣、」
その風にそっと乗せるように彼女の名前を呼ぶ。
「好き。」
部室に小さく小さく響いた、たった二文字の言葉。
君に届け。
世界一大切な人、
僕はあなたが大好きです。