「いい車じゃねぇか、俺に寄越せ」何でも欲しがる部長が、俺の新車を奪った結果…
「ヒュー、たまんねぇぜ、この新車の匂い!おい、お前?いい車じゃねぇか、俺に寄越せ!」
このセリフを聞いて、俺はハッとした。
部長は、一言で言ってしまうと物欲の権化だった。
とにかく何でも欲しがる「欲しがり屋」であり、このことを忘れていた俺は、自分を深く呪う。
「でも、俺のカンムリZを狙っているとして…こんなに大きな物を、どうやって奪うんだ?」
キーは俺が持っているし、保険の問題だってある。
細かく考えればキリがないほど色んな問題が山積みで、車なんて簡単に奪えないよなと考えてしまう自分がいる。
「お待たせー!時間かかって、ごめんね!」
そのうち、コンビニに用があると言って出ていった同僚が戻ってきた。
彼女が後部座席に座り、シートベルトを着用したのを見届けると、俺は滑らかに車を発進させる。
「うん、そうだよ…どうやって?って話だ」
この時の俺は、部長がどうやって車を奪うのか、についてしか考えていなかった。
その瞬間は一気に訪れるものであり、道中再三にわたる嫌がらせをされるなんて、思ってもみなかった。
俺の名前は鎌田充、三十歳だ。
国内最大手と言われる、王冠自動車営業部の、トップセールスマンである。
俺が営業部のトップに立ったのには、理由がある。
「へぇ、すっごくクールな車じゃなーい?」
俺がスマホで撮影した愛車の写真を、俺担当の営業事務である橋本ユリアさんが、色んな角度から見つめている。
そう、俺がトップにまで昇りつめられた理由の一つは、ユリアさんという心強いサポートがあったお陰。
彼女は俺の日々の売上を集計するばかりじゃなく、クライアント向けのプレゼン資料を作ったり、俺が外回りから帰社すると、キャンディをくれたりする、ありがたい人だ。
彼女が資料を完璧に準備してくれるから、俺は営業に集中できる。
「それにしても、こんな高級車を買っちゃうなんて、すごいよねぇ。私の年収の何倍するんだろう…」
もう一つの理由は、今ユリアさんが眺めている写真に映っている、俺の愛車のカンムリZだ。
「人は守るもののために強くなれる」と聞いたことがあるが、それは本当だった。
自分が乗っているからこそ、お客様にも胸を張って薦められる。
カンムリZを手に入れた俺は、今までどこか受け身の人生だったが、攻める気持ちが強くなったように思える。
今週末にはユリアさんをドライブに誘えたし、ローンのために節約生活も始めている。
「ねえ、ちょっと聞いてるの、鎌田さん!」
顔の前で思い切り手をヒラヒラされたところで、俺の意識はユリアさんに向けられた。
「ああ、ごめんね、ユリアさん。ちょっとボーっとしちゃってて」
「それはいいけど、カンムリZ、ちょっと週末まで我慢できないのよね」
「それって、すぐにでも乗りたいってこと?」
「そうなのよぉ!もったいぶらないで乗せて、お願い!!!」
ユリアさんが手を合わせると、俺としても断れない。
実は俺も、愛車は週末だけと決めていた。
それなのに、毎晩のようにハンドルを握っているので、ユリアさんの気持ちが痛いほどによくわかる。
「じゃあ、今夜行っちゃいますか?」
本当は、週末に連れて行って、道中海の見えるレストランでお食事なんていいなと思っていたのだが、待てないのであれば仕方がない。
これは行くしかないだろう。
「行っちゃいましょう、ウェーイ!」
「そう来なくっちゃ!」
この時、俺はドライブが万事うまく運んで、ユリアさんに告白できたらいいな、なんて考えていた。
まさかこのドライブにとんでもない邪魔が入るだなんて、想像だにしていなかった。
ユリアさんとのドライブを夜に控えた俺は、この日全力で取引先を回った。
アポの時間のかなり前に行って「どうしたんですか?」と目を丸くしたクライアントもいたが、「時間前行動は社会人の基本ですから」と言い訳し、無事定時三十分前に帰社できた。
俺が帰社した時、パソコンに向かっていたユリアさんは、俺にウィンクをしつつ親指を立ててきた。
「お疲れさまです」
そんなユリアさんも可愛いなと思いつつ、俺は挨拶をしながら自席へと戻った。
よし、今日の成績もトップで、壁に張られた営業社員の棒グラフが天井まで伸びているのは俺だけだ。
まさに他の追随を許さない、立派な成績とも言えるだろう。
そんな俺の肩に、分厚い手がポン──、と乗せられた。
「鎌田、今日も絶好調だったな?」
俺の上司に当たる、細井部長のだみ声が頭上に響いた。
「ありがとうございます。これも部長のご指導の賜です」
「ワハハ、そんなことは当然だ。お前ら営業が頑張れば、俺の評価も上がるってもんよ」
この細井部長、一日何をしているのか、知っている人はいるのだろうか。
営業には絶対に同行しないし、部下に営業方法をレクチャーすることもない。
年に一度の人事評価も、AI任せにしているとの専らの噂だ。
まあ、噂だけで確認した人は一人もいないけれど、AIに評価されるのは嫌だなと思った。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
俺は一刻も早く帰って、ユリアさんとのドライブに備え、カンムリZを磨いておきたい。
「そう言えば鎌田?お前、新車買ったんだって?それも、うちの主力のカンムリZなんだってな?」
そんなことをなぜ知っているのかと、俺は両目を見開いた。
だが、知られていても仕方ないかとも思う。
最近の俺は愛車を買ったことに浮かれ過ぎて、結構大きな声でユリアさんと車の話をしていたからだ。
「新車かぁ…いいなぁ…新車特有のあの匂い、たまらねぇよな…」
俺は嫌な予感がして、机の下に置いていたビジネスバッグに手をかける。
その瞬間、細井部長の太い指が俺の肩に食い込んだ。
「鎌田、俺のことも乗せてくれよ、な、いいだろ?」
この部長、絶対今夜がユリアさんとのデートだと知っていて、俺を困らせているんだなと理解した。
「いえ、今夜はちょっと…別件がありまして…」
「おいおいおい、つれないことを言ってくれるなよ、鎌田?」
「あ、じゃあ、週末に行きませんか?」
「週末は休むって決めてんだよ!」
要するに、今日これから連れて行け、と言いたいようだ。
ユリアさんはと言えば、横顔が少し曇っているように見える。
俺とのデートを邪魔されるのが哀しいのだろうか、どうかそうであって欲しい。
「おう、じゃあ、お前の家の近くのコンビニに、夜七時に集合なんだな?」
「はあ…時間厳守でお願いします」
「心配すんな、社会人たる者、時間前行動が基本ってもんよ!」
こうして俺は細井部長を振り切ることができず、ユリアさんと共にドライブに連れて行くことになってしまった。
「ワハハ、楽しいなぁ、新車のカンムリZだとよ!笑いが止まらねぇぜ!」
細井部長と俺の会話を聞いていた営業部の社員達は、一様に俺に同情するような目を向けてきた。
同情するなら部長をどこかへ連れて行ってくれ。
俺の心は、どんどん荒んでいくのであった。
夢だったユリアさんとのドライブに、まさか細井部長がついて来るだなんて──。
待ち合わせ場所のコンビニに向かいながら、俺は重いため息を吐いた。
いざコンビニ前に着いたら、ユリアさんしかいなかった、そんな状況なら彼女だけを乗せてさっさと車を出してしまおう。
「それでいい…いくら上司だからって言っても、俺の新車に乗せる義理はない」
こんなことをしたって、俺の評価は下がらない。
だって、俺は押しも押されぬトップセールスマンなのだから。
「そうだ、俺、強気でいけ。上司に怯むな…」
俺は決意を固くしつつ、ハンドルを握る手に力を込めた。
そして、待ち合わせのコンビニに到着したのだが、俺の願いは虚しく、細井部長はユリアさんの隣に立っていた。
「おおお、これがカンムリZか!立派な車じゃねぇか!」
漆黒の車体が滑らかにコンビニの駐車場に停車すると、細井部長が遠慮なく磨かれたボディをベタベタ触り始めた。
さっき磨いたばかりなのに、手垢を付けられてしまうなんて、最低だ。
「ほ、細井部長?コンビニでお茶でも買いませんか、ね?」
必死にとりなすユリアさん。
鏡のように姿を映し出すボディが手垢に染まるのを、阻止しようとしてくれているのだろうか。
「おう、そうだな!長い道中、茶は必要だ!」
だが、そこで俺が口を挟む。
「ああ!俺の車、車内での飲食は禁止ですから!更に言えば土禁です!」
「あ、そうだったわ!ごめんね、鎌田さん!私ったらすっかり忘れてて」
この話は、ユリアさんにはしてあった。
いつか一緒にドライブに行く人だからと、日々の雑談の中で伝えておいたのだ。
「何だと…?」
一方で、細井部長の方は初耳である。
「いいや、俺はそんな話聞いてねぇ」
「いえ、今聞きましたよね?」
「屁理屈言ってんじゃねぇよ!!!」
そう怒鳴ると、細井部長はコンビニの店内に駆け込んでしまった。
しめた、これはユリアさんと二人きりでドライブに行けるチャンスではないか。
「行きましょう、鎌田さん!」
「え…?」
「この隙に、ドライブに行くのよ!こんなチャンス、今しかないわ!」
なんと、ユリアさんも細井部長とのドライブは避けたいようだ。
「わかりました、すぐに乗って、ユリアさん!」
俺達は必死に車に乗るのだが、こんな時に限って、物事はうまく行かない。
なんと靴を脱いだ直後、ユリアさんが履いていたピンヒールが脱げ、それを拾った拍子にストッキングが破れてしまったのだ。
「なんで、こうなるのよ!!!」
それから、ユリアさんは半泣き状態でコンビニにストッキングを買いに行った。
当然のことながら、買い物を終えた細井部長が大きな袋を手に、カンムリZに乗り込んでくる。
「ヒュー、たまんねぇぜ、この新車の匂い!いい車じゃねぇか、俺に寄越せ!」
このセリフを聞いて、俺はハッとした。
『俺の新品のパソコンが、細井部長にとられた!』
俺は、なぜこんな大切なことを、今の今まで忘れていたのだろう。
細井部長と言えば、物欲の権化だというのに。
かつて何人もの社員が彼に何かを奪われ、泣き叫んでいたというのに。
「まさか、細井部長は、俺のカンムリZを狙っているのか…?だとしたら、どうやって?」
普通、他人の新車を奪うなんて考えは、持たないのではないか。
そもそもどうやって奪うのかがわからない。
キーは俺が持っているし、保険の問題だってある。
「お待たせー!トイレが混んでて履き替えるのに時間かかったわ、ごめんね!」
ユリアさんが乗ってくると、細井部長は「遅いんだよ!」と派手な舌打ちをした。
だが、彼女が戻ったのであれば、この状態で車を出さなくてはならない。
俺は数多の疑問を封印し、ハンドルを握る手に力を込めた。
車は大通りをいくつか折れて、山道に入った。
山道に入ると、途端に街灯が少なくなり、対向車が近づいて来ない状態だと、視界はすこぶる悪かった。
緩やかな上昇を続けつつ、眼前に待ち構える鋭角なカーブを滑らかに滑っていく。
「ちょっと!部長、それは…!?」
俺が運転に集中していると、ユリアさんの悲痛な声が後部座席から聞こえてきた。
何だろうと思って耳を澄ますと、ゴクゴクと喉を鳴らす音がする。
「細井部長!それダメですよ!なんで、よりにもよって牛乳を一リットルも買ってきたんです!?」
牛乳一リットルだって──?
俺は戦慄した。
あれは飲み口が広くてこぼれやすく、そうなってしまったら、シートやマットに白濁が付着してしまうではないか。
「ああ?うるせぇな。俺がどこで何を飲もうと勝手だろ?」
「今、私達は鎌田さんの愛車に乗ってるんですよ!鎌田さんのルールに従う義務が…!」
「俺を縛っていいのは、法律のみだ!部下のくだらねぇルールなんざ知らん!」
なんてことだ、彼に通用するのが法だけだと言うのなら、この先彼が何をしようが無礼講ではないか。
「あ、こぼれた…おい、鎌田!ブレーキかけるときは静かにやれ!今カックンってなったから、俺の牛乳がこぼれたじゃねぇか!」
隣から、ユリアさんの悲痛な叫びが聞こえた。
「か、鎌田さん、安心して!私、これからお掃除しまーす!」
自分が何かをしでかしたら、ユリアさんに尻拭いをさせればいいと学習した細井部長。
今度は白い袋をカサカサ言わせながら、フランクフルトを取り出した。
「俺はな、夕飯がまだなんだよ」
「は…?」
「キャーッ!?細井部長…フランクフルトに何かけてるんです?」
「一々叫ぶな。ケチャップとマスタードに決まってんだろ?コレがねぇと、フランクフルト
を食った気にならねぇんだよ」
俺はまたもや戦慄する。
フランクフルトに、ケチャップとマスタードだなんて、クレイジーにもほどがある。
ケチャップやマスタードがシートやマットに飛び散ったらと思うと、背筋が凍った。
「ぶ、部長…すみません、食べないでくれますか?」
恐る恐るお願いしてみると、部長が逆ギレしてきた。
「俺にメシを食うなってのか!?」
「いえ、メシではなくフランクフルトを…!」
言いかけたところで、俺は急ブレーキをかけた。
細井部長にばかり気持ちが向いてしまい、目の前の信号を危うく無視するところだった。
「静かに運転しろって言ってんだろ!お前のせいで、ケチャップとマスタードがこぼれたじゃねぇか!」
「こ、こぼれた…?ど、どこにです!?」
「俺の足元だ!」
そして間髪入れずにユリアさんが叫ぶ。
「ユリア、お掃除タイムに入りまーす!」
彼女は再び細井部長の尻ぬぐいをするため、彼女が持っていた除菌シートでマットを拭うのであった。
「うっ!?」
「鎌田さん、どうしたの!?」
ユリアさんがすかさず俺の異変に気づいてくれた。
「ちょっと…イテテ…お腹が…」
とうとうストレスに晒され続けた俺の腸が、悲鳴を上げたのである。
仕方なく近くのコンビニでトイレを借りた俺。
とりあえず今のところは大丈夫だが、あまり長くもつとは思えず、今日のドライブはここまでにしようと心に決めた時。
「よう鎌田?この車の鍵を貸せ」
「え…嫌ですけど?」
「おいおい、上司命令に真正面から逆らおうってのか?このトイレ男が」
「嫌なものは嫌ですよ」
すると、細井部長は乱暴に俺の手からカンムリZの鍵を奪い、なんと運転席に座ってしまった。
「ちょ、部長!?」
「お前に乗れて、俺に乗れない道理はねぇ!やってやんぜぇ!」
高らかに叫んだかと思えば、部長は運転席に座ってエンジンをかけてしまい、俺は慌てて助手席に乗り込んだ。
「部長!やめてくださいよ!これ、俺の車なのに!」
「うるせぇ!人の物は俺の物、俺の物も俺の物だ!」
「キャッフウ!」という高らかな雄叫びが聞こえたかと思えば、車は破滅に向かって走り始めるのだった。
それは、本当に「デスドライブ」だった。
細井部長によると、彼は長年ペーパードライバーであり、運転するのは数年ぶりという状況だった。
「俺はなぁ、やればできる男なんだよ!」
部長は絶好調、しかし車体は徐々に歩道へと寄っている。
「部長、もう少し車道側にハンドル切ってください!このままじゃ、森に…!」
突っ込んだ。
車は派手な音を立てて大木にぶつかり、バンパーが跳ね上がって、その瞬間「きゃあああ!」というユリアさんの悲鳴と共に、運転席と助手席のエアバッグが同時に作動する。
こうして、納車したばかりの俺の新車は、ほぼ終わった状態となってしまった。
この後のことを、俺はあまりよく覚えていない。
ユリアさんの話では、俺は無意識のうちに警察に連絡をしたらしい。
また、その間に、ユリアさんの状態を確認していたのだそうだ。
俺は右手首を捻っていたし、部長にも擦り傷があったらしいが、ユリアさんが無事ならいいと安心した俺。
それから警察が到着し、事情聴取の後に保険会社に連絡。
ドライブレコーダーの映像も警察に確認され、その後、大破したカンムリZはレッカーされていった。
全てを終えて俺たちが帰宅したのは明け方のことであった。
翌日──。
事故が社内に知れたことで、俺と細井部長は社長室へと呼ばれた。
部長は俺の顔を見ようともせず、当然のように事故への謝罪もなかった。
社長室へ入ると、今にも爆発しそうな、真っ赤な顔をした小松社長が待っていた。
「またかね、細井君?」
小松社長によれば、細井部長をこうして呼び出すのは、実は初めてではないのだそうだ。
ある日はパソコン、ある日はゲーム機というように、欲しがり屋の細井部長には数多の前科があり、社員からはクレームの嵐だったという。
俺も少しは知っていたが、社長が罪を並べるのを聞くなり、なんて件数なんだと絶句した。
「細井君、君は部長だ。部下を守る立場の人間だ。その君が、部下から車を奪った。まず、その時点で管理職失格だ」
「社長、大袈裟ですよ…車の一台や二台…!」
「その車を買うために、鎌田君がどれだけ努力したと思う?トップセールスマンであり続けるのに、どれだけの労力を費やしたと思っている?」
細井部長は項垂れた。
社長の言う通り、この人は俺の努力を何だと思っているのかと言いたい。
買ったばかりなのに、「これ、買い替えた方が安いですよ」と言われた俺の気持ちを察するべきだ。
「細井君、君が壊したのは車ではない。部下からの信頼だ」
その言葉で、細井部長は完全に沈んだ。
そして、小松社長は部長に罰を言い渡す。
「本来ならね、君を懲戒解雇にしてもいい。これで何件目だ?という話だからね」
だが、と社長は短く前置きした。
「私は、一人の社員を育てる責任も負っている。だから最後の機会を与えよう。言っておくが、片道切符だ。嫌なら相応の覚悟をするように」
社長が提示した部長への罰は、購買部への異動だった。
役職は剥奪し、平社員として行けということだ。
「物欲をコントロールできない人間に購買を任せたらどうなるか、最後のチャンスを与える」
「えええ、購買部…ですか?」
「文句を言うな」
細井部長は頑ななまでに「辞めろ」という言葉を拒絶しまくっていた。
こうして、彼はその日から購買部所属となり、俺もまた仕事に戻るのであった。
三ヶ月後──。
「え…マジ?」
ユリアさんとのランチ中、俺は購買部の同期から「あの人、懲戒解雇になったよ」という話を聞き、それをユリアさんに語っているところだ。
「なんで?やっぱり、人間関係とかギスギスしてたから?」
「いや、そういうことじゃないんだ」
細井部長は筋金入りの「欲しがり屋」だった。
購買部というのは、材料や資材を調達する部署なのだが、そこで細井部長の悪い癖が出た。
「「必要もない高級家電やパソコンを会社名義で買って、自宅に持ち帰ってたらしい。最後は架空の発注までして、横領扱いになったんだって 」
「ええっ、そんなことしちゃったの!?」
三ヶ月間は細井部長に温情をかけていた小松社長も、今度はためらわなかったという。
社長室に呼んだ瞬間に「二度と会社の敷居をまたぐな!」と怒鳴って追い出したそうだ。
「はぁ…でも、なんていうか、自業自得、因果応報って感じよね」
「うん、ほんとにそうだよね。悪いけど俺、彼には二度と会いたくないよ」
結局俺は保険のお陰でカンムリZを買い替えることができた。
週末にはユリアさんとドライブしようと約束しており、細井部長のことなんて、もう思い出したくなかった。
(了)




