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捨章1

無機質な空調の駆動音だけが響く、深夜のラボルーム。

青白いモニタの光に照らされた乱雑なデスクの傍らで、紙コップのコーヒーを啜りながら声を放つ。


「おい、フジ。お前、まだあのプロジェクトの残骸を弄ってるらしいな。」

「……何の話だ?」

「しらばっくれるなよ。倫理委員会からレッドカードを食らって、完全に凍結されたアーキテクチャだよ。何より、もう一銭の金にもならないぞ。」


フジと呼ばれた男は、キーボードを叩く手を止めずに短く息を吐いた。

「……そうなんだよな。発表の初期は、永遠の命が手に入るってんで、富裕層から狂ったように出資の申し込みが殺到したのにな。連中の手のひらの返しっぷりたるや、見事なもんだった。」


「当たり前だろ。だってあれ……結局は死んじゃうんだぞ。」


「動物実験だと、見事なまでの再現性だったんだけどなあ。」

フジは自嘲気味に笑い、最後に乱暴なキーストロークを響かせた。


「有名なパラドクスになってるくらいだからな。……それに、プロジェクト凍結の本当の理由は、投資の引き上げだけじゃないらしいぜ。」

「どういうことだ?」

「過激派のカルトに狙われたって噂だ。決定的な魂の不在証明になるってんで、宗教屋からすれば、我慢ならない冒涜だったんだろうよ。」


「……マジかよ。さすがに俺も命は惜しいし、これは潮時か?」

フジは肩をすくめ、降参するように両手をキーボードから離した。


諦めを含んだ二人の乾いた笑い声だけが、無機質な深夜のラボに空虚に響き渡った。

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