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ツルバミ

深い森の中、清々しい木の香りが漂う開けた場所に、ツルバミのアトリエはあった。

大きな切り株を椅子代わりに座っていたツルバミは、彫刻刀を動かす手を止め、近づいてくる二人を見上げた。


「こんにちは、ツルバミさん!」

テオが元気よく挨拶すると、ツルバミは穏やかに目を細め、その背後に立つ金髪の青年へと視線を移した。

「やあ、テオ。……シッポウから聞いているよ。君がニシキギだね。どうだね、ヴィラレライトは。」


「ニシキギです。聞いてはいましたが、これほどまでとは思いませんでした。正直、世界の精彩さに眩暈がしています。」

ニシキギが静かに一礼して答えると、ツルバミは満足そうに頷いた。

「それは良かった。ヴィラレライトは君を歓迎するよ。ところで、実は私は彫刻が趣味でね。良ければ、君の姿も木彫りに残したいんだが良いだろうか。」

「もちろんです。とても光栄に思います。」


ニシキギは微笑んで応じながら、ツルバミの背後に広がる異様な光景に目を奪われていた。

アトリエの奥には、見渡す限りの無数の木彫像が立ち並んでいたのだ。一つ一つが精巧に作られており、髪の毛の一本、衣服のシワに至るまで、狂気的なまでの解像度で彫り込まれている。それはただの趣味の領域を遥かに超えた、途方もない時間の結晶だった。


「……素晴らしい。ところで、あなたが全てのアシュプルを木彫像にしているというのは本当ですか?実は、ずっと探している人がいるんだ。」

「全員は大げさだが、多くのアシュプルの姿は彫らせてもらったと思うよ。誰を探しているんだい?」


「アオキという名です。彼は、ここを訪れただろうか。」

ニシキギの問いかけに、真っ先に首を傾げたのはテオだった。

「アオキさん?うーん……僕、アオキさんなんて名前のアシュプルは知らないよ?」

幾度となく全員を見回っているはずのテオの言葉に、ニシキギの顔に微かな焦りの色が浮かぶ。しかし、ツルバミはゆっくりと顎を撫でながら、事もなげに答えた。


「ああ、アオキか。それなら、マツを訪ねてみると良い。」

「……マツ、ですか。」

「そうだ。あの丘の向こうで、日がな一日、暖炉の火を見つめている男だよ。きっと彼なら、君の尋ね人のことを知っているはずだ。」


「あ!マツさんなら、物知りだもんね!」

テオが無邪気に手を叩くと、ニシキギの瞳の奥に、ある種の強い決意の光が宿った。彼は一つ深く息を吐き出すと、テオに向かって真剣な眼差しを向けた。


「テオ。君の仕事は、ヴィラレライトのアシュプルたちを毎日訪ねることなんだろう?もし良ければ、マツのところへ案内してはもらえないだろうか。」

「もちろん!じゃあ、一緒にマツさんのところへ行こう!」


弾むようなテオの足取りに合わせ、ニシキギもまた、しっかりとした歩幅で歩き出す。先ほどまでのニシキギとは違う、明確な目的を持った足取りだった。


その横顔を見上げながら、テオは小脇に抱えたノートを開いた。

インクの滲まない真っ白なページに、丸っこい文字が綴られる。


『ニシキギ、行き先が決まる』

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