ニシキギ
雲を突き抜ける巨大な塔の中枢。分厚い絨毯の敷かれた静かな部屋で、隣人の管理者であるシッポウは、いつものように穏やかな声で口を開いた。
「テオ。今日はあなたに一つ、大切なお願いがあります。」
「お願い?なあに、シッポウ。」
テオが小首を傾げると、シッポウは目を細め、塔の上層へと続く螺旋階段を見上げた。
「まもなく、新しいアシュプルの方がこの塔を降りてこられます。お名前は、ニシキギさん。彼に、このヴィラレライトの美しい庭園を案内してあげてくれませんか。」
「新しいアシュプル!うん、わかった。僕が案内するよ!」
テオが元気よく頷いたその時、螺旋階段の奥から、静かな足音が響いてきた。
姿を現したのは、透き通るような金色の髪と、深い碧眼を持ったアシュプルだった。青年のような若々しく美しい容貌をしているが、その足取りや視線の動かし方には、長い年月を生き抜いてきた者特有の、静かで重厚な落ち着きが漂っている。
「はじめまして、ニシキギさん!僕、テオだよ。今日は僕が、このヴィラレライトを案内するね!」
テオが無邪気に駆け寄り、満面の笑みで話しかけると、ニシキギはわずかに目を丸くして足を止めた。彼はテオの顔を見つめ、それから静かに控えているシッポウへと視線を移す。
「……驚いた。これまでに出会った隣人で、君ほど快活に話す子はいなかったな。」
感心したようにつぶやくと、ニシキギはテオに向き直り、とても優しく、深い微笑みを浮かべた。
「ありがとう、テオ。君のような親切な案内人がいてくれて、とても心強いよ。ぜひお願いしよう」
「えへへ、任せて!」
テオが無邪気に胸を張ると、背後に控えていたシッポウが静かに一歩前に出た。
「シッポウです。ニシキギさん、ヴィラレライトはあなたを心より歓迎いたします。」
「ありがとう、シッポウ。」
ニシキギが恭しく一礼を返すと、シッポウは穏やかな微笑みを崩さぬまま、テオへと視線を移した。
「テオ、まずはツルバミさんのところへ向かうと良いでしょう。」
シッポウの静かな提案を受け、二人は連れ立って塔の扉をくぐった。
外に出た瞬間、吹き抜けてきた柔らかな風に、ニシキギはぴたりと足を止める。
見上げれば、どこまでも高く澄み渡る完璧な蒼空がある。
足元には、柔らかな土の弾力と、生命力に満ちて青々と茂る草花。遠くからは、淀みなく流れる小川の澄んだせせらぎが聞こえてくる。
ニシキギはゆっくりと目を閉じ、肺の底まで満たすように、深く、長く息を吸い込んだ。
「……なんてことだ。こんなことがあるのか。なんて美しく、澄んだ風だろう。」
ニシキギの呟きは、誰に宛てたものでもない、祈りのような響きを持っていた。
「ニシキギさん、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。土の柔らかさと、草の匂いに少し感動していただけだ。さあ、行こうか。」
ニシキギはゆっくりと目を開けると、再び穏やかな微笑みを浮かべて歩き出した。
なだらかな丘陵地帯を歩きながら、テオはこれから向かう先について楽しそうに口を開いた。
「これから行くツルバミさんはね、木を彫るのがとっても上手なんだよ!このヴィラレライトにいるアシュプルのみんなの姿を、一つ一つ木彫りの像にしているんだ。だから、ニシキギさんも、絶対に作ってもらうといいよ!」
「全員の木彫り像を、かい?」
ニシキギが興味深そうに相槌を打つ。
「うーん、全員かはわからないけど……彫られてない人なんているのかな?とにかく、ツルバミさんの像を見れば、誰がどんな姿をしてるかだいたい分かるんだよ!」




