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ニシキギ

なだらかな丘を越えると、遠くの風景は緑色を帯びた柔らかな霞のように溶け合っていた。

一本一本の木々や葉の輪郭はなく、ただ色彩の塊としてそこにある。


歩みを進めるにつれ、周囲の景色が少しずつ、だが確かな鮮やかさを増していく。

靴底に心地よい土の弾力を返し始める。遠くでぼんやりと鳴っていた単調な水音は、近づくにつれて、無数の水滴が石にぶつかり合う複雑で精緻なせせらぎへと解きほぐされていった。


ただの緑の線だったものが、風に揺れる細やかな草の葉へと変わり、木々の枝葉が天の光を透かして幾重もの影を落とすようになる。世界が、近づく者の視線と歩みに応えるようにして、その真の美しさを開花させていく。


その精緻な森の小道で、一人の金髪の青年が静かに佇んでいた。

彼は手元の羊皮紙に何かを書き留めていたが、近づく足音に気づいてゆっくりと顔を上げた。


「こんにちは、ニシキギさん!」

テオがいつもと変わらぬ、屈託のない笑顔で元気に手を振る。

「ニシキギさんは、ヴィラレライトでやりたいこと、見つかった?」


ニシキギは静かにテオの顔を見つめ返した。

透き通るようなその瞳の奥に、ほんの少し前まで確かにそこにあったはずの、もうひとつの小さな影をそっと探るように。

しかし、そこには一片の淀みもない、真新しい光だけが反射していた。


やがて彼は、小さく息を吐き出して微かに微笑んだ。

「ああ。同類と話をすることにしたよ。ヴィラレライトを旅しながら、出会ったアシュプルたちのことを記録してみようと思う。」

「本当?それって、僕の仕事ととっても似てるね!」


「そうだな。」

ニシキギは静かに頷いた。目の前の少年に語りかけているのか、それとも自分自身に言い聞かせているのか。彼の紡ぐ声は、どこか遠い記憶の輪郭をなぞるように穏やかだった。


「自分で絵を描いて、毎日の食事は隣人に作らせるアシュプルもいれば、自分で食事を作って、隣人に絵を描かせるアシュプルもいるだろ。……私は、アシュプルたちに話しかけるのが好きなんだよ。」


「そっか!それはとっても素敵なことだね!」

テオは無邪気に頷くと、小首を傾げて尋ねた。

「ニシキギさんは、これからどこに行くの?」


ニシキギは顔を上げ、果てしなく続く完璧な森の向こう、決して変わることのない青空を静かに見つめた。そこにはもう、急ぐ理由など何一つとして存在しない。

「さて、どこへ行こうか。……ヴィラレライトは、広大だな。」


吹き抜ける風が、彼の金糸の髪を揺らす。

その穏やかな背中を見つめながら、テオは小脇に抱えたノートを開いた。

インクの滲まない真っ白なページに、丸っこい文字が綴られる。


『ニシキギ、目的が決まる』

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