捨章4
――本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。
「こちらこそ。このような状況下で、わざわざ遠くまでご足労いただき感謝します。どうぞ、何でも聞いてください」
――ありがとうございます。早速ですが、質問に移らせていただきます。ヴィラレライトへの移住希望者は後を絶たず、年内にもあちらの人口が1000人を超えるとの予測がありますが、これは事実でしょうか?
「ええ、おかげさまで多くの方から多大な支持をいただいております。推移から見ても、数字は概ねその予測通りになるでしょう。現在我々は、急増する需要に応えるため、第二のヴィラレライトの建設を計画しているところです」
――第二のヴィラレライト、ですか。……しかし、ヴィラレライト・プロジェクトには現在も様々な批判が寄せられています。中でも、法外な費用を徴収してあなたが私腹を肥やしているという非難について、ご見解をお聞かせください。
「費用自体は決して法外ではないと申し上げておきましょう。考えてもみてください。地球環境が崩壊していく中で、シェルターのような巨大な地下空間や、軌道上のサーバー群を維持するのに、一体どれほどのコストが掛かるか。しかも、ユーザーは増えることはあっても減ることはなく、維持費に終わりはないのです。私個人のために使える金など、残っているはずがありませんよ。」
――その莫大な資金があれば、現実の多くの飢餓を救えるという意見もあります。
「その金を、ヴィラレライトへの移住に使うか、地上の飢餓を救うために使うか。それを決めたのはユーザー自身であって、私に文句を言うのはお門違いというものでしょう。」
――あなたは彼らを「ユーザー」と呼びますが、あれはただのAIによるシミュレーションに過ぎず、軌道上の衛星すら見せかけの大掛かりな詐欺行為だという疑惑も存在しますが?
「それこそ馬鹿げた陰謀論だ。実際に地上に残ったご家族と、移住した彼らが完璧にコミュニケーションを取れることは実証されている。我々のシステムが、知りもしない家族の極めて個人的な思い出話をシミュレーションで捏造できるとでも?」
――そこも大きな問題だと考えています。御社の用いるアナムネシス・プロトコルは、脳神経やシナプスの発火パターンを不可逆的にスキャンし、意識をデータに転記するものですが、そこには連続性があると言えるのでしょうか。
「スワンプマンか。記者のあなたが勉強熱心なのは良いことですが、思考実験はあくまで思考実験であり、現実の経済や救済ではありません。現に、アナムネシスによる精神の議論は、客観的に見て、連続性が十分に担保されているとして決着したはずです。そもそも、サーバー上で目覚めた彼らの主観は、自分は連続していると主張しています。それに私自身、スキャンされて死んでしまったと主張する主観には出会ったことがありませんからね。」
――それは悪質な生存バイアスです!オリジナルの肉体はスキャンと同時に破壊されるのですから、証明不可能なはずです!
「その通り!よくわかっているじゃないですか。証明不可能なのですよ。だからこそ、客観的な観測事実からどちらかを信じるしかない。かつては、アナムネシスは連続性が絶たれるから、魂の不在証明だという過激な意見もありましたが、今では逆に、魂という情報構造があるからこそアナムネシスが成立するのだという意見が主流です。」
――あなたが行っていることが、大量殺人や大規模な自殺幇助ではないと断言できるのですか? これは救済などではなく、デジタル化された集団安楽死ではないと言い切れますか?
「ヴィラレライトへの移住が『史上最も贅沢な自殺』と揶揄されていることは認識していますよ。ですが、私が法的に一切裁かれていないという事実が、何よりの証拠でしょう。」
――それは、政界への莫大な献金があってのことだという噂もありますが。
「本気でそうお考えなら、三流のゴシップ紙にでも転職されることをお勧めしますよ。いくら何でも、金だけで大量殺人を容認するほどこの世界は腐っていません。……もっとも、合法化の判断に、時代の持つ厭世観の後押しがいくらか働いたことは否定しませんがね。」
――たしかに失言でした、お詫びします。しかし、厭世観の後押しとおっしゃいますが、絶望し、行き詰まった人々が最後の手段としてアナムネシスを選択しているのだとしたら、それは判断力が著しく低下した状態での契約だとは考えられませんか?
「誤解されていますね。我々の顧客は、社会的地位を持った冷静な知識階級です。判断力を持たない子供や、その日暮らしに行き詰まった大人に払える費用ではありませんから。もちろん、あなたの仰るようなケースが完全にゼロだとは言い切れませんが……あなたはアナムネシスした彼らと直接話したことがないのでしょう? 後で彼らにもインタビューしてみるといい。誰一人として、あの楽園へ行ったことを後悔している人はいませんよ。」
――では、あなた自身はなぜアナムネシスしないのですか? 本当はこれが自殺だと知っているからではないのですか?
「私がいなくなったら、誰がこの地上で人々を救うのですか? 私がアナムネシス・プロトコルを実行するのは、すべてのユーザーを見送って、私が人類最後の一人になった後ですよ」




