表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/40

第16話 花占いに頼らない

 長期休暇明けは、憂鬱だ。

 怠惰を許された日々が終わり、現実に戻されるから。


 しかし、現在。

 別の理由で、クラスに暗雲が立ち込めている。


 全員が下を向き、息をひそめる、異様な空間。

 響く音は、担任のため息だけだ。

 青春の時間が、無意味に浪費されていく。



「早く決めないと帰れないぞー」



 コツコツと叩かれた黒板には、箇条書きが並ぶ。

 タコ焼き。焼きそば。写真展示。ゲーム大会。射的。のど自慢。


 文化祭の、出し物決めだ。


 私たちのクラスは、ナギサちゃんの影響か、大人しい印象がある。

 喧嘩はせず、成績も上々。

 模範的なグループそのものだ。


 だけど、品行方正さが欠点となる時もある。



「他にないのかー」



 苛立っているのか、担任は貧乏ゆすりをしている。

 しかし、彼こそが地獄を作った張本人だ。


 はじまりは、帰りのホームルーム。

 何気ない一言に、緊張が走った。



 文化祭の出し物決め、今日が期限だぞー。



 全員の頭に、疑問符が浮かんだ。

 知らない情報。

 担任のうっかりが発覚し、慌てて、アイディア出しが開かれた。


 トドメに、彼のこだわりだ。青春の中心だからと、簡素な出し物を認めない。

 無難なアイディアは却下され、誰も手を挙げなくなった。


 珍しいことに、ナギサちゃんも萎縮している。



「……ちっ」



 後ろから、舌打ちが聞こえた。

 クラス唯一の問題児。ツンツンくん。


 一学期よりも態度が悪くなり、左目には眼帯をつけている。

 夏休み中に、よくないことがあったのだろう。


 最悪な空気の中でも、こいつは帰らない。色々と察せられる。



「……はぁ」



 空気が揺れていないのに、声が聞こえた。


 早く終わらせてくれ。

 帰りたい。

 なんでもいいよ。

 部活があるのに。

 塾に間に合わない。

 誰か、なんとかしろよ。

 誰か。誰か。誰か。


 ふと、連想する。

 会社の会議でも、停滞は日常茶飯事だった。

 責任やパワーバランスが絡み合い、がんじがらめになっていく。


 不毛だ。


 仕事だったら、耐えられる。

 一応は勤務時間だし、お給金が出るから。

 でも、今は無駄としか判断できない。



「……やるかぁ」



 解決方法は、ひとつしかない。

 立ち上がり、口を開く。



「もう、演劇にしませんか?」



 空気を無視して、誰かが貧乏くじを引くしかない。


 今回は、私の役目だ。



「演劇、いいじゃないか!」



 担任の口から出た肯定に、場が緩む。


 同時に、針のような視線が突き刺さった。

 演劇は面倒だろ。やる気ねえよ、と。


 私の考えも同じだ。

 脚本、配役、練習、道具や衣装の作成。

 奪われる時間が、膨大すぎる。


 しかし、私——鳥海恵巳には狙いがあった。



「ナギサちゃんを主演にしましょう」



 晴れやかな衣装を身にまとったお嬢様の姿を、目に焼き付けたい。

 可憐な美貌を前に、誰もが納得するはずだ。


 

「わかりました」



 チャイムよりも通る声とともに、立ち上がるナギサちゃん。

 迷いない指先が、私の鼻先に向けられた。


 

「脚本は、恵巳さんがお願いしますね」



 少女の瞳が、私の網膜を射抜く。太陽に透かしたビー玉のように、輝いていた。



――あたし、恵巳さんの脚本以外、演じませんからね。



 ああ。

 そっか。

 ナギサちゃんは、わざと黙っていたんだ。

 痺れを切らした私が提案すると、予測して……。


 見事なまで、手玉にとられていたのだ。


 奥歯を噛みしめながらも、緩む口元。


 すごい。

 私のことを、理解してくれている。


 彼女と一緒なら、作れるよね。


 観客の人生を歪ませるような、狂った舞台を。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ