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Reboot(再起動)エピソード"ゼロ"  作者: いきし
小学生後編(農業編)
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農業版の産業革命

3月上旬。

雪解け水が用水路を流れ始める季節。


剛田ファームの敷地内には、早朝から異様な数のハイエースやトラックが集結していた。


•地元の電気工事会社(強面のおっちゃん達)

•大手農機具メーカーの営業担当と整備士

•配管設備の職人

•通信工事の作業員


総勢30名。


彼らは、剛田に呼び出され、困惑していた。


「おい、剛田さんよ。作付けまであと1週間もねぇぞ。今から何をさせる気だ?」

「ボイラーの修理か? それとも雪害の補修か?」


剛田は、プレハブ事務所の階段に立ち、拡声器トラメガを握った。


「おう、よく集まったな! 野郎ども!」

「これから行うのは修理じゃねぇ! 『革命』だ!」


「は?」


剛田は横を指差した。


「総監督を紹介する。……桜庭先生だ!」


ランドセルを背負い、文庫本(宮沢賢治『ポラーノの広場』)を片手に持った環が、ペコリと頭を下げた。


「……時間がない。すぐに着工する。」


ざわめく大人たち。


「おいおい、冗談だろ? 小学生?」



環は、ざわめきを無視して、A3用紙の図面を配った。

それは、CADで精密に描かれた、ハウス全体の配線・配管図だった。


「……電気屋さん。ハウス内の電源、単相100Vから三相200Vへ昇圧。」

「……さらに、動力線とは別に、制御用のLANケーブル(Cat6A)を全支柱に敷設。」

「……ノイズ対策のため、インバータのアースは独立接地(D種)で。」


電気工事の親方が、図面を見て目を丸くした。


「な、なんだこの図面は……! 完璧じゃねぇか!」

「ていうか嬢ちゃん、動力と通信を一緒に這わせたらノイズが乗るなんて、よく知ってるな!」


環は無表情で答えた。


「……基本ベーシック。あと、分電盤にラズパイ組み込むスペース空けておいて。」


「ラ、ラズ……? よく分からんが、この図面通りやりゃいいんだな!?」


「……1ミリのズレも許さない。」


「おもしれぇ! やってやらぁ!」


職人の魂に火がついた。



次に環は、農機メーカーの営業マンと整備士に向き直った。

彼らの前には、数千万円する最新鋭のトラクター(GPSガイダンス付き)が並んでいる。


「……次、農機メーカー。」


「はい! 最新モデルの納品ですね?」


「……違う。このトラクターの制御ユニット(ECU)、ロック解除して。」


営業マンが凍りついた。

「は? ロック解除……ですか?」


「……メーカー純正の自動操舵プログラムは、安全マージンを取りすぎ。」

「……ハンドルの切れ角速度ヨーレートが遅くて、旋回時に無駄な動きがある。」

「……私が書いたカスタム・ファームウェアに書き換える。」


「ちょ、ちょっと待ってください! そんなことしたら保証対象外に……!」

営業マンが悲鳴を上げる。


そこに、剛田が割って入った。


「おい! 先生がやれっつったらやるんだよ!」

「壊れたら俺が新車を買ってやる! その代わり、もし先生のプログラムの方が性能が良かったら……分かってるな?」


整備士が震える手でPCを接続した。


環は、整備士からキーボードを奪い、凄まじい速度でコードを打ち込み始めた。


「……CANバス(車載ネットワーク)の信号解析完了。」

「……ステアリング制御のPIDゲインを調整。……リミッター解除。」



ブォォォォン!!



トラクターのエンジン音が、獰猛な獣のように変わった。



現場は戦場だった。


電気屋が天井裏を走り回り、配管屋が塩ビパイプをジャングルジムのように組み上げ、環がトラクターの運転席でハッキングを行う。


そのカオスの中、県職員の長谷川は、書類の束を持って走り回っていた。


「ああっ! そこは県の補助金対象外の工事です! 写真撮らないで!」

「剛田さん! 農地法の手続きが間に合いません!」

「桜庭! 電波法ギリギリの出力はやめろ! 総務省が来るぞ!」


長谷川は、環と剛田にこき使われながら、全ての「大人の事情コンプライアンス」をギリギリのラインでクリアしていく調整役を強いられていた。


「……俺、県庁のエリートだったはずなのに……なんで泥まみれで違法スレスレの工事の尻拭いを……。」



3日後の夕方。 全ての工事が完了した。


「……システム、オールグリーン。」


環がタブレットのエンターキーを叩いた。


その瞬間。 20棟あるビニールハウスの天窓が、一斉に、まるで生き物のように開閉した。

LED照明が、夕日の光量に合わせて自動調光される。

そして、無人のトラクターが、ミリ単位の精度で耕起作業を開始した。


「……すげぇ。」


電気屋の親方が呟いた。


「俺たちが繋いだのは、ただの電気じゃなかった……神経だったんだな。」


農機メーカーの整備士は、涙目でモニターを見ていた。


「……悔しいけど、純正より30%も旋回が速い……。」

「……これ、本社に持ち帰って解析してもいいですか?」


剛田は、生まれ変わった自分の城を見渡し、高笑いした。


「ガハハハ! 見ろ長谷川! これが俺と先生の城だ!」

「これで今年の収量は倍増! 経費は半減だ!」



環は、パイプ椅子に座り、ぐったりとしていた。

さすがに3日間の突貫工事は疲れた。


「……剛田さん。報酬。」


「おうよ! 約束のブツだ!」


剛田は、冷蔵庫から桐箱に入った「超特選・初摘みイチゴ」を取り出した。

一粒だけで百円以上はする、赤い宝石だ。


「……いただきまーす。」


環は、大粒のイチゴを口に放り込んだ。

甘酸っぱい果汁が、疲れた脳に染み渡る。


「……ん。合格。」


「……来月は、選果場のロボットアームを改造するから、また職人集めておいて。」


職人たちが「ヒェッ」と悲鳴を上げたが、その顔はどこか嬉しそうだった。


鳴和の片田舎で起きたこの「3日間の改革」は、後に地元の業者たちの間で「剛田の春の陣」として語り継がれ、ここに参加した職人は「IoT対応工事ができるエキスパート」として引っ張りだこになるのであった。

モチベーションの維持のため評価だけでも。

できれば感想を頂ければ幸いです。


よろしくお願いいたします。


次回は本日22時ごろ投稿予定です。

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