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Reboot(再起動)エピソード"ゼロ"  作者: いきし
小学生中編(医大・工大編)
28/38

倍返しどころではない殲滅

平和な午後3時。

長閑市役所。

住民票の窓口で、職員がPCを操作していた手が止まった。


「……あれ? 画面が固まった。」

「こっちもだ。再起動しても動かないぞ。」


異変は、庁舎内の全端末へウイルスのように広がった。


数分後。

全てのモニターが一斉に暗転し、そして不気味な赤いドクロのアイコンと共に、メッセージが表示された。


『 YOUR DATA IS ENCRYPTED (データは暗号化された) 』

『 PAY 500,000,000 JPY within 24 hours. (24時間以内に、5億円を支払え) 』

『 IF NOT, ALL DATA WILL BE DELETED. (さもなくば、全データを削除する) 』


「な、なんだこれはぁぁぁッ!?」

職員の絶叫が響き渡る。


住民基本台帳、税務情報、戸籍データ。

市民の生活を支える全てのサーバーが、何者かによって人質に取られたのだ。


「け、警察だ! すぐに通報しろ!」


駆けつけた所轄の警察官2名は、真っ赤な警告画面を見て立ち尽くした。


「こ、これは……サイバー犯罪ですね……。」

「署の生活安全課では手に負えません。県警本部のサイバー対策室に応援を要請します!」


現場はパニックだ。


システム管理を委託している地元のITベンダー数社が呼び出されたが、彼らも顔面蒼白でキーボードを叩くだけだった。


「だ、ダメです! バックアップサーバーまで暗号化されています!」

「ログに入れない! 管理者権限が奪われています!」

「復旧の目処……立ちません!」


夕方のニュースで、長閑市の幹部たちが頭を下げて謝罪した。


「現在、原因を調査中ですが……市民の皆様の個人情報が……。」


市役所の機能は完全に麻痺し、まさに都市機能停止ダウン状態に陥った。



その頃。

市役所の下請けでシステム保守の一部を請け負っていた、博の勤める中小ソフト開発会社も修羅場と化していた。


「おい桜庭(博)! どうなってるんだ!」


社長が泡を吹いて怒鳴り散らしている。


「今回の侵入経路、まさかウチが納品したモジュールの脆弱性(穴)じゃないだろうな!?」


「もしウチの責任になったら、損害賠償で会社が潰れるぞ!!」


博は、充血した目で必死にサーバーログ(の残骸)を追っていた。


「わ、分かりません……! 形跡が消されていて……でも、ウチの担当箇所だけじゃない、システム全体が同時にやられています!」


「言い訳はいい! とにかく復旧させろ! 今日は全員帰さんぞ!!」


博は、脂汗を拭いながら携帯を取り出した。

今日は、久しぶりの家族サービスの日だったのだ。


駅前のホテルの「秋のデザート&ディナービュッフェ」。

環が1ヶ月前から楽しみにしていたイベントだ。


(……くそっ、なんでこんな時に……!)


博は断腸の思いで、妻にメールを送った。



桜庭家・リビング。


学校から帰宅し、お出かけ用のワンピースに着替えていた環の横で、母・裕子の携帯が鳴った。


「あ……お父さんからだわ。」


裕子がメールを見て、表情を曇らせた。


『 ごめん。市役所のシステムトラブルで、緊急対応になった。  今日は帰れない。会社が潰れるかもしれない。  ビュッフェはキャンセルしてくれ。本当にごめん。 』


「……環。お父さん、今日はお仕事で無理だって。」


裕子が申し訳なさそうに言った。


環は、読んでいた本(カント『純粋理性批判』)をパタンと閉じた。


「……理由は?」


「ニュースでやってる、市役所のコンピューターが動かない件みたい。」


「……そう。」


環の表情から、感情が消え失せた。



環は、静かに立ち上がり、自分の部屋へ向かった。

その背中には、どす黒いオーラが立ち昇っていた。


(……今夜のビュッフェには、期間限定のシャインマスカットのショートケーキがあった。)


(……ドリンクバーには、プレミアム・メロンソーダがあった。)


(……お父さんの会社のセキュリティレベルは把握している。父のミスではない。これは外部からの悪意ある攻撃。)


環は自室に入り、自作のハイスペックPCの電源を入れた。

6枚のモニターが一斉に起動する。


「……私の楽しみを奪った罪は重い。」


環は、眼鏡を掛け直し、キーボードに手を置いた。

その指の動きは、ピアノのヴィルトゥオーゾ(達人)のように速く、そして冷酷だった。


「……犯人ターゲットを特定する。」

「……5億円? 1円も渡さない。」

「……地獄を見せてあげる。」



カタカタカタカタカタッ……! ッターン!!



天才少女・桜庭環 VS 国際サイバー犯罪組織。

メロンソーダの恨みを晴らすための、仁義なき電子戦争が幕を開けた。



午後4時。

東京・東都工業大学。


氷室教授は、研究室でニュース速報を見ていた。


「長閑市で大規模サイバー攻撃」のテロップ。


(……この市役所、環の住んでいるところじゃないか。)


そう思った瞬間、PCに着信が入った。

環からだ。


『 ……氷室先生。今のニュース、見た? 』


「ああ。ランサムウェア(身代金ウイルス)だな。最近流行りの。」


『 ……私の分析では、使用されたのは新型の暗号化ワーム。攻撃元は東欧を経由した多段プロキシ。……合ってる? 』


氷室は舌を巻いた。


「……恐らくな。数分でそこまで解析したか。」


『 ……で、相談。』


環の声が、氷点下まで下がった。


『 ……東都工大のスパコン『TSUBAME』の全ノード、30分だけ貸して。』


「はぁ!? お前、国の資産だぞ! 目的外使用で俺の首が飛ぶ!」


氷室が叫ぶと、環は淡々と言った。


『 ……貸さないなら、今からセキュリティホールを突いて乗っ取る(ハックする)。……どっちがいい? 』

『 ……どっちにしろ私が使うのは確定事項デタミニスティック。 』


氷室は天を仰いだ。この子は本気だ。


「……分かった。俺のアカウント権限を渡す。……『学術研究』という名目にしておけ。絶対に足跡を残すなよ!」



桜庭家・環の部屋。

6枚のモニターが、目にも止まらぬ速さで文字列を吐き出していく。

環は、日本の科学技術の結晶であるスーパーコンピューターの演算能力を、全て自分のPCに直結させていた。


「……計算資源リソース、確保。」


「……反撃開始カウンター・エンゲージ。」


環の指が叩くエンターキーの音が、銃声のように響く。



1.逆探知: 世界中に分散されたボットネットの踏み台サーバーを、スパコンの暴力的な計算力で総当たり解析。

ロシア、ブラジル、東南アジア……何十もの偽装を経由し、ついに本丸(C2サーバー)を特定した。

場所は、東欧のとある国と、アジアの無政府地帯にある雑居ビル。


2.データ奪還: 「……データ、まだオフライン(テープ等の外部媒体)に隔離されてない。」 「……クラウド上のストレージにある。……パスワード解析、完了。」

環は、犯人グループのサーバーにバックドアから侵入。

長閑市から盗まれた住民データを完全に削除し、逆に市役所のサーバーを復旧させるための「暗号化解除キー」を抜き取った。



「……人質は取り返した。」


「……次は、お仕置き。」



犯人グループの口座には、世界中から巻き上げた身代金が唸るほどプールされていた。


「……汚いお金。洗浄クリーニングしてあげる。」


環は、ブロックチェーンの取引履歴を解析し、彼らのウォレットの秘密鍵を特定。 数百億円相当の資産を、一瞬で送金した。


送金先は以下の通り:

•赤十字、ユニセフ等の国際慈善団体: 40%

•東都工業大学・研究支援基金(寄付者:匿名希望): 40%

•スパコン『TSUBAME』電気代および利用料: 10%

•環の秘密口座(研究費): 10%


「……これで、世界中の子供たちが救われる。……感謝してね、泥棒さん。」


犯人グループの残高は、瞬時に0.000となった。



だが、環の怒りは金では収まらない。


彼女は、犯人たちが使用しているデバイス(スマホ、PC)のMACアドレスを特定していた。


「……私のショートケーキを邪魔した罪。」



ッターン!!



その瞬間、世界数カ所のアジトで悲劇が起きた。


犯人たちが持つスマホ、タブレット、PCが、一斉に高負荷熱暴走を起こした。

バッテリーが膨張し、OSがクラッシュし、強制的に初期化ファクトリーリセットされる。


「うわあああ! 俺のスマホが!」

「熱っ! PCから煙が出たぞ!」

「データが消えた! バックアップも全部だ!」


彼らの商売道具は、ただの文鎮スクラップと化した。


仕上げだ。

環は、彼らの正確なGPS座標付きの匿名メールを送信した。


【 法治国家のアジト向け 】

送信先:インターポール、FBI、現地警察。

内容:『大規模サイバー犯罪組織の拠点および証拠データ(復号済み)を送付します。直ちに急襲されたし。』


【 無法地帯のアジト向け 】

送信先:犯人グループと敵対するマフィア、武装勢力。

内容:『お宅のシマを荒らしている連中の居場所と、武器の保管庫の鍵(電子ロック)を開けておきました。ご自由にどうぞ。』



午後7時。

長閑市役所。


突如として、死んでいたサーバーが再起動を始めた。

画面のドクロマークが消え、通常のログイン画面に戻る。


「……な、直った!?」

「データも無事だ! 暗号化が解けてる!」

奇跡だ……!」


職員たちや外部の技術者たちは、抱き合って喜んだ。


「よかった……本当によかった……!」



午後8時。桜庭家。

博が、大量のケーキ(コンビニスイーツだが)を買って帰宅した。


「ただいま! 環、裕子! 直ったよ! 奇跡的にシステムが復旧したんだ!」


博は興奮して語ったが、環はリビングで静かに本を読んでいた。


「……おかえり、お父さん。」


「ごめんな、ディナー行けなくて。埋め合わせは今度絶対にするから!」


「……ううん。いいの。」


環は、父が無事に帰ってきたこと、そして「敵」が今頃、警察とマフィアと破産に追われて地獄を見ていることを想像し、薄く微笑んだ。


「……メロンソーダより、スッキリしたから。」


その夜、ニュースでは「国際的ハッカー集団、一斉摘発」「謎のホワイトハッカーによる制裁か?」という報道が流れたが、その正体が、ケーキを食べ損ねた鳴和の小学生であることは、誰も知る由もなかった。

モチベーションの維持のため評価だけでも。

できれば感想を頂ければ幸いです。


よろしくお願いいたします。


次回は明日19時ごろ投稿予定です。

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