表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Reboot(再起動)エピソード"ゼロ"  作者: いきし
小学生中編(医大・工大編)
26/38

医師たちの歪んだ需要

手術支援ロボット『阿修羅』の販売台数は、右肩上がりどころか垂直発射のような勢いで伸びていた。


大和精機の工場は24時間フル稼働、帝都メディカルの株価は成層圏を突破中。


そして、開発に携わった鬼頭教授と毒島教授のもとにも、恩恵は届いていた。


「……ほう。」


鬼頭は、通帳記帳をしてニヤリとした。


『阿修羅』には、オプション機能として『毒島&鬼頭・指導モード(ボイス付き)』が搭載されている。

これを使用するたびに、1回数十円のライセンス料が彼ら個人に入る契約だ。

単価は安いが、日本中で毎日数千件の手術が行われているのだ。


「今月だけで、高級焼肉が何回も食える額か……。」


「毒島の野郎も『飲み代が浮いた』と喜んでたな。」


金だけではない。

名誉もついてきた。


学会に行けば、面識のない若手医師から握手を求められる。


「鬼頭先生! 先生のガイド音声、最高です!」

「手術中に解剖の知識が耳から入ってくるので、迷いが消えました!」

「学生時代に戻ったような緊張感……罵倒されるのが逆に集中できます!」


鬼頭は満更でもなかった。


(フン、今の若いのも捨てたもんじゃないな。俺の解剖学(愛)が伝わっているようだ。)



しかし。

ここ数週間、鬼頭の元に届く感想メールの中に、理解不能な単語が混ざり始めた。


『 先生の冷徹な指摘、ゾクゾクします! 』

『 まさに医療界の女王様クイーン! 一生ついていきます! 』

『 厳しいけど、たまに見せるデレ(褒め言葉)が最高に萌えます! 』



「…………は?」



鬼頭は、洗面所の鏡を見た。


そこにあるのは、髭面で強面の、熊のような中年男の顔だ。

どこをどう切り取っても「萌え」も「女王様」も存在しない。


「……どういうことだ? 毒島の声と間違えてるのか?」

「いや、あいつも『ゴリラ』とは言われても『女王』とは呼ばれんぞ……。」


鬼頭の中に、嫌な予感が走った。


このシステムの根幹を握っているのは、誰だ?

金にがめつく、人を食ったような態度を取る、あの8歳児だ。



鬼頭は、血相を変えて大学のシミュレーションセンターへ向かった。


そこでは、環がタブレットを操作しながら、何やらニヤニヤしていた。


「おい、環。」


「……あ、おじさん。お疲れ。」


環の手元の画面には、海外の銀行口座の残高が表示されていた。


鬼頭の通帳など比ではない、桁違いの数字が並んでいる。


「……貴様、何をした?」


鬼頭は、届いたメール(「萌え」「女王様」)を突きつけた。


「あー……。」


環は悪びれもせず、ペロリと舌を出した。


「……おじさんたちのモード、評判いいけど……『もっと高度で』『もっと精密な』指導を求める層 (ヘビーユーザー)がいたから。」

「……需要があったから、供給しただけ。」


「まさか……。」


環は、シミュレーターを起動した。

メニュー画面の隅にある、目立たないアイコンを長押しする。



『 Secret Mode Unlocked : TAMA-CHAN 』

『 Price : 3,000 JPY / ope (課金制) 』



「……これ。」


デモ画面が始まる。


聞こえてきたのは、鬼頭の野太い声でも、毒島の怒鳴り声でもない。

冷徹で、少し生意気な、少女の声だった。



『 ……遅い。あと0.5秒早く結紮けっさつして。 』


『 ……そこ、迷走神経の分枝がある。切ったら殺すよ? 』


『 ……はぁ(溜息)。視野が汚い。私の言う通りに展開して。 』



その指示内容は、毒島の手技(外科)と鬼頭の知識(解剖)を完璧に融合させ、さらに環のAI予測を加えた、完全無欠の神ガイドだった。

しかも、口調が絶妙に「上から目線」だ。



『 ……よくできたね。今の処置は、偏差値60点。 』



「……なんだこれは。」


鬼頭は絶句した。


「……私が、全データを学習して吹き込んだ、統合指導モード。」


「……毒島先生より上手くて、おじさんより詳しい。」


「……おじさんたちのモードは『無料版』。こっちは『有料版プレミアム』。」



「……殺すよ? ……だと?」

「……生意気なガキに手術を指図されて、喜ぶ医者がいるのか!?」


環は、淡々とデータを提示した。


「……リピート率95%。」

「……激務で疲れた医師たちは、おじさんの怒鳴り声より、少女の冷たい罵倒と完璧なナビゲートに癒やしを感じている。」


「……結果として、手術成功率も有意に上昇。」


事実、現場ではこの「たまちゃんモード」が、一種のステータスとなっていた。

別料金を払ってでも「天才少女のガイド」を降臨させる。


罵倒されながら完璧な手術を完遂し、最後に「よくできたね」と言われることに、至上の喜びを感じる変態……もとい、熱心な医師が急増していたのだ。


「……私の口座には、1回につき2000円が入る仕組み。」

「……残り1000円は、システムの維持費。」


「お前……ちゃっかりしすぎだろ!!」


鬼頭は頭を抱えた。

「萌え」とか「女王様」とか言われていたのは、自分ではなく、この姪っ子(のような存在)だったのだ。


「……まあ、いいじゃない。」


環は、増え続ける残高を見て微笑んだ。


「……これでまた、新しい研究機材が買える。」


「……日本の医療レベルも上がる。Win-Win。」


鬼頭は、ため息をつきつつも、その圧倒的な完成度にぐうの音も出なかった。


「……俺の解剖講義より分かりやすいのが、一番腹立つわ!!」


こうして、『阿修羅』の普及と共に、日本の外科医たちの間には「謎の少女の声に支配される」という新たな文化が定着していくのだった。

モチベーションの維持のため評価だけでも。

できれば感想を頂ければ幸いです。


よろしくお願いいたします。


次回は本日23時ごろ投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ