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Reboot(再起動)エピソード"ゼロ"  作者: いきし
小学生中編(医大・工大編)
25/38

とある老年の外科病院理事長

県内の中規模病院・佐伯さえき病院。


理事長兼院長の佐伯(60代)は、休診日の理事長室で、鉛のように重い体をソファに沈めていた。


(……腰が痛い。目も霞む。)


彼は昨日、4件の手術を執刀した。

本来なら若手に任せるべき症例だが、外科医がいないのだ。


せっかく手取り足取り教えて一人前にしても、数年で「症例数を稼ぎたい」「都会に行きたい」と言って辞めていく。


うちはただの「踏み台」だ。


(……もう、潮時か。)


外科部門の閉鎖。

地域住民のことを思えば避けたかったが、佐伯の体力が限界だった。


最近ニュースで、地元の医大が手術ロボット『阿修羅』を開発したと聞いたが、鼻で笑ってスルーしていた。


(どうせ、アメリカの『レオナルド』の劣化コピーだろう。)

(予算のない地方大学が作ったおもちゃだ。導入する金も体力もない。)


彼は目を閉じ、閉院の挨拶文を脳内で考え始めていた。



プルルルル……。



不意に携帯が鳴った。

画面には『県医師会・小山田先生』の文字。

少し年上の、地域の顔役だ。


「……はい、佐伯です。」


『おい佐伯ちゃん! 今家か!? すぐ医大に来い! 今すぐだ!』


「はぁ……今日は体がちょっと……。」


『寝てる場合か! お前の所の外科、畳もうか悩んでるって言ってたな?』

『助かりたいなら来い! 這ってでも来い! じゃあな!』


プツッ。 一方的に切られた。


(……なんだよ、もう。)


佐伯は深いため息をついた。


どうせ、開発予算を正当化するための「動員」だろう。

世話になっている先輩の顔を立てるためだけに、佐伯は重い腰を上げ、タクシーで大学病院へ向かった。



大学病院の講堂に入った瞬間、佐伯は足を止めた。


「……なんだ、これは?」


想像していた「偉い教授が壇上で喋り、客席で医師たちが居眠りしている」光景ではなかった。

そこは、まるで暴動寸前の証券取引所のような熱気に包まれていた。


「おい! この触覚フィードバックの遅延は何ミリ秒だ!?」

「価格は!? リースの掛け率はどうなってる!」

「うちは『レオナルド』を入れたばかりだが、買い替えの下取りはできるか!?」


若手から、佐伯と同じような白髪のベテラン医師まで、誰もが血走った目で、メーカー(大和精機&帝都メディカル)の担当者に詰め寄っている。


冷やかしの客など一人もいない。全員が「獲物」を狙う目だ。


「……佐伯ちゃん! 遅いぞ!」


小山田先生が、人混みをかき分けてやってきた。

興奮で顔が真っ赤だ。


「小山田先生、これは一体……。」


「説明なんていらん! あれを見ろ! そして触れ!」


会場の中央。


人だかりの中心に、4本のアームを持つロボット『阿修羅』が鎮座していた。

見た目は無骨だが、アームの動きは不気味なほど滑らかだ。


「……どうぞ、先生。試技台が空きました。」


スタッフに促され、佐伯は「やれやれ」といった態度でコンソール(操作席)に座った。


(……ハイハイ、テレビゲームみたいなアレね。距離感がなくて疲れるんだよな……。)


彼は、気乗りのしないまま、マスタコントローラを握った。


画面には、模擬臓器(豚の腸)が映し出されている。


「……じゃあ、ちょっと摘んでみるか。」


佐伯が指を動かした、その瞬間だった。



グニュッ。



「……っ!?」


佐伯は、ビクッと手を引っ込めそうになった。


「い、今……。」


指先に、腸管の柔らかく、湿った弾力が伝わってきた。

鉗子で挟んだ感覚ではない。自分の指で直接掴んだ感覚だ。


「……おい、まさか。中に誰か入ってるのか?」


佐伯は、思わずアームの先を凝視した。



「……先生、続けてください。AIガイドをオンにします。」

スタッフが操作する。


画面上に、解剖学的なナビゲーションラインが表示された。


それは、佐伯が何十年もの経験で培った「勘」と完全に一致していた。いや、それ以上に正確だ。


佐伯は、震える手で縫合(結紮)を試みた。

老眼で見えにくいはずの針先が、鮮明な3D映像で拡大され、手元の微細な震え(振戦)が完全に消えている。


(……軽い。)

(……疲れない。)

(……これなら、俺でもあと10年……いや、死ぬまで執刀できる。)


さらに、隣で見ていた若手医師の操作も見えた。

未熟なはずの手つきが、ロボットの補正によって、ベテラン並みの安定軌道を描いている。


(……これがあれば。)

(……経験の浅い若手でも、俺の監督下で安全に手術ができる。) (……外科を、閉鎖しなくて済む。)


「……すげぇだろ?」


小山田先生が、ニヤニヤしながら佐伯の肩を叩いた。


「俺たちの老眼と腰痛のために作られたようなもんだ。」


佐伯は、コンソールから離れられなかった。

握りしめたコントローラから伝わる「確かな感触」が、彼に医師としての寿命を延ばす活力を注入していた。


「……小山田先生。」


「ん?」


「……銀行を紹介してください。」


佐伯の目は、もう濁っていなかった。


「借金してでも買います。……うちは、まだ戦えます。」


その日、佐伯病院の外科廃止案は白紙に戻された。


「阿修羅」という名の守護神は、大学病院だけでなく、崩壊寸前の地域医療の現場にも、確かな希望の光として君臨しようとしていた。

モチベーションの維持のため評価だけでも。

できれば感想を頂ければ幸いです。


よろしくお願いいたします。


次回は今日21時ごろ投稿予定です。

本日は短話3連投予定です

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