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Reboot(再起動)エピソード"ゼロ"  作者: いきし
小学生中編(医大・工大編)
23/38

とある輸入代理店の営業マンの憂鬱

県立医科大学のロビー。


輸入商社『極東メディテック』の営業マン・高村(30代)は、ため息交じりにコーヒーを飲んでいた。


彼が扱っているのは、世界シェアを独占する米国製の手術支援ロボット『レオナルド』だ。

性能はいい。

確かに患者の負担は減る。


だが、そのビジネスモデルはあまりに殿様商売だった。


(……本体価格3億円。毎年のメンテナンス契約で数千万円。鉗子(アームの先)は10回使ったら強制ロックがかかり、1本10万円で買い替え。)


(……まるで、プリンターのインク商法だ。)


高村の仕事は、日本の病院からその莫大な金を回収し、本国アメリカへ送金すること。

現場の医師からは「高すぎる」「維持費で病院が潰れる」と文句を言われ、それでも「嫌なら使うな」という本国の強気な姿勢に従うしかない。


(……俺は、日本の医療を食い物にする手先かよ。)


日本の技術力なら、もっと安くて良いものが作れるはずなのに。

そんな愛国心と、生活のための仕事の間で、高村は常に悶々としていた。



「おい、高村。」


背後から、野太い声がかかった。

消化器外科の毒島教授だ。


高村にとっては、最も口うるさく、しかし腕は確かな最重要顧客である。


「あ、おはようございます教授! 『レオナルド』の定期点検ですが……」


「そんなもん後だ。……ちょっとこっちへ来い。」


毒島はニヤリと笑い、高村を手招きした。


連れて行かれたのは、地下にあるシミュレーションセンターの一室。


「……教授、ここは?」


「俺たちの新しいおもちゃ置き場だ。」


部屋の中には、見慣れた『レオナルド』の横に、一回りコンパクトで、しかし洗練されたデザインの見知らぬロボットが鎮座していた。

アームの数は4本。

しかし、関節の自由度が異常に高そうだ。


「こいつの名は『阿修羅アシュラ』。」


毒島は愛おしそうにアームを撫でた。


「高村。お前、元々は工学部出身だったな? 『レオナルド』の操作感も知ってるはずだ。」


「ええ、まあ……研修で何度も触ってますが。」


「なら、こいつのコンソール(操作席)に座ってみろ。」


「え? でもこれ、どこのメーカーのですか?」


「いいから座れ。」


高村は言われるままに、『阿修羅』のコックピットに座った。

モニターを覗き込み、マスタコントローラ(操縦桿)を握る。


「……動かしてみろ。」


高村が指を動かした瞬間。


ビクッ!!


彼の体に電撃が走った。


「……なっ!? い、今、何かに当たりました!?」


指先に、コツンという硬い感触と、プニッという柔らかい弾力が伝わってきたのだ。


「……『触覚ハプティクス』!?」


高村は叫んだ。


『レオナルド』には触覚がない。視覚情報だけで距離を測るしかないのが最大の欠点だった。

それを、この無名のアームは完璧にフィードバックしている。


「それだけじゃねぇぞ。」 毒島がモニターを指差した。


画面上に、赤いラインと緑のエリアが表示される。


『 Warning : 血管近接(2mm) 』


『 Guide : 切開ライン推奨ルート 』


「……な、なんですかこれ……AI?」


「ああ。8歳のガキが作ったナビゲーションシステムだ。」


アームが、吸い付くように動く。

手ぶれが完全に消え、自分の意思がそのまま鉗子に伝わる感覚。

さらに、AIが「次はここを切ると安全です」と、神のような視点で誘導してくれる。


「……どうだ、高村。『レオナルド』と比べて。」


毒島が意地悪く聞いた。


高村は、コントローラを握りしめたまま、震える声で答えた。


「……勝負になりません。」


「『レオナルド』がラジコンなら、こっちは……自分の体そのものです。」


「……教授、これ、国産ですか?」


「ああ。東都工業大学と、うちの大学との共同開発だ。」


高村の中で、何かが弾けた。

彼はコンソールから飛び降りると、毒島に頭を下げた。


「教授! ……電話を貸してください! いや、ここで電話させてください!」


「おう、構わんぞ。」


高村は、スマホを取り出し、震える指で発信した。

相手は、日本の精密機器メーカー『大和やまと精機』の北陸支店にいる、大学時代の同期・佐藤だ。


大和精機は高い技術力を持ちながら、医療ロボット参入に二の足を踏んでいる老舗メーカーだった。


『 もしもし、高村か? 土曜の朝からなんだよ。 』


「佐藤! 今すぐ技術トップと支店長を連れて、県立医大に来い!」


『 はぁ? ゴルフの練習中だぞ、何言って…… 』


「いいから来いッ!!」


高村は、普段の温厚な彼からは想像もできない大声で怒鳴った。


「『黒船』が沈むぞ!」


「今ここに来ないと、お前の会社は100年後悔する! 日本の製造業の夜明けが、今ここにあるんだよッ!!」


高村の鬼気迫る剣幕に、佐藤は事の重大さを悟った。


「……分かった。すぐ行く。」


1時間後。 大和精機の支店長と技術部長が、作業着のままタクシーで駆けつけた。

さらに、彼らは『阿修羅』の実機と、毒島によるデモプレイを見た瞬間、その場で本社にホットラインを繋いだ。


「社長! 役員全員招集してください! 試作中の自社ロボットは全部廃棄です!」

「今すぐヘリでも新幹線でも使って来てください! ここに『正解』があります!」


その日の夕方。 県立医大の駐車場には、大和精機の本社から急行した黒塗りのハイヤーがズラリと並んだ。

社長、専務、開発本部長。

日本のものづくりを支える重鎮たちが、狭いシミュレーション室にひしめき合い、『阿修羅』を囲んでいた。


「……美しい。」

「この剛性、この制御……そしてこのAI。」

「勝てる……これなら世界で勝てるぞ!」


社長が、毒島の手を握りしめて涙ぐむ。


そこに、帝都メディカル(販売・ソフト担当)の神宮寺社長も合流し、その場で「製造・量産は大和精機」「販売・ソフトは帝都メディカル」という、和製ドリームチームの原案が爆速で形成されていった。


騒ぎの輪の外で、高村は缶コーヒーを飲んでいた。

彼の会社(輸入代理店)にとっては、これは商売上がったりになる最悪の事態だ。

おそらく、数年以内に『レオナルド』は駆逐されるだろう。


しかし、高村の顔は晴れやかだった。


「……高村。お前、自分の首を絞めたな。」


毒島が声をかけると、高村は笑った。


「いいえ。……次は、こいつ(阿修羅)を世界に売る商社に転職しますよ。」

「もう、高いだけの外国製を、頭を下げて売るのは御免です。」

「これからは、日本の技術で、世界から外貨を稼ぐ番です。」


夕日に照らされた『阿修羅』のアームが、まるで勝利の拳を突き上げているように見えた。


名もなき営業マンの反乱が、日本の医療産業史を大きく変えた一日だった。

モチベーションの維持のため評価だけでも。

できれば感想を頂ければ幸いです。


よろしくお願いいたします。


次回は今日の21時ごろ投稿予定です。

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