表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Reboot(再起動)エピソード"ゼロ"  作者: いきし
小学生中編(医大・工大編)
17/26

全財産を賭けろ!

冬。

帝都メディカルとの巨額契約が成立し、学会発表(内海ショック)が起きる少し前のこと。


深夜、ふと目を覚ました環は、リビングから漏れる両親の話し声を耳にした。


「……今の貯金じゃ、環の進学費用、足りないかな。」


「あの子は天才だ。……きっと海外の大学に行きたがる。俺の稼ぎじゃ……。」


「私もパート増やすわ。」


「いや、俺が副業する。……借金してでも、あの子の望む道を行かせてやりたい。」


博と裕子の声は真剣だった。

彼らは貧乏ではないが、ごく一般的なサラリーマン家庭だ。


「本を買って」とねだらない娘を健気だと思い込み、将来のために身を粉にして働こうとしていた。


(……お父さん、お母さん。)


環はドアの隙間からその背中を見た。

契約金5億円の一部が環にも入ることは、言っても騒ぎになるだけなので両親には伏ている。

今のままでは、両親は環のために勝手に苦労してしまう。


(……私の技術 (ソースコード)は、世界を変える。)


(……その対価は、一番の出資者(両親)に還元されるべき。)


環は、脳内で帝都メディカルの株価チャートと、今後の上昇率をシミュレーションした。


『勝率100%』


環は、覚悟を決めてリビングのドアを開けた。



「た、環? 起きてたのか?」


驚く両親の前で、環はいきなりその場に正座し、深々と頭を下げた。

そして、目薬もなしに、大粒の涙をポロポロと流してみせた。


「……お父さん、お母さん。お願いがあるの。」


「えっ!? どうしたの、いじめ!?」


環は、震える声で言った。


「……私のわがままを聞いて。一生のお願い。」


「家の貯金、保険、全部解約して……『帝都メディカル』の株を買ってほしいの。」


「はぁ!? か、株ぅ!?」


博が素っ頓狂な声を上げる。


「……夢で見たの。神様が、そこを買えって。」

「お願い! 信じて! もしダメになったら、私が一生働いて返すから!」

「お願い、お願いします……っ!!」


普段、クールで感情を出さない娘が、床に額を擦り付け、涙を流して懇願している。


その姿に、博と裕子の理性は吹き飛んだ。


「わ、わかった! 環がそこまで言うなら!」


「お母さん、明日銀行に行くわ! 泣かないで、環!」


(……演技プランB、成功。)


環は床に顔を伏せたまま、ニヤリと笑った。



翌日。

地元の証券会社窓口。


裕子は、解約した定期預金や学資保険、果ては両親の実家の預貯金も全てかき集めた一千万円近くの札束をカウンターに置いた。


「これ全部で、『帝都メディカル』を買ってください!」


担当の証券マンは仰天した。


「お、奥様、落ち着いてください! 全額一点張りはリスクが高すぎます!」


「今はバイオ関連より、安定したインフラ系や分散投資を……それに帝都は最近、株価が横ばいで……。」


「いいえ! 帝都メディカルです!」

裕子は譲らなかった。

「娘が……娘が泣いて頼んだんです! あの子が間違うはずありません!」


「(娘さんって小学生ですよね……?)」

証券マンは「素人はこれだから」と呆れつつ、注文を受理した。


「……後悔されても知りませんよ?」



環の「恩返し」は、両親だけではなかった。

学校の保健室。


「……山下先生。教頭先生。」


環は、二人に声を潜めて言った。


「……ここだけの話。貯金があるなら、今すぐ『帝都メディカル』に変えておいて。」


「え?」


「……詳しいことは言えない。でも、来年の春には、桁が変わる。」

「私を信じて」


山下先生と相良教頭は、顔を見合わせた。

目の前にいるのは、虫垂炎を一瞬で見抜き、医学部で教授と渡り合う怪物だ。

彼女が「上がる」と言えば、それは予言ではない。「確定事項」だ。


「……わかった。定期預金、解約してくる。」(教頭)

「私も! 結婚資金(予定なし)、全部突っ込むわ!」(山下先生)


二人はその日のうちに、虎の子の貯金をすべて株式市場に投じた。



そして、もう一人。 環は、最大の理解者の一人である怪物理事長・竜崎に電話をかけた。


「……おじいちゃん。そろそろ『仕込み』の時期。」


『 ほう? 』


「帝都メディカル。……全力でいって。」


たったそれだけ。

しかし、竜崎にはすべてが伝わった。 環が何かを開発し、それが帝都メディカルから発表される。つまり、株価は爆発する。


「カカッ! 待ってたぞ、その合図を!」


竜崎の動きは、庶民レベルではなかった。


彼はその足でメインバンクの支店長室に乗り込んだ。


「融資だ。限度額いっぱいまで貸せ。」


「り、理事長? 使途は? 新校舎の建設ですか?」


「使途不明金だっ!! 金利が高くても構わん、今すぐキャッシュを用意しろ!」


「ええええッ!?」


竜崎は、塾の運転資金と個人の資産、さらに銀行から強引に引き出した数億円規模の融資を、すべて『帝都メディカル』の現物買いにぶち込んだ。


それは投資ではない。狩りだった。



こうして、環を取り巻く「信じる者たち」は、全てのチップをテーブルに置いた。


•両親: 数百万円(全財産)

•先生たち: 数百万円~1千万円(老後・結婚資金)

•竜崎: 数億円(借金含む)


証券マンや銀行員たちは、彼らを「狂ったギャンブラー」だと嘲笑った。

しかし、環だけは静かに微笑んでいた。


「……みんな、シートベルトを締めて。」


「もうすぐ、垂直発射リフトオフする。」


________________________________________


夏。 学会での「内海ショック」から数ヶ月。


『帝都メディカル』の株価は、市場の予想を遥かに超える動きを見せていた。


連日のストップ高。

海外の大手医療グループとの提携発表。

AI診断システムの導入予約は1年待ち。


株価は、環たちが仕込んだ時の30倍に跳ね上がっていた。

さらに、記念配当として異例の高配当が発表され、保有しているだけで購入時の価格分が振り込まれる状態となっていた。



桜庭家のリビング。

父・博と母・裕子は、証券会社のオンライン画面を見ながら、言葉を失っていた。


「……なぁ、裕子。ゼロの数、合ってるか?」

「……いち、じゅう、ひゃく……えっ? 数億円!?」


数ヶ月前、涙ながらに「全財産を賭けて」と言った娘の言葉に従い、清水の舞台から飛び降りた結果、彼らは着地した場所が黄金の山だったことを知った。


「ど、どうしよう……。税金とか……強盗とか……。」


「と、とりあえず、家のローンは全部返せるわね……あと、仕事辞めても生きていける……。」


二人がガクガク震えている横で、環は冷えた麦茶を飲みながら、週刊コミックを読んでいた。


「……騒がないで。想定の範囲内ロワー・バウンド。」

「これから海外展開が本格化するから、まだ売らないほうがいい。……配当金だけで、毎年家が建つレベルになる。」


博は、コミックを読む娘の後ろ姿を拝んだ。

「環様……いや、大明神様……。」

もはや、娘は天才を超えて「福の神」となっていた。



学校の職員室。

夏休み中の静かな室内で、相良教頭と山下養護教諭は、窓の外を眺めながら優雅にコーヒーを飲んでいた。


「……山下先生。今年の夏はどこへ?」


「フフッ……モルディブの水上コテージですわ。2週間ほど。」


もはや給料などお小遣い程度。

働く理由は「子供たちや仕事が好きだから」という純粋な動機だけになり、精神的な余裕が半端ではなかった。


「教頭先生は?」


「私は……妻と世界一周クルーズの予約を入れましたよ。退職後の楽しみですがね。」


二人は顔を見合わせて微笑んだ。


「……信じてよかったですね、あの子を。」


「ええ。……彼女は、私たちに『自由』という翼をくれました。」



一方。 最も巨額の利益(数百億円規模)を手にした男。

煌竜セミナー理事長・竜崎剛。

彼は、その金を豪遊に使うつもりなど毛頭なかった。


とある高級料亭。

竜崎は、隣県の知事と差し向かいで酒を酌み交わしていた。


「……竜崎さん。当県での『教育特区』の話、本気ですか?」

知事が身を乗り出す。


「ああ、本気だとも。」

竜崎は、日本地図を広げた。


「俺の地元(鳴和県)はダメだ。『公立こそ正義』という頭の硬い教育委員会と、俺の成功を妬む連中が足を引っ張る。」

「だから、あんたの県でやらせてくれ。」


竜崎が提示したのは、壮大な『全寮制フリースクール』の計画書だった。


「対象は、既存の学校システムからはみ出した子供たち全員だ。」


竜崎は熱っぽく語った。


「環のような、飛び抜けた才能を持つ『ギフテッド』。」

「あるいは、特定の分野には天才的だが、集団行動ができない『発達障害』の子。」

「学校に行けない不登校児。」

「彼らは、今の日本の規格化された教育では『不良品』扱いされる。」

「だが違う! 彼らこそが、次の時代を作る『原石』なんだ!」


竜崎の脳裏には、常に環の姿があった。

あのような才能が、理解のない教師に潰されたり、孤独に苦しんだりするのを、これ以上見たくなかった。


環は、竜崎や鬼頭といった「理解ある大人」に出会えたから開花した。

だが、運が悪ければ埋もれていただろう。


「俺が作った金は、全部ここに突っ込む。」

「最高の教師、最高の設備、そして『個』を尊重するカリキュラム。」

「偏差値教育の頂点を極めた俺だからこそ、偏差値を否定する学校が作れるんだ。」


知事は、竜崎の目を見て、その覚悟に圧倒された。


「……面白い。やりましょう、竜崎先生。」

「我が県が、日本の教育を変えるモデルケースになりましょう!」


「カカッ! 礼を言うぞ!」


竜崎は杯を干した。

成金? 守銭奴? 言わせておけ。

俺はこの金で、第2、第3の桜庭環を育てる「方舟アーク」を作る。

それが、怪物・桜庭環を世に送り出した自分への、最後の教育者としての責務だ。


数年後、このフリースクールから、若き天才たちが次々と輩出され、世界を驚かせることになるのだが、それはまた別の物語である。

モチベーションの維持のため評価だけでも。

できれば感想を頂ければ幸いです。


よろしくお願いいたします。


次回は明日19時ごろ投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ