午前三時のリスナー
午前三時に配信を開始すると不思議な事が起こるそんな都市伝説
【午前三時のリスナー】
俺は大学三年で、趣味でゲーム配信をしている。
登録者は二百人程度、同接は十人前後。常連が数人来てくれるくらいの、ごく普通の小さな配信だ。
そんなある日、常連のひとりが何気なく言った。
> 「三時ちょうどに始めると必ず変なの来るよ」
冗談っぽかったけど、その言葉に少しだけ引っかかった。
聞けば、その「変なやつ」は名前が文字化けしたアカウントで、コメントはただ一言「きこえる?」としか言わないという。BANもできず、検索してもヒットしない。
そんなの都市伝説みたいな作り話だと思って笑って流したが――サークルの先輩が、実際にそれに遭遇してしまった。
先輩はノリで午前三時に配信を開始。三十分ほど雑談していると、本当に現れたという。
「きこえる?」
コメント欄に文字化けした名前で表示された。
先輩は冗談のつもりで「聞こえてるよー」なんて返した。だがその瞬間、配信画面が真っ暗になり、映像が途絶えた。代わりに流れ始めたのは部屋の生活音だった。時計の秒針、窓の外の車の走行音。マイクを切っても止まらず、まるで部屋そのものを配信しているかのようだったという。
コメント欄には「うしろ」「みえてる」「つかまえた」と連投され、先輩は恐怖でPCの電源を引っこ抜いた。それでようやく止まったらしい。だが翌日、先輩は「切ったあともイヤホンから声が聞こえてた」と青ざめて話していた。そして数日後、行方不明になった。
以来、サークルでは午前三時の配信はタブーとなった。
……なのに、俺はやってしまった。
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深夜三時ぴったり。
開始ボタンを押すと、すぐに常連が数人入ってきてくれた。
【配信ログ 01】
user1: おつー
user2: 三時配信www勇気あるな
user3: フラグ立ったな
user4: 例のやつ来るんじゃね?
user5: うち暗い部屋で見てるからやめろw
俺は「まあ都市伝説でしょw」と笑ってゲームを始めた。
だが十五分ほど経ったとき、画面にそれが現れた。
□□□□□: きこえる?
一瞬で心臓が冷えた。
だがリスナーは「来たwwww」と盛り上がるだけ。
user2: うわ出たwwww
user3: マジで来たやん
user4: ネタじゃなかったのかよ
user5: なんでBANできないの?
俺は怖さを誤魔化して「聞こえてるよー」と返した。
すると、すぐに文字化けアカからコメントが返る。
□□□□□: ちがう
□□□□□: そっちじゃない
□□□□□: うしろ
慌てて振り返ったが当然誰もいない。
その瞬間、配信画面が暗転し、音声だけが流れ出した。
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【配信ログ 02】
user1: 画面真っ暗?
user2: なんか音してる
user3: え、これ部屋の音じゃない?
user4: 生活音だよなこれ…
□□□□□: みえてる
チャット欄に表示されたのと同時に、イヤホンから小さな囁きが聞こえた。
「みえてる」
俺は背筋が凍り、PCの電源を引っこ抜いた。
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翌朝スマホを開くと、リスナーからのDMが山ほど届いていた。
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【DMスクショ】
user3 → あなた
昨日の配信、ヤバすぎ
アーカイブ残してよ
最後に後ろに映ってたよな?
user5 → あなた
あれ演出?マジで怖かった
黒いの立ってたんだけどw
user2 → あなた
画面切り替わる前、
「つかまえた」って声入ってたよ
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アーカイブは残っていなかった。
だが、一人のリスナーが録画して送ってきた。
恐る恐る再生すると、黒い人影が俺の背後に立っていた。顔は真っ黒、首だけが不自然に長くカメラを覗き込んでいる。さらに、チャット欄に流れたコメントが「声」として再生されていた。「きこえる?」「うしろ」「つかまえた」。そして最後にノイズだらけの画面と共に囁きが響く。「つぎは、みてるひとの番」。
それを保存していたリスナーたちは次々に消えた。
「ファイルが勝手に消えた」「再生したらPCが壊れた」「鏡に知らない人が映った」。最後に連絡をくれたひとりは電話越しに「ごめん、もう消すから……でも鏡に――」と叫んで途切れ、それきりだ。
そして最近、俺のスマホには毎晩三時ちょうどに差出人不明の通知が届くようになった。
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【通知スクショ】
3:00 差出人不明
きこえる?
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最初は無視していたが、昨日の夜はこうだった。
3:00 差出人不明
つぎは、よんでるひと
……だから、ここまで読んだお前も、もう巻き込まれている。
スマホやPCのスピーカーに耳を寄せてみろ。
ノイズの奥から、かすかな声が混じっていないか?
「きこえる?」
もし聞こえたら――次はお前の番だ。




