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第四話

ガルはケイと手を繋ぎ、力を借りて、青年の視界を捉えている。仕事中だからだ。青年に“平常時対応をしろ”と言ったらいいのだが、何せ不確定要素が多すぎる。そもそも力の上限が解らない。ガル一人の力で操作するのは、青年が一人の時だけだ。

「所長…?どうかされましたか?」

青年、いや、ガルは無言でこちらに歩いてくる初老にそう問いかけた。

「君の名前はなんだったか」

青年の前に止まった初老はそう逆にガルに問いかけた。

「僕はヒャル・ナイルですが…」

戸惑いながらもそうガルは答えた。なにやら不穏な気配がする。

「歳は」

「十七です」

「どこの学校出身だ」

「アリセナ中校を卒業。そのあとガイリア高校を飛び級で卒業しました」

「あだ名は」

「は?え、あ、すみません。えっと無口野郎でしたね」

淡々と質問をされる。

誤りはないはずだ、と内心冷や冷やしながらガルは答える。

スマホから情報を得たし、ヒャルは毎日直筆で日記も書いていたためそれも情報源として良い物だった。不便なことだが、ヒャル自身から情報を抜き取ることはできない。ガルからヒャルの一方通行だからだ。つまり他から情報を得るしかない。

「都家研究者という職に就いた理由は何だったかな?」

「科学都市という、僕が生まれ育った故郷のために働きたかったからです。というのは建前ですが、ただ収入が良くて、支援も豊富だからです」

ヒャルは野心家だった。都市のためなんてことは一切考えず、ただどうやったら効率的に上に行けるか。ただそれだけを考えていた。そして、この初老もとい所長に好かれるには、ありのまま話すのがいいと判断した。狡猾で野心家で努力家だった。そして子供に優しかった。まぁ、そんな人間はもういないのだが。

「‥‥それだけだ。すまないな」

初老は何一つ表情を変えず、ヒャルを通り過ぎていった。

ガルは警戒を強めなければならないと直感で思う。あの初老は研究所内で一番の脅威と思っていいだろう。そんなことを考えながら、ガルは仕事に戻ろうと廊下を歩く。

「ヒャル。前頼んだ資料は…」

通りすがった女研究員にそう言われる。その意味を察してガルは答えた。

「ああ、これですね。参考としてもらったこの資料に誤字があったので、書き直しておきました」

「え?!ありがとう。助かったわ」

ヒャルは二つの資料を女研究員に渡しながら、にっこりと笑った。

「こちらこそ。いつも助かっています」

女は顔を赤く染めると、そのまま顔をそらした。この女はそろそろ落ちる。

(上々だな…。もういけるか)

ヒャルは顔が良いとされる部類だ。童顔で色気があって、その中に儚さがあるやらないやら。

余談だが、ケイはそれを聞いて、「ガルのほうがかっこいいでしょ」とぼそりと呟いていた。ガルが顔を赤くさせたのは言うまでもない。

ガルはヒャルを女研究員に近づき、その耳元に口を寄せさせた。

「え?!」

「あの…。僕、相談したいことがあって」

少し、不安そうに眉を下げ、上目遣いに。そして、吐息が掛かるように。

「仕事が終わった後、誰にも言わずに僕の部屋へ来てくれませんか?」

女はこくこくと頷く。

「私も…、あなたに伝えたいことがあったの」

(こいつは、少年趣向。大好きなんだろう?こういうのが)

ケイがぎゅっとガルと繋ぐ手の力を強くした。爪が食い込んで痛いが、嫉妬だと思ったらぞくぞくする。思わず口元を覆った。

(俺も十分狂ってるな)

そんなことを思いながらも、ヒャルを動かす。

「それでは。仕事、頑張ってください」

こつこつと音を鳴らしながら、ヒャルは廊下を歩いて行った。

後ろから感じる邪な視線に気づかないふりをして。

(気持ち悪ぃ)

あんな視線はケイからしか、もらいたくない。

早くあの視線から逃げたくて、気づかれない程度、ガルは足早に資料室に入った。

ケイはそれを確認すると、監視カメラ統合管理端末をハッキングする。

ケイとガルは知識さえあれば、端末など、インターネットに通じるものなら、干渉することができる。PCなどの端末がなくともできるハッキングというわけだ。そしてこのハッキングは端末というものがない。強いて言えばケイかガルだが、二人は生物的には人間であるため、特定はできない。この力が解ったとき、科学都市全ての中枢端末に同時干渉すれば科学都市は機能しなくなり滅びるのではとケイは考えたが、“二人とも脳は一つしか持ち合わせていないため、同時に他の端末に干渉はできない”ということが実験で解った。科学都市は中枢端末が複数ある。どれか一つを機能不可にしても、他の端末が機能している限り、この科学都市は機能しなくなることは万が一つもないだろう。

「うん。できた。ヒャルが資料を探してるだけの過去の映像が流れるようにしたよ」

「ああ、ありがとう」

そして二人が手に入れたい資料。それはこの資料室の奥にあるロック付きの棚の中にあった。ここにあるのは、科学都市機密三度の資料。科学都市機密資料は五度まである。この研究所にあるのは三度まで。ガルとケイにとっては、ここで得られる最高峰の情報なのだ。一度と二度は一般都家研究員でも扱うことができるが、三度を扱うことができるのはこの研究所内では所長、あの初老だけである。ケイは時々初老の視界を捉えていたのだが、一回も初老はこの棚を開いてはいない。手間で危険性があるが、ガルはこのロック付きの棚の認証データを改ざんしていく。顔認証や指紋認証などもあったが、ヒャル・ナイルのデータに書き換えていく。

「よし…」

「二十分。上出来だね」

棚のロックが開き、その棚に詰められているのは…

「あれ…?」

ケイが困惑したようにそうこぼす。その棚は空だったからだ。そして、資料室のドアが開く。ロックはしたはずなのに。

「さっきぶりだな。ヒャル・ナイル。‥‥いや、プロトコルといったほうがいいかな?ガルくん、ケイくん」

そこには警護兵士を連れた初老が立っていた。

・・・・・


五日前――


ヒャル・ナイルの異変に気付いたその時から、初老は密かにヒャル・ナイルを監視していた。自然体で、何の変哲もないように見えるが、ところどころ見せる行動。それは外部からの影響、つまり洗脳を受けている者の行動と一致していた。

そして、初老は観察室、ガルとケイが収容されている部屋の監視カメラ映像を見た。そこには手をつないでいるプロトコルが映っている。監視プログラムが書き換えられていたが、今は正常に映している。プロトコルに気づかれぬよう、プログラムが変更された監視カメラ統括端末は通していない。つまり、本当にそのままの映像がここには流れているのだ。

「上に報告は‥‥しないでいいか」

初老はヒャルと同じで、この都市に忠義なんてものは一切なかった。ただ彼は研究がしたいだけだ。特にプロトコルというものを。そんな素振りは全く見せてはいないようにしているが、あの眼鏡男には、気づかれているだろう。科学都市の言う通りに動いているただの研究員。初老が演じている役だ。

「プロトコルたちの意思がまだあったのか?何故だ?資料に書いてあった意思と感情がなくなる情報量、それ以上の情報量だぞ?いや、そもそも洗脳ができる力など聞いたこともない。やはり資料は全て信じられないな」

ぶつぶつと初老はつぶやき、紙面は乱雑な文字で埋まっていく。

「プロトコルを制御できなければ、この科学都市は終わる。いや、それはどうでもいい。それよりもその力があの二人にあるのか、ということだ。今のところ解っている力は継承されている王と腹心の力。そして、洗脳ができる力。もしや、機械と地中人だけではなく人間にも干渉できるようになったのか?それならば、なぜすぐ私を洗脳しない?できないのか?その理由は?何か条件があるのか…。なんだ。なんだ」

初老は人生の中で一番気分が高ぶっていた。プロトコル。それは未知の塊だった。

人類の最高傑作だ。あのプロトコルという、王と腹心は。

「全て…全て…知りたい」

初老は、確かに人間だった。


―――――


気付かれてしまった


王と腹心が害されるかもしれない


ああ、だめだ


けれど、私は何もできない


やめてくれ。力を持っているだけだろう


力を持っているのは罪なのか?


どうして、なんだ


何故、力を持っていたら、欲に埋もれないといけないのか


どうして、どうして、欲を、力が持っているものに吐き出すのか


どうしてできなかったら怒るのか


どうして、どうして、どうして


いや、解っているんだ。


希望だからだ


力を持っているものは希望だから


そうでないといけないから


希望。そう私は希望


希望‥‥


力を持ったのだから、希望であれと言われたならば、希望であれ


人の光であれ


誰かが言ったわけじゃない


だが、人類がそう望んでいる


みんながそう望んでいる


‥‥私は、みんなの希望であらなければと、思ったのだ


そういえば、私はいつから、希望になっていたのだろうか


もう、覚えていないくらい遠い昔か


あれ…?


私は、いつ、希望に


人類の希望に、何故、私がならなければ


何故、見ている?聞いている?


誰が、私を


そもそも


私は、誰だ?


―――――


「さて…、話をしようじゃないか」

初老はそう喋りかけた。

返事は帰ってくることはない。初老は「あぁ」と気づいたように声をだした。

「すまない。猿轡を外していなかったな」

はっはっはっ、と笑いながら初老は猿轡を外した。

「‥‥」

「そう睨みつけるな。私は平和的交渉がしたいのだよ。ケイくん、ガルくん」

より一層ガルが睨みをきかせた。

「平和的交渉っていうならこの拘束を解いてほしいな」

ひょうひょうとした態度でそうケイが言った。

ガタリと初老がケイとガルの前の椅子に座る。ガルとケイの後ろには、ヒャルが拘束されている状態で床に転がっている。目は虚ろで何も感じていない。

「余裕そうだな‥‥。力の関係か?」

興味深そうに初老が二人の顔を見た。

「ノーコメント」

それを聞いて、初老は一瞬きょとんとすると、愉快そうにまた笑った。

「もうそんな芸まで覚えたのか!!これはおもしろい!!」

ケイは不快そうに初老を見た。

「ふぅ‥‥。まぁおふざけはここまでにしよう。突然だが、契約をしないか?」

「実に非合理な順序だね。条件も言われてないのに契約するか否かなんて決められるわけないでしょ」

ケイはそう吐き捨てるように言った。話したくもないと言う風に。

「そうだな。失礼した」

素直に初老は頭を下げて謝った。だが、ケイとガルには初老の考えていることが解っているので良い印象も抱くこともない。

「そんなに人形になりたかったとは知らなくてね」

皮肉めいたその言葉に、ガルが殺気を初老に向けた。

「黙れ。ケイを侮辱するな」

だがそんなもの拘束されている今では力も何もない。ただの子供遊びだ。

「ほほう‥‥」

(やはり、腹心は王に仕える習性があるのか)

ぴくりとガルの指が動いた。それに気づき、ケイは初老に問いかける。

「その王と腹心ってのを詳しく教えてほしいなぁ」

その言葉を聞いて初老は驚くわけでもなく、興奮したように二人を見た。

「まさか‥‥心が読めるのか?」

ぎらぎらと好奇心を秘めたその目にケイとガルがくっきりと映る。

「ノーコメント、と言いたいところだけど契約って何?見たところ、所長さんは私たちを殺すつもりはないみたいだし」

初老はその言葉に、鼻息を荒くした。また一歩、プロトコルの情報を得られた。

(やはり、プロトコルは、いや、王と腹心は‥‥!!)

「うるさい。早く答えろ」

顔を顰めてガルがそう初老に言った。だが、またもその言葉に初老は興奮した。やはり、心が読めるのだと。

(うるさいということは、この私の心の声が聞こえている?いや、ケイは、見たところ、といった。王は見える。腹心は聞こえる。‥‥ケイには心が見えていて、ガルには心が聞こえているのか!!)

少年少女を見て、はぁはぁと荒く呼吸する初老はさながら変質者だった。いや、変質者だ。断言しよう。変質者だ。

((気色悪…))

「あのー…、盛り上がっているところごめんなんだけど、話を続けてくれないかい?」

ケイも顔を顰めてそう言った。いちいち切りがない。

「あぁ‼プロトコルは本当に素晴らしい‼」

「聞けよ」

ケイが突っ込む。だが、初老は止まらない。

「君たちもそうとは思わないかね?!」

「俺たち自身がプロトコルなんだから、素晴らしいとか思わねぇよ」

「そうだろう、そうだろう‼素晴らしいだろう‼」

「だから聞けや。そんなこと一言も言ってねぇよ」

ケイが苛立つ。荒い口調になりながら、初老をゴミのように見ていた。

「はぁ‥‥、本当に、素晴らしい…。神の贈り物だ…」

恍惚とした表情で初老はケイとガルの頬に触れた。

二人に、鳥肌が立つ。

「ガル‼」

ケイが叫ぶ。そこには嫌悪感と、かすかにだが恐怖があった。

ガルはそれに答えはしなかったが、行動で示した。

初老はぴたりと止まったのだ。そして、動き出したかと思うと、ガルとケイの拘束を解いていく。

「大丈夫か?ケイ」

「うん…。あー、気持ち悪かった」

ごしごしとケイは自身の頬を擦った。ガルはその手を止め、自身の手でケイの頬を擦った。優しく、傷つけないように。でも、汚れが落ちるように。

そしてその手を止めると、ガルは初老につかつかと歩み寄った。

「ケイに触りやがって」

地獄からでてきたんじゃないか、というほどの声でガルはそう言った。ケイはびくりと肩を跳ね上げる。

「ガルー?あのぅ、蹴らないでね?あと、殴らないで、ください」

その言葉にガルは振り上げていた足をピタリと止める。

それにケイはほっとするが、ガルは普通に蹴った。

「あ」

「‥‥」

ガルはケイのほうへ振り向いた。だが、少し気まずそうな顔をしている。ケイが止めたのに聞かなかったからだろう。

「まぁ…いいけどさ。じゃ、拘束しようか」

「その必要はない」

少ししわがれた、老人特有の声が部屋に響き渡った。


・・・・・

目的:洗脳を防ぐ。自我を守る。

材料:微細導電繊維(クソ真面眼鏡が持っていたやつ)、人工神経膜←旧型でもいい)、脳接続端子(絶対に絶縁処理)

設置位置:脳幹部、視床下部の近く。直接は危険。眼鏡に任せる他ない。

信号処理:通常信号→通過。異常信号→遮断→気絶。

気絶中に記録?記録できるか?記録したい。記録しなければ意味がない。

プロトコルの信号は電気か?それとも何か別のものか?

ケイ=王。ガル=腹心。見える/聞こえる。

この装置があれば、私は“人間”でいられる。

いや、違う。私はもう人間ではない。

でも、意思は守れる。意思だけは。

意思だけでも。意思だけでも。

あのクソ真面眼鏡を信用するしかない。

これは残さない。誰にも渡さない。早急に抹消する。

この都市が滅びても、私は知りたい。

この装置が、私の最後の防壁だ。


※設計書のようにも思えるが、字が乱雑であり自身の感情の走り書きが多く見られる。

クソ真面眼鏡とは秘書のことを指しているのだと推測。

・・・・・



なんか、深夜テンションで書いた四話です。いろいろおかしいだろとか思うかもしれませんけどご了承ください。ガルとケイは私の性癖をぶち込んだキャラですね・・・。

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