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十三番目の剣聖  作者: S i
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序章 ー13年前ー

初投稿です

 それはとても静かな昼時。


 「なにかしら、今の」


 それまで無心で薪を作っていたお母さんが、口を開く。

 「どうしたの?」と声をかけると、お母さんは裏山を指さして言った。


 「なんかね~、お山がおかしいのよ」


 そう言われて見てみても、何も分からない。


 波打つ木々に頬を撫でる風。

 水面の空に漂う小魚雲。

 縁側から見る森は、画用紙の絵みたいにざらりとしていた。


 いつもと何も変わらない時間と景色。

 どこがおかしいのだろう。


 「どこが変なの?」

 「あそこ。なんかね~、胸騒ぎがするのよ」


 お母さんはたまにそんなことを口にする。

 ちょっと前なんか、川の水がおかしい、と言って聞かなかった。

 お父さんが念入りに調べたのに、だ。

 そこまで言うからには何かあるんだろうと思い、川から離れるといきなり氾濫が起きたのだ。

 あの時は驚き過ぎて頭が真っ白になったけど、今にして思えば、お母さんには何か特別な力があるんだろうと思う。

 直感、とでも言うのか。

 自分より長い時間ここで過ごしているから分かるのかな。

 ……ちょっと気になった。


 「なら、行ってみる!」

 「あ、ちょっと待ちなさい!」


 待てと言われても、気になるんだからしょうがない。


 「危険かもしれないのよ!」

 「分かってる! 夕ご飯までには戻るから」


 好奇心の赴くまま、お母さんの静止の言葉を振り切って、山に入った。


                    

           ◇◇◇◇                           


 

 お母さんの言う胸騒ぎがする場所はざっと北西あたり。太陽がまだ反対側に居座っているからか、目の前の景色はとてもくらかった。見上げれば緑色に色づいた木の葉が宙を舞っているのに、下に目を向ければ幹も枝も地面もまっくろだった。

 でもそれ以上に気になったのが……。


 「こんなに静かだっけ……?」


 山の中があまりにも静かすぎる。

 風はおろか、葉擦れの音すら聞こえない。

 虫に至っては気味が悪いほど静まり返り、深い森は折り重なるように続いていく。


 威容で異様。

 この世界には自分の足音しか無いんじゃないかと錯覚するほどだ。

 いつも見てきた裏山は、どういうわけか異界に変わっていた。

 

 "なんかね~、お山がおかしいのよ"

 

 お母さんの言っていたことが頭をよぎる。

 これはもしかしたら、本当に不思議なことがあるのかもしれない。

 

           ………… 

 


 歩き続けて1刻だろうか。

 山が日の光を遮り始め、暗緑色に身を包んだ草木たちがゆらゆらと手招いていた。

  

 " ここから先は忍び足で進むぞ "


 いつの日かのお父さんの言葉が頭をよぎる。

 それもそのはず。ここから先には、恐ろしい生物が数多く潜んでいるからだ。

 特に危険なのが「人喰み」だ。

 人喰みとは恐ろしい植物だ。

 体長は僕の家より大きく、根っこを足のように動かして歩き、蔓や葉で動物を使って捕食する。周囲に散らばる骨はさまざまで、その種類は十を越える。

 そんな凶悪な植物の群生が目の前に広がっている。

 

 でもすごく変だ。

 こんな恐怖を目の前にしても、全然怖くない。 

 2年前に見たときのおぞましさが頭にこびりついているのに。

 山に入るたびにお父さんから”何があっても近づかないように”と念押しされているのに。

 それでも胸を焦がすのは、好奇心そのものだった。



           ◇◇◇◇



 踏みしめる音が変わった。

 それまでのサッ、という軽快な音とは打って変わって、ザッ、という濁音を帯びたものに変わったのだ。

 やっぱりいつも通る道と比べて、草などの種類すら違うみたいだ。

 進めば進むほど、薄暗い草が進路を阻む。

 ほんの少しでも日の光を取り込むためなのか、先端に伸びるにつれて鋭利になっていた。

 かき分ける度に手がひりりとして、汗が沁みる。


 少し横を見れば、幾重にも重なった大きな花弁にがく(・・)から伸びる長い蔓を持つ植物が、散らばった骨にしゃぶりついていた。

 「人喰み」だ。

 何度見たっておぞましいその姿に、恐怖で足がすくみそうになったが、気づいたことがある。

 人喰みは植物と動物の中間のような存在だ。光合成によりエネルギー採りつつも他の生物を捕食し、より多くのエネルギーを蓄える。そうして蓄えたエネルギーは種になり、繁殖していく。

 そして光合成と捕食は太陽の位置によって決まっている。今の太陽の位置ならば光合成をするため、太陽が降り注ぐ地点に移動しているはず。なのに、この暗い場所に止まり、数日前に捕食したであろう動物の骨をしゃぶっている。

 

 ......なぜこんなところにいるのだろう。


 そんな疑問と共に、もうひとつ気になった。

 骨をしゃぶり続ける人喰みの姿はとても大人しかった。それはどこか怯えているような、縮こまっているような感じだった。


 「いや、こんなことしてる場合じゃない」 


 もう少し観察したかったが、この森に来た理由は人喰みじゃない。

 息を殺して、速足で群生地帯を横切った。



 「はぁはぁ……」

 だいぶ高い場所まで来たのか、息を吸うのがつらくなってきた。

 それに歩き慣れない足場のせいで、余計に体力がなくなっていく。

 足が重く、体中汗びっしょりで、息も荒い。


 だけど、まっくろだった森にうっすらと木漏れ日が覗き始めた。

 やっとだ。

 やっと分かる。

 この異変と胸のざわめきの正体に。


 体力を振り絞って、駆け出した。

 木漏れ日が徐々に強くなり、葉擦れが聞こえてきた。

 だんだんと暗い場所に慣れた目がつぅーとしみてくる。

 まぶしい光の中、目を開ければ、少し開けた場所があった。


 広場だ。


 光緑いっぱいの草原と、取り囲むように連なる木々、清水に満ちた池がそこにはあった。中央の池は天蓋の抜かれた空から降り注ぐ太陽によってキラキラと輝いている。とても神秘的で、時間でも止まったかのように落ち着いた場所だった。

 そんな風景の美しさに、目を奪われていた。

 木々の隙間から流れるそよ風を無心で味わうほどに。


 ぐるりと歩き回って気づいたのは、とてもきれいな円形の広場だということ。

 そして連なる木々の中の12本の木に目印がついていて、それが等間隔で並んでいた。

 とても不思議だ。

 誰かが意図的にやったんだろうか。


 今度は中央の池を見てみよう。

 ちょうど喉が渇いていたし、池の水を飲んでみたかった。

 きっと、おいしいに違いない。

 そう、思った時だった。



 ――誰かが横たわっている。



 この心地よい空間に目もくれず。

 微動だにせず。

 水面に浸かっている。

 起こそうと思って、彼の体に触ってみると、とても冷たかった。

 湖の温度のせいなのか、それともこの人の体温なのかわからないけど、とても冷たい。

 日向の草原で温めてあげようと思って、体を引っ張るけど、持ち上げることすらままならない。


 「あの、お兄さん。起きて? 起きてよ」


 そうしゃべりかけても反応はなかった。

 体を揺らしてみても、顔をぺちぺちと叩いてみても同じだった。

 どうしたものだろう。

 このまま、放置しておくわけにもいかない。

 だからと言って、自分一人では持ち上げることすらままならない。

 そうだ。家に帰ってお父さんとかを呼ぼう。

 お父さんをここに連れてきて、この人を家まで運んでもらおう。そして、家でお母さんに看病してもらえばいい。


 「ちょっと待ってて。お父さん呼んできて……え?」


 振り返って驚いた。

 ()()()()

 来た道はすでに木々によって遮られていて、足跡一つ残っていなかった。


 驚いている間に、森がざわめきだした。

 そよ風なのに、森がぐらぐらと揺れている。

 そしてその中に聞こえる異質な音。

 耳をすませば、足音だと分かった。

 お父さんだろうか。

 そういえば何も言わずに飛び出してしまった。

 探しに来てくれたのかな?


 でも足音が近づくにつれて、それがお父さんじゃないことに気づいた。

 なぜなら音が4つだったから。


 「獣?」


 お父さんの言葉を思い出す。

 本来、獣は人間には近付かない。近づくとすれば、縄張りに入った侵入者を排除する時か、飢えを凌ぐ時、そして子どもを守る時である、と。

 背筋を伸ばし、出来る限り堂々と振る舞う。

 少しでも舐められれば、襲われる可能性が大きくなる。 


 音が近づいてくると同時に、何か圧迫感を感じるようになった。

 壁が迫ってきているような、そんな感じ。

 

 「もしかして……」


 人喰みが感じていた怯えの原因は、これなのだろうか。

 もしそうなら、音の主は人喰みより上位の存在だということになる。

 一気に、体全身から鳥肌が湧き立つ。

 五感と意識を総動員して、音の方角に向ける。


 林の中から出てきたのは、案の定獣だった。

 でもそれは今まで見たことのない獣だった。

 物凄く大きかったのだ。

 白銀の毛にはつやがあり、一対の牙は天高くそびえたっていた。

 思わず腰を反るほどの大きな体格なのに、重々しい音を立てず、コトコトと軽い音で水面にいる人に近づく。

 こちらには目もくれず、獣は水面に漂う男性に甲斐甲斐しく触れていた。

 誰なのかと思って、喋りかけたのだが……。


 「あの――」


 今更ながらに、しゃべりかけるという選択肢があることに驚く。

 さっきまで、圧迫感で押しつぶされそうだったのに。


 「………」 

 「……...」


 お互い無言のまま、ずっと見つめ合う。

 

 ――すでに中央にあった水面の太陽は、池端に隠れていった。


 突然体がズンと重くなった。背中に大きな塊が押しかかったようで、上体を起こせない。

 瞼も重い。

 息もできない。

 ――ッッ!?!?!?

 体の中に何か流れ込んでくる。強引に大量の水を飲まされている感じ。

 苦しい。

 絶え間ない負荷から、体が拒絶反応を起こし、流れ込むモノを逆流させようとしている。

 苦しい。

 苦しい。

 だが、それすら許さず、流れてくる。


 ――いつのまにか太陽は森林に半分さえぎられ始めていた。


 どれくらいの時間が流れたんだろう。

 既にあの獣はいなくなっていた。

 半開きの口からよだれが垂れているのか、口元に違和感がある。

 体にかかる重さは消えているものの、内部から感じる気持ち悪さをぬぐい切れない。

 多量のエネルギーで脳が眩暈を起こしていた。

 周りの木々はぼやけていて、自分でも何を見ているのかわからない。


 「…ぁ」


 ひどい脱力感で、か細い声しか出せない。

 体は溶けるように眠りについた。



 

初めまして、S iです。「S i」と書いて「シー」と読みます。以後お見知りおきを。

さて、小説なんてそこまで触れてこなかった私が、ただの成り行きと勢いのままに連載形式の小説に手を出しました。

理由は、ただ書いてみてたかった、そして自分の中でこの作品は面白いと思った、それだけです。

勢いのままに書き始めたので、表現やら構成やら何から何まで未熟な部分を晒らすかと思いますが、温かい目で見守ってくれればと思います。

あとがきが長くなりましたが、ここまで読んでくれてありがとうございます!

以後も書き続けていきますので、ブクマや高評価をしてくれると嬉しいです!

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