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最後の鉄道員(ぽっぽや)後編〜15歳JKの視点で描く、飛騨一ノ宮駅駅長との世代を超えた友情ストーリー

前編では、飛騨一ノ宮駅の駅長ミオリと、声優を目指す少女ルナの出会いと関係の始まりを描きました。


後編では、ルナの高校生活と夢への挑戦、家族や社会からの反発、そしてそれを支えるミオリとの深い交流が描かれていきます。


そして舞台は、昭和60年3月31日。

無人駅となる飛騨一ノ宮駅の“最終日”。


誰にも知られることのない別れの演出。

少女が自らの声で届けた、駅長への感謝と祝福のアナウンス。


春を告げる臥龍桜のつぼみが、ほんの少しだけ膨らみ始めたその日、

二人は静かに、温かく、そして確かに未来へと歩き出します。

<シーン1:1982年3月/駅長との出会い>


◾️SE:飛騨一之宮水無神駅到着アナウンス(月菜ちゃん読んで)/小鳥のさえずり

「まもなく飛騨一ノ宮、飛騨一ノ宮です」


1982年3月。


あたしは久々野から、休みの日しか乗ったことのない国鉄に乗る。


久々野の次は飛騨一ノ宮。

7分で到着する小さな駅。


飛騨一ノ宮といえば、駅のとこにある臥龍桜か。

臥龍桜を見にいったのは、小さい頃だったけど

この時期、まだ開花の気配すらない。


春の高山祭・山王祭さんのうまつりまであと1か月。

高校に合格したら、今年は友達誘って行ってみよう。

あ、でも4月に入学してそんなすぐ友達ってできるのかなあ。

不安な気持ちがどんどん大きくなる。


今日は高校の合格発表。

パパもママもりんごの剪定作業でバタバタだから

発表を見にいくのはあたし1人。


大丈夫、大丈夫、なんて軽く言っちゃったけど、やっぱり不安、ドキドキする。

そういえば・・・


気がつくと、国鉄を途中下車して飛騨一宮駅のホームに立っていた。


このタイミングで神頼みなんてありえないかな・・・

でも、世界屈指の聖なる場所だから。


「お嬢さん」


「え」


突然声をかけられてうろたえる。


国鉄の制服をきたお姉さん。


【以下前回原稿まま】



「突然ごめんなさい。

飛騨一ノ宮駅 駅長のミオリです」


「あ・・はい」


「なにか困りごと?」


「えっと・・・」


「よかったら、話してみて。

急行のりくらの通過までまだ30分あるから」


「はい・・あの・・」


「うん」


「高山までの切符なんですけど・・・

一ノ宮で降りても・・大丈夫でしょうか・・?」


「降りることは問題ないわよ。

でも、もう一回乗る時は・・」


「大丈夫です。もう一度切符を買うから」


「ああ、そう・・・ごめんね。でも、本当にいいの?飛騨一ノ宮で降りて」


「はい・・・」


「どこか行きたいとこがあるの?」


「飛騨一之宮水無神社」


「水無神社?」


「・・今日高校の合格発表なんです」


「まあ」


「試験終わっちゃってるのに、合格祈願っておかしいですよね?」


「おかしくないわ。

シュレディンガーの猫っていう考え方だってあるし」


「シュレ・・ディンガー・・?」


「あ、失礼。

物理の実験よ。

夫が大学で物理の講師だったから」


「すごい。そんなすごい人がいるんですね」


「うん、もういないけど。この世には」


「あ・・・ごめんなさい!」


「ううん、こっちこそ。話の腰を折っちゃって・・

で、水無神社に参拝してから合格発表を見にいくってことね」


「はい!」


「よし、じゃあがんばって。

跨線橋渡って駅前出たらまっすぐよ」


「ありがとうございます!

あ、あたし、ルナです!

行ってきます!」




「絶対大丈夫だから!ファイト!」


なんか・・・ホントに大丈夫だ、って気がしてきた。

素敵な駅長さん・・・


家を出るときは、パパやママとも顔合わさなかったし・・

りんごの剪定で忙しいからしょんないよね。


あ、合格発表見たら、図書館で調べなきゃ。


シュレ・・ディンガーの猫だっけ・・?

なんか、かわゆいし。



<シーン2:1982年4月/入学式>


◾️SE:国道41号の雑踏/自転車で走る音


ちょっとまだ寒いけど、自転車快適〜!


車の交通量がチョー多い国道41号。

宮峠を越えたら、飛騨一ノ宮まで下り坂。

家を30分前に出れば、楽勝だわ。

あ、でも、帰りはこれが上り坂になるのか・・・


う〜ん。

ま、考えないようにしとこ。


よっし。

町が見えてきたから、あと少しだわ。

10分前には着けそう。

ラッキー。


合格発表から一ヶ月。

あたしはめでたく高校に入学した。

駅長さんと猫に感謝しなきゃ。


猫?

もっちろん、シュレ、ディンガーの猫よ。

ちゃあんと調べたんだから。

猫は生きてる!


飛騨一ノ宮駅から通おうって決めたのも

あのミオリ駅長がいたから!

パパもママも心配して、やめてほしいって言ったけどね。


だって、そうしないと、そうそう水無神社にいけないし。

水無神社の御利益やっばいもん。

飛騨一ノ宮駅から通わないとミオリさんとだって話せないじゃん。


あのあと、久々野駅の駅長さんから聞いちゃったんだよね。


「ああ、一ノ宮の駅長かい?

あんときゃ大変だったなあ」


「あんときって?」


「もう10年以上前の話だけど」


「10年・・・」


「前が見えんくらいの吹雪の日やった」


「うん・・・」


「ミオリさんのご主人と小さい娘が事故でなあ」


「え・・」


「現場が久々野やったから、わしが慌てて知らせにいったんやさ」


「・・・」(※息遣い)


「それでも最終列車を見送ってからだと」


「そんな・・・」


「飛騨一ノ宮駅でたったひとりの鉄道員ぽっぽややったしなあ」


「そんな・・・」


「そのときから、誰も駅長の笑った顔を見たことがないんやさ」


「え・・・」


笑ってたよ。

1か月前。あたしを見て。

あれは笑ってたんじゃないの?

泣いてた、ってこと?


今日は入学式。

確かめるつもりじゃないけど、ちゃんとお話しよう。


なんか、ドキドキしてきた。

もし悲しい顔をしてたらどうしよう・・・

そんなコト考えて走ってたらギリギリになっちゃった。


自転車置き場にマウンテンバイクを止めて駅舎に駆け込む。

改札は開いてる。

駅長さんはホームだ。


跨線橋を走って渡る。

久々野から来た下りの列車がカーブから姿を表す。

階段を駆け降りると、駅長さんの背中が見えた。

私は、思いっきり息を吸い込み・・・


「おはようございます!」


振り返ったミオリ駅長があたしを見て驚く。


【以下前回原稿まま】



「え?え?」


「間に合ってよかったぁ」


「久々野から列車通学じゃないの!?」


「おうちから久々野駅まで自転車通学することにしたんです!」


「ええっ?

41号で?

車も多いから危ないよ」


「やだ。ママとおんなじこと言ってる(笑」


「だって、毎日一之宮まで走るってことでしょ」


「もっちろん。すっごくいい運動」


「朝は下りだからまだいいけど、帰りは上りよ。

毎日宮峠を越えるわけ?」


「それもママに言われた(笑笑」


「だって親なら当然心配よ」


「側道とか走るから大丈夫。部活やんないから毎日定時に帰れるし」


「でも・・」




ミオリ駅長の言葉をかき消すように、あたしの乗る列車がホームに入ってきた。


「行ってきます!」


あたしはありったけの笑顔で手を降り、列車に乗り込む。

駅長は手旗を片手に持ち、列車を送り出す。


「戸閉よし!発車」


◾️SE:飛騨一ノ宮から発車する普通列車ディーゼル



<シーン3:1984年/高校生活の挫折>


◾️SE:朝食の雑踏


「パパ、ママ、あたし、声優になりたい!」


言ったタイミングが悪かったのかもしれない。

パパもママも無条件で大反対。


パパは、ふざけたことをいうな。

ママは、ちゃんとまじめな仕事についてほしい。


って、ふざけてなんていないし。

声優だって、まじめな仕事なんだから。


結局、平行線のまま、学校へ。


あちゃー。まずい。今日三者懇談じゃん。


案の定、先生もおんなじことを言う。


え〜、あたし、演劇部に入ってるんだよ。

部活だって、最初はやるつもりなかったけど、

なんとか夜7時台の列車に乗ることを条件に始めたんだ。


いまさらそれはないじゃん。


もういい。部活なんてやめてやる。

ひとりで、独学で勉強するからいいもん。

スタジオ?

そんなんいらんし。

声を出せるところなんて、どこだってあるから。


泣きながら訴えるあたしの頭の中に

なぜかミオリさんの笑顔が浮かんでいた。



<シーン4:1984年/高校生活>


◾️SE:飛騨一ノ宮駅前の雑踏


【以下前回原稿まま】



「祇園精舎の鐘の音〜諸行無常の響きあり〜

娑羅双樹の花の色・・・」


「あら」


「あ」


「まだ帰ってなかったの?」


「はい・・・」


「平家物語?朗読のお勉強?」


「課題、なんです」


「課題?

へえ〜。最近の高校ってレベル高いことするのね」


「いえ、学校の課題じゃなくて」


「ほう」


「東京の声優事務所です」


「声優?

洋画の吹き替えとか、そういうの?」


「まあ、そんな感じ。アニメもあるけど」


「アニメって、あのラムちゃんとか・・」


「はい。来月養成所の試験があって、課題が平家物語なんです」


「おもしろそうねえ」


「え?反対しないんですか?」


「だって、ルナちゃんがやりたいことなんでしょ」


「そうですけど・・

周りはみんな反対で。

家でも練習できないから一ノ宮駅のベンチで声を出してたんです」


「そっかぁ。がんばって」


「ミオリさん、なんでそんなに優しいんですか?」


「ルナちゃんには自分の人生をちゃんと生きてほしいもの」


「ありがとうございます」




あたしの思いを理解してくれたのはミオリさんだけだった。

ちゃんと目を見て話す言葉に嘘偽りはまったくない。


なんだか、ミオリさんが自分のママのように思えてきた・・・


飛騨一ノ宮駅駅長と声優志願の女子高生。

2人の不思議な交流はあたしが卒業するまで続いた。



<シーン5:1985年/卒業式>


◾️SE:飛騨一ノ宮駅のホーム


「おめでとう」


卒業までは、あっという間。

1985年3月。

あたしは卒業式の日を迎えた。


【以下前回原稿まま】



「3年間、本当にがんばったね。

雨の日も雪の日も、毎日宮峠を越えて」


「ミオリさんのおかげです」


「なあに言ってんの。

お父さんお母さんに感謝しなきゃ」


「はい。でも勇気をもらったのはミオリさんですから」


「やだなあ。うるうるさせないでよ。

卒業式、お父さんとお母さんは?」


「今年、りんごの剪定が遅れてて、

いまみんなで作業してるんです!」


「そうかあ。

あ、そうそう。カメラは持ってきてるの?」


「いえ、剪定の記録写真撮るからって借りれなかった」


「あら、じゃあ駅のコンパクトカメラ貸してあげる」


「ホント?」


「フィルム入れたばっかりだから36枚しっかり使えるはず」


「ありがとうございます!」


「晴れ姿をしっかり残してご両親に見せてあげてね」


「はい!白線流しも撮ってきます」




ミオリさんはにっこり微笑んで、指でOKマークを作った。

かわゆい。

なんて、失礼かな・・


白線流しが終わっても、なんだかすぐに帰る気にはなれず、

夕方まで図書館で本を見てた。


養成所に通うようになったら、いっぱい引き出しを作っとかなきゃ。

ボキャブラリーを増やして、時事問題にも目をとおして・・


そう思いながら、入口に並んだ新聞の棚を見ていく。

すると目に飛び込んできたのは・・・


飛騨一ノ宮駅無人化の見出し。


え?

無人化?

じゃあ、駅長さんは?ミオリさんは?

どうなるの?


ショックでしばらく何も考えられなかった。


結局高山から普通電車に乗ったのは、いつもの時間。


飛騨一ノ宮駅のホームに降りるとミオリさんが旗を持って立っている。

あたしは自分の気持ちを気取られないように平静を装う。

私たちは静かに握手をして別れた。


ミオリさんの優しい笑顔が悲しい。


改札を出てそのまま自転車置き場へ。


自転車のカゴになにかある・・・


え?


それは、カゴからはみ出しそうな花束。

ピンクと黄色のチューリップに添えられた、カスミソウとスイートピー。

小さな手紙も添えられていた。


『今までの時間をありがとう。素敵な友情でした。東京へいってもがんばって。

きっと成功するよ。希望を忘れないで』


それまで我慢していた思いが爆発した。


あたしは駅長室に飛び込んでいく。


あふれる涙を拭おうともせず、ミオリさんに抱きついた。


「ミオリさん!ホントにホントにホントにありがとうございました!」


「うん。うん。おめでとう」


ミオリさんも、目に涙をいっぱいためてあたしを抱きしめる。

私の心の中で、臥龍桜から満開の花吹雪が舞っていた。



<シーン6:1985年3月31日/飛騨一ノ宮駅無人駅へ>


◾️SE:飛騨一ノ宮駅のホーム


あたしはまだ高山にいる。

東京へ行くのは、養成所のレッスンが始まる前日からにした。


卒業式の翌日、いても立ってもいられず、久々野駅へ。

駅長さんに飛騨一ノ宮駅のことを詳しく教えてもらった。


無人駅になるのは、4月1日から。

駅の業務は、3月31日の終電まで。


しかも最後なのは駅長の仕事だけじゃない。

ミオリさんは早期退職を申し出て、3月31日で国鉄も辞めちゃうんだ。


知らなかった・・・

なんで言ってくれないの?

そりゃ、他人だもの。

伝える必要なんてないかもしれないけど。


あの日、間に合わなかった命の灯火。

でもそれは、ミオリさんのせいじゃない。

あたしが娘だったとしても、絶対に恨んでなんかいない。

だって、自慢のおかあさんだもの・・・

おかあさん・・・

え?


一週間前。

お別れのセレモニーを担当するスタッフを久々野の駅長から紹介してもらった。


誰もいない深夜の飛騨一ノ宮駅。

静寂の中で、最後のアナウンスを録音する。

大丈夫。

うまくいくわ。

だって、あたしは声優なんだから。

あたしの思いをマイクに向かって絞り出す。

1時間以上かけた収録は久々野の駅長も立ち会ってくれた。


1985年3月31日。


ミオリさんはいつも通りに駅務をこなし、最終列車の時間が近づいてくる。


まずは上り高山方面の最終列車を送り出す。

そして、下り岐阜方面の最終列車をホームで待つ。


気づかれないよう、そっと駅長室へ。


やがていつのように踏切が鳴り始めた。


あたしは、案内放送の再生ボタンを押す。

ホームには最後のアナウンスが流れる。


”まもなく2番線に美濃太田みのおおた行き上り普通列車がまいります。

白線まで下がってお待ちください”


”いままで飛騨一ノ宮駅をご利用・ご愛用いただき、本当にありがとうございました”


え?


ミオリさんの表情が固まる。


”ミオリ駅長、おつかれさまでした!”

”ずうっと飛騨一ノ宮駅を見守っていただき、ありがとうございました!”

”お体に気をつけて、ずっとずっと笑顔でいてください!”


スピーカーを見上げるミオリさんの頬を涙が伝っていく。


あたしは用意した花束を抱えて、改札から2番ホームに駆けていく。

あふれる涙なんて気にすることもなく。


「ミオリさん!」


「おつかれさまでした!」


「もう〜。驚かせないでよ」


「入場券買わずに入っちゃった」


「いいわよ。もう誰もいなくなるんだから」


「長い間、ごくろうさまでした」


「なあに、あらたまって」


「あたしとはたった3年だったけど」


「その3年のおかげで、いまの私があるのよ」


「あたし、絶対忘れないから」


「私も」


「ありがとう」


「こちらこそ。

声優の仕事、がんばってね」


「うん」


「東京、遊びに行ったら案内してよ」


「もちろん。

あたしが出演するアニメも楽しみにしてね」


「VHS全巻買うわ」


「(笑い声)」


「(笑い声)」


最後の下り列車を見送ったあと、私たちは手を握っていつまでも語りあう。

あたしの心の中で

臥龍桜からピンクの花びらが舞い、風に吹かれて空へ上っていった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


『最後の鉄道員ぽっぽや』は、昭和の終わりに消えゆく地方駅と、そこに生まれたささやかな人間関係を描いたフィクションです。


駅を守り続けたミオリと、その駅に通い続けた少女ルナ。

二人の3年間の記憶は、時代の変化を越えて、心の中に今も咲いていると信じています。


駅に咲く花のように。

ホームに響く声のように。


もしあなたの心にも、臥龍桜が咲いたなら、これ以上の幸せはありません。


声優・小椋美織さん、坂田月菜さん、日比野正裕さんによるボイスドラマ版は、Spotify、Apple Podcast、Amazon Musicなどで配信中です。

ヒダテン!公式サイト(https://hidaten.com/voicedrama/)もぜひご覧ください。


心より感謝を込めて。

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