卒業旅行〜サプライズの向こうに、ふるさと嫌いなはずの彼が案内してくれた場所で、私は恋をした──って言ったら信じますか?
春の卒業旅行──東京の大学で出会った仲間たちが、旅の行き先に選んだのは「飛騨高山」。
だが、その中にひとりだけ、高山出身であることを隠していた青年がいた。
彼のあだ名は「ロック」。
だけど彼の“ロック”な生き様の奥には、優しい祖母への想いと、ふるさと・清見町への複雑な感情があった。
これは、ひとつの手紙から始まる、ちょっと照れくさくて、あたたかくて、胸がぎゅっとなるボイスドラマ。
清見ロックの物語、はじまります。
<『卒業旅行〜サプライズの向こうに』>
【ペルソナ】
・リク(22歳)=東京の大学4年生/高山出身/出身は隠している(CV:田中遼大)
・ミサキ(22歳)=東京の大学4年生/秋田出身/リクの同級生(CV:小椋美織)
・祖母(75歳)=清見町で野菜農家を営む(CV:中島ゆかり)
【資料/清見の野菜/道の駅ななもり清見】
https://nanamori.jp/vegetables
【資料/清見町】
https://www.hidatakayama.or.jp/hidakiyomi/
[シーン1:リクのアパート/ばあちゃんからの手紙】
リク
今度の高山祭は帰ってこれるんか?
ばあちゃん、足腰弱くなって、
トマトもそうそう摘まれへんようになったわ
歩くことも、どもならんようになってきたから
もう東京へは行けん
生きとるうちにもう一回リクの顔がみたい
大学、忙しいやろうけど、無理はせんようにな
元気で暮らせよ、リク
ばあちゃんからの手紙。
春と秋。
祭が近づいてくると、必ず送ってくる。
しかも文面は毎回同じ。
コピー?
と思ったけど、毎回ちゃんと書いてんだよな。
ばあちゃん
オレがどれだけ頼んでも、頑なにLINEでなくて、手紙だ。
手元に残らんと伝わらん、と言って。
『高山祭』を帰る理由にして送ってくるけど
うちは高山の市街地じゃなくて、清見町。
野菜作ってる農家やないか。
飛騨牛食べに帰ってこい、とか
トマトの収穫、手伝いに来い、とか、そっちじゃね?
・・・なんて、悪態つくつもりは毛頭ないんだけど。
だってばあちゃん、飛騨牛なんてしょっちゅう送ってくれるし、
毎年2月になるとトマトやほうれん草の入ったでっかい箱が届く。
ほうれん草はオレの大好物だから・・
バイト暮らしの貧乏学生にはもったいないほどのごちそうだ。
おかげで体力もりもり。風邪ひとつひかん。
ばあちゃん、オレだってホントは帰りたいんや。
ばあちゃんの顔、見たいんやさ。
[シーン2:渋谷ミヤシタパークのカフェ/同級生のミサキ】
◾️SE:カフェの雑踏
「卒業旅行の候補、考えてきた?」
「あ、忘れてたわ」
「もう〜、今日みんなで決めようって言ってたじゃない。
ちゃんと覚えてる?」
眉間に皺を寄せて、ミサキがあきれる。
渋谷のスクランブル交差点。
が、見えるカフェ。
の、窓際の席。
向かいに座っているのは、同じ大学のミサキ。
午後の講義が休講になったおかげで、二人ゆっくりお茶を飲んで過ごす。
普段は慌ただしく過ぎていく大学生活。
こういう何気ない時間、意外と貴重だったりして。
「えーっと、私カフェラテ。ロックは?」
「ちょ、その呼び方やめれ」
「なんで?いいじゃん。ロックなリク」
「ロックじゃねえし」
「ロックな生き方、してるでしょ」
「してねえよ」
「ほう〜ら、ロックだ」
「ワケわかんね」
「ふふふ」
笑いを噛み殺しながら、
ミサキは、ショートカットにしたばかりの髪をめんどくさそうに耳にかける。
ロック、と呼ぶのはミサキだけだ。
まったく。
オレのなにがロックな生き方なんだよ。
「卒業旅行、どこ行きたいの?」
メニューをオーダーするのと、同じテンションで聞いてくる。
「せっかくだから、思い出に残る場所がいいな。
ありきたりの観光地じゃなくて」
「えー。オレ、ハワイかグアムがよかったなあ」
「卒業旅行で?
いくらかかると思ってるの?
この円安の時期に」
「だって一生に一度の卒業旅行だぞ?
お金の問題じゃないだろ」
「私、飛行機無理だから」
「じゃそもそもダメじゃん」
「当然国内旅行よ。
行ったごどねどご。(行ったことないとこ)
私、実家が秋田だから、東より西の方向がえなあ(いいなあ)」
「西か・・・」
「でも距離的には、関西より向こうはやだ」
なんか、近づいてないか・・
「大自然の中の温泉とか、くつろげるとこ」
おっと。
「もちろん、美味しい料理ってのは必須で」
「そ、そうだな・・・」
「実はね、昨日ちょっと調べてみたの」
ドキッ。
「城崎温泉。和倉温泉。おごと温泉。白骨温泉」
「みんな温泉じゃねえか」
「だって癒されたいんだもん」
「どこもアクセスがめんどくさそうだな」
「それがいいんじゃない。
秘境の旅。
何時間もバスに揺られていくのよ」
「車酔いするからやだ」
「情けないなあ」
「あ、それ差別発言」
「どこが。
あー、やっぱ美味しいもん食べたいかな」
「最初からそこだろ」
「その雑誌みせて」
「ほいよ」
「へえ、旅グルメ特集だって」
「旅グルメか・・」
◾️SE:雑誌をめくりながら
「浜松のうなぎ。名古屋の味噌カツ。京都の湯葉料理。大阪はコナモンかあ・・」
「いまひとつピンとこねえな」
「そうだね、なんだろう・・・なんか足りないような・・」
「肉、じゃね」
「そう!肉!肉旅!」
「それな」
「出てるわよ、いろいろ。
松坂牛。近江牛。神戸ビーフ。但馬牛・・」
「そんだけ・・?」
「まだある。えっと・・ヒダギュウ・・?
なに?」
「知らないのか」
「どこの牛?」
「高山だよ」
「タカヤマってなに?」
「え?」
「高尾山、みたいな感じ?」
「ちげーよ。
インスタで調べてみな」
「そうする。
(一拍おいて)
あ、これか・・・」
「ああ」
「なんか・・・すごいじゃん!」
「そうだ」
「見るもの、すっごいある」
「だろ」
「高山祭。古い町並。朝市。そして、飛騨牛!」
「うん」
「卒旅、高山にしよう!」
「お・・・おう」
「ひっだっぎゅう〜!
きめ細かく柔らかい肉質と、口の中でとろけるような霜降り、
だって!
高山行けば食べれるんだよね」
「まあな。
ま、高山は高山でも、飛騨牛のふるさとは『清見』だけどな」
「ロック、あんたなんでそんな詳しいの?」
「オレの・・・実家だから」
「え〜〜〜〜〜」
◾️友だちのエキストラガヤ「お待たせ〜」「おっつかれ〜」など適当に
清見のこと、説明しようとしたとき、授業が終わってみんながやってきた。
結局、卒業旅行の行き先は、全員一致で『高山』。
『飛騨牛』は出たけど『清見』の名前は出なかった。
ま、こんなもんか。
[シーン3:卒業旅行初日/高山駅】
◾️SE:高山駅の雑踏
「きたぞぉ〜!たかやま〜!!」
◾️友だちのエキストラガヤ「おお〜」「高山だ〜」など適当に
深呼吸しながらミサトが声をあげる。
オレもつられて、大きく背伸びをした。
総勢10名。
気の合う仲間と訪れた高山。
いや、久しぶりに帰ってきた高山。
あのあとミサキは、オレの実家が清見だってこと、誰にも言わなかった。
なんでだろう・・・
でもまあ、よかったかな。
旅行ガイドみたいなことしなくてすんだし。
だってオレ、話をするの、あんま得意じゃねえから。
まずは、観光コンベンション協会へ。
地元のリアルタイム情報をゲットしてと。
高山/陣屋から中橋を渡って、古い町並へ。
「うわあ、京都の祇園みたい」
「だから”飛騨の小京都”って言うんだよ」
「食べ歩きしてたら、ここで1日経っちゃうよ〜」
オシャレなカフェで一休み。
このあとみんなは、安川通を渡って桜山八幡宮へ行くそうだ。
日本酒好きなミサキとオレは、別行動で酒蔵めぐりへ。
「ちょっとちょっと。花酵母だって」
「ん〜。甘くてジューシー。たまんな〜い」
幸せそうな顔で試飲する。
来てよかったな。高山。
清見には帰れそうもないけど。
ばあちゃん。元気かな・・・
[シーン4:卒業旅行最終日の朝/ホテルのロビー】
◾️SE:ホテルロビーの雑踏/朝の小鳥のさえずり
「ロック、おそ〜い!」
「なんだよ、朝から。
朝食バイキングはもうちょっとあとだろ」
「いいから来て」
卒業旅行最終日の朝。
ミサキからホテルのロビーに呼び出された。
「あのね。
怒らないできいてくれる?」
「な、なんだ、その言い方?やめてくれよ」
「高山駅に着いた日、あなたポッケから大事なもの落としたの、気づいてた?」
「大事なもの?・・・・・あ!」
「おばあさまからの手紙。
すぐに渡そうと思ったんだけど、ロックったらどんどん先に行っちゃうんだもん」
「ああ・・・そうだ・・」
「結局私も忘れちゃって、その日の夜に思い出したの」
「お、おう」
「すごく悩んだんだけど、半分手紙の中身が見えてて」
「・・・」
「悪いと思いながら(も)、読ませてもらったわ」
「そっか・・・」
「で・・・」
「なに?」
「一歩前へ」
言われるまま、目の前のソファの方へ歩いていくと・・・
「リク、おかえり」
「ば、ばあちゃん!?」
「今朝、ミサキさんが迎えに来てくれたんやさ」
驚いて振り返ると、
ミサキが人差し指にレンタカーのキーをはさんで、くるくる回してる。
「ばあちゃん、足腰弱って歩けないんじゃなかったの?」
「ああ、東京は無理やけど、高山くらいなら大丈夫や」
「なんや、それ」
「ここへ来る途中、おばあさまと話したの。
そしたら、清見でブルーベリー狩りさせてくれるって」
「ブルーベリー狩り?
いつからそんなしゃらくさいもん始めたんや」
「ほんだけやないぞ」
「お知り合いの工房で木工体験もさせてもらえるんですって。
オシャレなカフェまで教えてもらったわ。
レンタカーでせせらぎ街道、早く走ってみたい!」
「お昼は道の駅で、飛騨牛食べてもらわんとな」
「ったく、知らん間に・・・」
そう言いながら、つい口元がゆるむ。
「みんな、楽しみでしょうがないって!」
「みんな?」
◾️友だちのエキストラガヤ「サプラ〜イズ!」
え?え?ええ〜っ!?
「ゆうべみんなで、今日の予定決めたの!
清見へ行こうって」
「オレをハバにしやがって・・」
ソファに座るばあちゃんを囲んで、
友達みんなが笑い合う。
ばあちゃんのこんな笑顔。
何年ぶりに見ただろう。
うるっとするのを悟られないように、視線をはずしながら
横で微笑むミサキに耳打ちする。
「なあ、今度はお前のふるさとにも行ってみようぜ」
「え?
・・・秋田?」
「うん。秋田もいいとこなんだろ。行ってみたいな」
「うん・・・
じゃあ・・・2人だけでいく?」
「えっ?」
「うふふ・・・冗談よ」
冗談とは思えなかった。
変わっていくものも、変わらないものも、すべてが愛おしい。
朝のやわらかい光が、オレたち10人とばあちゃんの笑顔を照らしていた。
ようし、みんな!
清見のいいものぜ〜んぶ、オレが案内してやる!
だって、オレはロック!
清見ロックだから!
「ヒダテン!」キャラクター・清見ロックことリクの物語、いかがでしたか?
清見町の魅力と、祖母とのつながり、そして仲間との未来を描いた今回のストーリーは、
“卒業”という人生の節目にあらためて大切なものを思い出させてくれる一作になりました。
飛騨の野菜、木工体験、せせらぎ街道のドライブ──清見の魅力、あなたも感じてみませんか?
次回の旅先は、あなたのふるさとかもしれません。