麒麟と魔王
目を覚ますと暗い温度を感じない空間にいた。
遠くに明かりが見えたので歩いて行くと眩しいほどの光の中で数人の男女が談笑しているのがわかった。
ここはなんなのか、そう尋ねたかったが、そんな雰囲気ではなかった。そう考えていると、談笑している人の中から1人こちらを向いて歩いてくるのが分かった。
「ここは……」
そう言いかけたとき言葉にかぶせるよう話しかけてきた。
「ようこそ明智光秀、でいいんだよな」
「さよう、私は明智光秀だが……」
また言葉をかぶせてきた。
「ここは夢の中だ、そして君は寝ている。私たちは君の夢の産物だよ」
そう、だよな、私は神から話しかけられているのだから、夢の中だろう。
現実主義者の明智光秀はこれをそう理解した。
「それで摩利支天様は、何か私にお話があるのですか?」
少し腰をかがめて頭を下げ神に礼を示した。
「話が早いな。
魔王がおってな、お前たちの世界を征服しようとしている、それを退治してほしいのだ」
「それは、私に出来るのでしょうか?
確かに私は強い軍隊を持っており幾多の戦いにも勝利してきましたが……魔王とは、人とはわけが違う」
そう言い終わるともう一人の神がこちらに歩いてきて……
光秀はこの奇妙な話を重臣の一人である斎藤利三に話した。
「魔王ですか!」
カカカッと口を大きく開けて笑いながら、
「魔王とは織田信長ですな、その摩利支天様は下剋上をしろとおっしゃるか!」
光秀は、答えずに眉間に深いシワを寄せて苦笑いをして見せた。そもそも斎藤はもと織田信長の家臣であった。
「夢の話だ、忘れてくれ」
だが重心は興奮した様子で話を続けた。
「私、殿の口からそのような言葉を聞けてうれしく思いまする。
下剋上は戦国の常にして何ら問題はありますまい、ですがその日まで秘めておくもの、極秘にて準備をしておきましょうぞ」
重心は大義名分を探すため草に命じ信長を見張らせた。
草の報告を待つまでもなく、僧兵を皆殺しにして門徒の信者を皆殺しにしたところを目の当たりにした光秀は憤りを感じていた、だが民衆は信長に熱狂しており大義名分とは行きそうもない。
数日して宣教師が数人訪ねてきた。
「もう手が付けられない、あなたの命令を待っていた聖騎士達、こちらでは僧兵と言うのだったか、皆殺しになった」
さらにもう一人の宣教師が話し出した。
「信徒を血祭りにして民衆を怒られるどころか皆あまりにも残虐な行いに言葉を失ってしまっている」
光秀は同じ夢を見ていたかのような宣教師達の言葉に神の存在を感じ、思わず言った。
「お前達は味方なのか?」
「そうだ、だが私達はじきに信長に殺される。
想像できる最も残酷な方法で殺される」
光秀は宣教師たちの目を見ながら言った。
「私には助けることができないだろう、国を出ろ、そしてお前達の神に助けを求めよ」
「これは神が私達に授けた試練だ」
黙っていた年配の宣教師が重い口を開けて言った。
「・・・・仏教神は怒っている。あるいは法を破って明智光秀殿の味方をするやもしらん。
だが私の神は干渉しない、その代わりこの国を数百年閉鎖するだろう。
魔王がのりついた人の皮が腐りまた別の人に乗り、これを繰り返し力弱まるまで・・・・」
宣教師達は地獄への階段を降りていくような重い足取りで城を出ていった。
いまだ確信が無かったが、光秀は娘を宣教師達の出入りする大名に嫁入りさせた。
草達は何人も行方知れずとなりやっと帰ってきた者は怯えきっていた。
「信長は人の脳味噌をワインと言って髑髏をすすりながら飲んでいる。
人ではありません。
羽柴秀吉も寝ずに働き続けるその人離れした能力、人ではありません。
猿と呼んでいますが、よくよく聞くとサタンとも聞こえると宣教師達が気味悪がっています」
ほどなくして国替えを命じられた明智光秀は、自分達が織田信長が魔王であると疑っていることを知られたと思った。