05 いもうと
「え、美晴さんってあのしらはるさんなの!?」
あれからは夜桜家のみんなと美晴とで交流がなされ、今現在も楽しそうに会話を繰り広げている。
「そ、その呼び方はやめてくださいーっ!!」
突然の愛称呼びに美晴は全力の否定を投げかける。
だがその言葉は誰にも届かず、今度は遥輝の父親の遥斗があまりわかっていなさそうに話し始めた。
「しらはるってもしかして香織がいつも読んでる雑誌に載ってる人?」
「そうそう。しらはるさんのファッションはいつも参考にさせてもらっているの」
「ふ〜ん…凄い人なんだな、しらはるさんは」
「だからその呼び方は舐めてください〜!!!」
とうとう美晴は立ち上がり、2人の近くまで行ってそう叫んだ。
「あはは…ごめんごめん。ちょっと面白くなっちゃって」
軽く笑みを浮かべながら謝罪をする遥斗を見て、遥輝はこれはチャンスだと思った。
「父さんも大概性格悪いよな」
そう、これならナチュラルにディスれるのだ!!
しかも今はすぐ側に美晴がいるから怒りにくいだろう!!
(勝った__!!)
そう思っていた時、遥斗が立ち上がってこちらにやって来た。
「よし、今日から俺と『ドキドキ⭐︎足が無くなるまで沖縄旅行⭐︎』に行くか?」
「本当に申し訳ございませんでした」
うーん、作戦失敗。
というか、やっぱり病人に対する躾け方ではないよな!!
遥香もこんな感じだったし!!
やっぱ君ら、親子だね。
(つまり…俺は母さんに似てるってことか…)
遥輝は助けを求めるように香織を見つめる。
「…どうしたの?」
「タスケテ…」
「はぁ…仕方ないわね」
香織は先から立ち上がり、身体を伸ばして頭を撫でてきた。
「大丈夫よ。あなたには私がついてるわ」
「母さん…」
微笑みながら頭を撫でてくる母の姿を見て、遥輝は思わず心が温かくなった。
(これが…ぼせい…??)
そしてなぜか幼児退行し、遥輝は母親にあやされる赤子のようになってしまった。
「よしよし、えらいわねー」
「まま」
「はーい?♡」
そして、全く動いていない頭で遥輝の本音が炸裂する。
「いもうと、ほちい」
「「「__っ!?」」」
遥輝の衝撃的な発言に、遥香以外の全員が身体を大きく跳ねさせた。
「い、いもうと…?」
「いもうと」
「いもうとって…もしかして妹…?」
「いもうと」
普段は落ち着きがある香織も今回ばかりは流石に戸惑ってしまい、思わず遥斗に視線を送ってしまった。
目が合った遥斗は即座に目を逸らし、露骨に口元を隠した。
「…お、俺は…別にいいと思うけど…?」
「っ!?」
「香織がいけそうなら…俺は全然構わないけど…」
「〜〜♡」
2人はいよいよ自分達だけの空間に入り込み、ハグをして至近距離で話し始めた。
そして当然、香織の手は遥輝の頭から離れてしまったので、遥輝は精神年齢が追いついた。
「ハッ!?俺は一体何を…って何この状況」
「あなたのせいよ」
「え、マジで何したん俺」
「妹が欲しいって言ったのよ」
「いやそれはわかってるって。だから俺が何をやらかしたのかって訊いてんの」
「え?」
「え?」
なんか話が微妙に、いや絶望的に噛み合っていない気がする。
そのことをいち早く察した遥香は当然の質問を投げかけた。
「えーっと…妹が欲しいって言った自覚はあるのね?」
「もちろん。事実思っているわけだし」
「あ、思っているのね」
「それはもう。姉さんみたいな凶悪なモンスターより小さくて可愛い妹が欲しいに決まってるじゃん」
もう一度腹を殴られるぐらいの覚悟でそう言うが、遥香の手からは何も出てこなかった。
「相変わらずロリコンのようね」
うん、口から出てきちゃった。
それは、言ったらダメなヤツだろ…!
「いやロリコンちゃうわ。年下好きなんだよ」
「それをロリコンって言うのよ」
「いや言わないね」
「いいえ言うわね」
そうやって姉弟は無様な言い合いを始めた。
そして依然として遥斗と香織はいちゃついており、いよいよ美晴に居場所は無くなった。
一人ぼっちで悲しく体育座りでもしているのかと思うが、彼女はそんなタマではないようで、堂々と顔を突っ伏して自分の考えに集中していた。
(遥輝くん年下好きなの!?嘘でしょ…私、今日から永遠の16歳になろうかな…)
美晴はよくアイドルとかがやるサバ読みを活用して合法的(?)に遥輝の年下になることを企むのだった。